キヤノンは,インクジェット・プリンタ「PIXUS」シリーズ7機種を発表した(発表資料,図1,図2)。複合機4機種と,単機能プリンタ3機種で,2005年10月上旬に発売する。このうち6機種で,インク滴が最小1plとなる新しいインクジェット・ヘッドを採用し,最高解像度9600×2400dpiを実現した。同社の従来品は,最もインク滴が小さいもので2pl,解像度は最高で4800×2400dpiだった。
キヤノンは国内の家庭用プリンタ市場において,2005年第4四半期に50%のシェアを確保し,通年のシェアを47%にするという目標を掲げる。今回の発表会では,家庭用プリンタのシェアを争うセイコーエプソンらを意識した優位点を強調していた。その1つが,同社の半導体露光装置(ステッパ)をインクジェット・ヘッドの製造に生かせていること。もう1つが,複写機事業で開発した画像処理技術を家庭用プリンタ,特に複合機に搭載していることである。
ノズル数を約2倍に
9600×2400dpiを実現したインクジェット・ヘッドは,染料インク(6色または4色)と顔料インク(黒色のみ)の両方のノズルを1チップ上に形成したもの。穴径が9μmのノズルとインクの流路はフォトリソグラフィで形成する。
1990年代後半からフォトリソグラフィ技術でインクジェット・ヘッドを製造してきたキヤノンは,「競合他社の機械的な加工技術には限界がある」(同社 取締役でインクジェット事業本部長の清水勝一氏)と余裕を見せる。今回開発したインクジェット・ヘッドの製造に使うのはi線ステッパである。0.35μmルールで設計したLSIの製造で中核となった装置だ。ステッパはさらに微細な加工ができるKrF,ArFタイプが実用化されているが,インクジェット・ヘッド製造にはi線タイプで十分だという。「1plの粒で人間の可視化限界に達したからだ。インク滴をこれ以上小さくする必要はなくなった」(清水氏)。今後の開発のポイントは高速化だとする。
解像度を高めながらも印刷に掛かる時間を伸ばさないために,ノズルを並べる幅(ノズル長)を広げた。複合機の主力製品とする「MP500」では,2004年秋に発売した同クラスの機種と比べて,染料インクのノズル長を約2倍(約0.43インチ)に,顔料インクのノズル長を約1.6倍(約0.85インチ)にした。それぞれ512個のノズルを並べた。従来品はノズル数が1856だったが,今回のMP500ではノズル数が3584と2倍近くに増えた(図3)。圧電素子でヘッドを実現する方式に比べて「ノズル数を増やした場合のコスト上昇が少ない」(発表会場の説明員)こともフォトリソグラフィの利点とキヤノンは主張する。
コピー機能に複写機の技術を投入
キヤノン製品のユーザーに対する調査では「『買い替えるなら複合機がいい』とするユーザーが半数を超えた。複合機で最も求められている機能は写真や文書の『コピー』だった」(キヤノン販売 常務取締役でコンスーママーケティングカンパニー プレジデントの芦沢光二氏)。コピー機能には,キヤノンが複写機向けに開発した画像処理技術を盛り込んだ。
1つが,文字と画像の部分を判別する「像域分離技術」である。スキャナで読み込んだ原稿の文字部分と画像部分を自動的に判定し,文字部分はくっきりした黒色の顔料インクで印刷するといった処理を実行する。また,元の原稿をコピーした紙を再度コピーする,いわゆる「孫コピー」においても,文字などの境界線がはっきりと残るようにした。詳細は明らかにしなかったが,文字を認識して再現する処理と,顔料インクの採用が貢献したという。このほか,新聞紙をコピーした場合には下地を白くし,雑誌をコピーした場合には裏写りを低減するといった,原稿を自動で判別して適切な画像処理を行う機能も搭載した(図4)。