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 ソニーは,MRAM(magnetoresistive RAM)の基本素子であるTMR(tunneling magnetoresistive)素子の記憶層の磁化を電子スピンのトルクで反転させる新型メモリー「Spin-RAM」を開発した。0.18μmルールのCMOSプロセスで形成した4Kビットのセル・アレイで,書き込み時間2ns,書き込み電流300μA,動作回数105回を実証した。2005年12月5~7日に米国で開催される「2005 International Electron Devices Meeting(2005 IEDM)」の新型ナノ・デバイスのセッション(論文番号:19.1)で発表する。

スピン・トルクで書き込み,微細化時の消費電力増大を抑制

 「Spin-RAM」では,TMR素子の記憶層(フリー層)の磁化を,素子を流れる電子のスピンが持つトルク作用によって反転させてデータを記憶する,いわゆる「スピン注入磁化反転法」を利用する。書き込み線に流す電流が発生する磁界によって磁化反転させる通常のMRAMでは,磁化反転に必要な電流値はTMR素子の寸法に反比例する。つまり,素子を微細化して集積度を上げると書き込み電流が増大してしまう。これに対し,スピン注入磁化反転法では磁化反転に必要な電流密度が一定であるため,素子の微細化に伴って書き込みに必要な電流値は減少する。

 スピン注入磁化反転法は,1996年に米IBM Corp.が提案したもので,以来10年間,MRAMの研究者が中心となって盛んに研究を進めてきた。これまで,素子に通電させる電子スピンの向きの偏りの度合い(上向きスピンを持つ電子数と下向きスピンを持つ電子数の比)が小さかったために,磁化反転に必要な電流密度(臨界電流密度)が107~108A/cm2と大きく,このことがこの手法のMRAMへの適用を妨げていた。ところがここにきて,素子構造や薄膜品質の改良などにより,東芝と東北大学がそれぞれ106A/cm2台,日立製作所と東北大学の共同グループが105A/cm2台での磁化反転に成功するなど,臨界電流密度が低減している(Tech-On!関連記事)。

 ソニーのTMR素子は,二つの強磁性層をCoFeB,トンネル絶縁膜をMgOで構成しており,日立と東芝の共同グループのものと類似の構造である。素子寸法100×150nm,4Kビット・アレイにおいて300μAで磁化反転していることから,単純な計算では素子当たりの臨界電流密度は5×106A/cm2程度と見積もられる。

 繰り返し耐性の点では,書き込み時間100nsで105回動作させた場合,高抵抗状態と低抵抗状態でのTMR素子の抵抗値のバラつきを共に1%以内に抑制できた。