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 ブラザー工業は,同社の子会社で通信カラオケ事業などを行うエクシング,産業技術総合研究所,早稲田大学と共同で,インターネット経由のコンテンツ配信技術「CDG(contents delivery by grid)システム」を開発した。この技術を使うことで,音楽や映像のオン・デマンド配信など,多数の配信先への大容量のコンテンツ配信を低コストで実現できるという。コンテンツの配信先に当たる端末としては,インターネットに接続できるパソコンやセットトップ・ボックス,DVDレコーダなどのデジタル家電などを想定,自らサービスを手がける可能性や提携先との協業を探る(図1)。具体的な提携先は未定で,これから売り込んでいく。

 従来のインターネットを介したコンテンツ配信の場合,コンテンツはサーバ機に保存されており,各端末からの要求に応じたコンテンツの配信は一括してサーバ機が処理していることが多い。端末からのアクセスがサーバ機に殺到すると遅延が発生したり場合によってはシステムが休止してしまったり,といった問題が生じる。実際,携帯電話機向けの着信音の配信サービスを行うエクシングによると,容量の大きい着信音をダウンロードする際に4秒~5秒応答がないなど,ユーザーには応答性に対する不満があるという。こうした状況を解決するには,端末数が増えると多額の費用をかけてサーバ機やサーバ接続用回線を増強しなければならなかった。

サーバ機やサーバ接続用回線の増強を不要に


 CDGシステムではコストを抑えるため,3つの工夫により端末数が増加してもサーバ機やサーバ接続用回線の増強を不要にした。その1つが,データをネットワーク上の端末に分割して保存する「グリッド・ストレージ」の技術を利用したことだ。配信するコンテンツはサーバ機だけでなく,分割して各端末が持っているキャッシュに保存する。あるコンテンツをどの端末が持っているのかといった保存場所の情報は,「ルートノード」と名付けた一部の端末に記憶させて管理する。あるコンテンツが欲しい場合,ルートノードにコンテンツの保存場所を問い合わせると,ルートノードはそのコンテンツを保存する問い合わせ者の最寄りの端末を通知する。要求を出した端末はその通知に従いコンテンツをダウンロードするので,もともとデータを備えていたサーバ機とのやり取りは発生しない(図2)。

 もう1つの工夫が,アクセス頻度の高い,人気のあるコンテンツほど多くの共有キャッシュに保存される仕組みを導入したことだ。各コンテンツにはアクセスが多いほど値が大きくなるような評価関数がメタ・データとして付いている。各端末はこの評価関数値と端末が持つキャッシュ容量,既に保存しているコンテンツのデータを比較してそれぞれのキャッシュにコンテンツを保存するか否かを決定する。

 問い合わせやダウンロードの経路が1つではなく複数あることも,回線の増強を不要にする。同じコンテンツを複数保存するなどの冗長性を持たせることができ,回線に何らかの障害があれば他の端末に問い合わせたり,他の端末からダウンロードしたりできるため,障害を回避できる。端末数が100万台の場合,平均6個の端末を経由することでルートノードへの問い合わせやダウンロードが可能という。

 これら3つの工夫の結果,例えば100万人規模のユーザーを持つ音楽配信の場合,運営コストは数千分の1にできるとする。

 セキュリティに関しては,暗号化した1つのコンテンツを分割して複数のキャッシュに保存するため,従来の方法よりも安全性が高いという(図3)。暗号は従来同様,著作権管理(DRM)サーバから暗号鍵とライセンスを取得して解除する。各端末に保存されるデータは不完全なため,ある端末から不正にコンテンツを入手して暗号を解除したとしても,意味のあるデータにはならない。

図1 想定する用途
図1 想定する用途
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図2 端末間でコンテンツをやり取りする
図2 端末間でコンテンツをやり取りする
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図3 「グリッド・ストレージ」を生かして安全性を高めた
図3 「グリッド・ストレージ」を生かして安全性を高めた
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