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図1 上側が,プラスチック基板を使ったRF回路搭載CPUコア。アンテナは接続している。下側は,ガラス基板を使ったRF回路搭載CPUコア
図1 上側が,プラスチック基板を使ったRF回路搭載CPUコア。アンテナは接続している。下側は,ガラス基板を使ったRF回路搭載CPUコア
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図2 曲げた状態のRF回路搭載CPUコア
図2 曲げた状態のRF回路搭載CPUコア
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 半導体エネルギー研究所とTDKは,共同開発したプラスチック基板上のRF回路やCPUコアについて,開発の目的や現段階での電気特性などに関する説明会を開いた。両社は「2005 IEDM」において,プラスチック基板上に作製した無線タグについて明らかにしたばかり(Tech-On!関連記事1)。今回の説明会は,これを受けたもの。2006年2月に開催される半導体回路の国際学会「ISSCC 2006」では,回路技術の詳細を発表する予定。

 IEDMで発表したプラスチック基板上のRF回路搭載のCPUコアは,13.56MHz帯の周波数帯を使い,暗号処理と認証を実行するもの。アンテナ部分を除く無線タグの面積は14mm×14mm,厚さは195μmである。アンテナ部分を含めても無線タグの面積は約30mm×約20mm(図1)。曲率半径10mmまで曲げても動作するという(図2)。用途として,Suica」や「Edy」といった電子マネー・サービスなどで使う非接触ICカードのほか,重要書類への搭載を挙げる。後者は,薄くかつ曲げられるという特徴を生かし,RF回路搭載CPUコアによるセキュリティ機能を契約書やパスポート,公文書などの紙面内に作り込むという。

 紙面に埋め込む場合には,プラスチック基板の厚さを100μm以下に薄くする必要があるとする。厚さ195μmのうち,RF回路やCPUなどの回路を作り込んでいる多結晶Si層はわずか数μmにすぎず,ほとんどをプラスチック基板が占めている。現在,薄いプラスチック基板を用いたRF回路搭載CPUの薄型化の研究開発を進めているという。

キャリヤ移動度はほとんど低下せず


 多結晶SiによるTFTを使い,プラスチック基板上に回路を作り込んだ例として,これまで半導体エネルギー研究所が13MHz動作する8ビットCPUコアを形成したことがある(Tech-On!関連記事2)。ガラス基板上に多結晶Si TFTによる8ビットCPUコアを作り込んだ後に,プラスチック基板へこの回路を転置して得ていた。今回のRF回路搭載CPUコアにも,この転置技術を用いる。しかも,多結晶TFTの電気特性を高め,かつ転置後の電気特性の悪化も抑えた。これにより,CPUコアだけでなく,RF回路もプラスチック基板上に製造できるようにした。

 半導体エネルギー研究所とTDKによれば,RF回路搭載CPUコアに用いたTFTの電子移動度はガラス基板に形成した段階(転置前)で477cm2/Vs,プラスチック基板に転置後で475.7cm2/Vs。正孔移動度ではそれぞれ154.9cm2/Vs,150.3 cm2/Vs。従って,変化率はn型TFTで約0.3%,p型TFTで約3%と「TFT間の電気特性バラつきに隠れてしまうほど小さいといえる」(半導体エネルギー研究所 取締役の小山潤氏)。以前はn型TFTの電子移動度が転置前で413cm2/Vs,転置後で389 cm2/Vsだったことと比較すると,転置前の電子移動度は約16%向上し,転置前後の変化率は1/20近くにまで下がったことになる。

 製造工程ではガラス基板上にまず剥離層を設け,次に多結晶Siの膜を形成し,この多結晶Si層にTFTによる回路を作り込んだ後にプラスチック基板を張り付けて,最後にガラス基板を剥がす。この工程で用いる剥離層の材質を見直すことで,転置によるTFTへのダメージを抑えてキャリヤ移動度の低下を防いだ。多結晶Si層の形成方法を改良することでキャリヤ移動度を高めた。現在は開発段階だが,歩留まりは50%程度という。

「消費電力を1ケタ下げたい」


 プラスチック基板上のRF回路搭載CPUコアはまだ研究段階であり,実用時期は5年~6年先になるとする。実用化には歩留まり向上のみならず,消費電力の低減も大きな課題になるとみる。今回の試作品は消費電力が4.1mWと,Siチップを使う場合に比べて1ケタ程度大きい。半導体エネルギー研究所とTDKは,消費電力を1ケタ程度低くする必要があるとする。回路の寄生容量を減らすほか,動作しない回路への電源供給をこまめに切るといった回路技術やソフトウエア技術などを使うことで,消費電力を減らす予定。

 消費電力を低減すれば,認証のためにリーダー/ライターとRF回路搭載CPUコアとの距離を離せる。今回の試作品では,リーダー/ライターとの距離を数mm程度に近付けなければ使えない。この距離を,せめて数cmには広げたいとする。