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【図1】逆ペロフスカイト構造を持つMn3XNの模式図。ペロフスカイト構造では金属が中央に,非金属がその回りに入るが,それが逆になっているため逆ペロフスカイト構造という。今回の新素材は,Xに従来のZnやGaに加えて,Geを置換したのがポイント
【図1】逆ペロフスカイト構造を持つMn3XNの模式図。ペロフスカイト構造では金属が中央に,非金属がその回りに入るが,それが逆になっているため逆ペロフスカイト構造という。今回の新素材は,Xに従来のZnやGaに加えて,Geを置換したのがポイント
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【図2】負膨張材料開発の概念図。ゲルマニウム置換により体積変化を連続的にできた
【図2】負膨張材料開発の概念図。ゲルマニウム置換により体積変化を連続的にできた
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【図3】線膨張率の測定結果。Mn3(Cu,Ge)Nの例
【図3】線膨張率の測定結果。Mn3(Cu,Ge)Nの例
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【図4】線膨張率の測定結果。Mn3XNで,XとNを様々に変えた例
【図4】線膨張率の測定結果。Mn3XNで,XとNを様々に変えた例
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 理化学研究所と科学技術振興機構(JST)は初めて,単一物質で膨張率がゼロの状態を可能にする負膨張材料を発見した。負膨張とは,温度が上昇するにともない連続的に体積が小さくなる現象。従来の負膨張材料は,異種材料に混ぜることにより膨張率をコントロールしてゼロ膨張状態を作っていたが,新物質は構成元素を調整することで単一物質として負膨張の大きさをコントロールでき,ゼロ膨張も可能にする。精密光学部品や精密機械部品の用途が考えられる。

 発見した材料は,「逆ペロフスカイト」構造を持つマンガン窒化物Mn3XNを基本構造とする(図1)。Xが亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),銅(Cu)の窒化物はこれまでも知られていたが,これにGe(ゲルマニウム)を加えることによって,大きな負膨張を示すことを見出した。

 従来材料であるMn3XN(XはZn,Ga,Cu)は,温度を上げると一気に体積が減少することは知られていた(図2左)。ある温度(磁気転移温度)で強磁性から常磁性へと相が転移するためである。これは「磁気体積効果」と呼ばれており,変化が不連続であるために,負膨張材料としては使えなかった。今回,理研は,このXの一部をGeで置換することによって,体積変化がなだらかに連続的になることを見出し,負膨張材料として使えることを示したのである(図2右)。

Geが材料を「リラックス」させる

 なぜ,Geで置換することによって連続的に体積変化するようになるのか。理研は,今後メカニズム解明を進めていくが,今のところ二つの仮説が考えられるという。一つは,強誘電体の誘電率変化のコントロールにも使われている現象だが,Geが「リラクサー」として働いている可能性があるという。つまり,一気に体積を収縮させるのではなく,徐々に体積が収縮するような働きをするのではないかと見る。もう一つは,相転移のメカニズム自体がGe置換で変わった可能性があるとしている。

 作り方としては,Mn3XN(XはZn,Ga,Cu)とMn3GeNの二つの物質を混合して,石英チューブ中で空気を遮断して800℃で焼成することによりXがGeに置換した材料が得られるという。

 新材料の負膨張の特性を調べるために,Mn3XN(XはZn,Ga,Cu)の構成元素の中のXについて,20~70%程度をGeで置き換えることにより,線膨張係数(α)がどう変わるかを調べた。その結果,XがCuとGeの組み合わせの際には,Ge比率0.47のときに,0~80℃の温度域で,α-16μ/℃となった(図3)。これはつまり,1mの棒を100℃に昇温することによって,1.6mm収縮することを意味している。また,Xを様々な元素および比率で組み合わせることにより,最高でα-25μ/℃の材料も調整することができた(図4)。さらに現在,αがゼロになる組成の研究も進めており,めどは立ったとしている。完成し次第,発表する予定だ。

 従来の負膨張材料として知られるタングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)のαは−9μ/℃,シリコン酸化物(Li2O-Al2O3-nSiO2)のαは−2~−5μ/℃であり,これまでで最高の線膨張率を持つ負膨張材料の開発に成功したことになる。

 このほかの特徴として,負膨張が均一(等方的)であるため,温度の上昇・下降を繰り返しても欠陥や歪みが入りにくく,動作が安定している。このため,任意の形状に焼き固めて使用することも,粉末として他の材料に混ぜることも可能である。ただし,空気中では300℃程度,空気に触れさせない場合800~900℃で分解するので,焼成温度には注意がいる。

 また,これまでの負膨張材料はすべて絶縁体だったが,今回の新材料は高い電気伝導性や熱伝導性など金属的な特性を示す。このため,ヒートシンクとしての応用も考えられるという。さらに,鉄やアルミニウムなど金属材料並みの機械的強度を持ち,主原料が安価で環境に優しい材料であることも特徴だとしている。

超精密加工のための部材として有望

 同研究所が最も期待する用途は,単一物質としてゼロ膨張を実現できる特徴を生かした分野である。従来の負膨張材料ではゼロ膨張を実現するには他の材料に複合化して膨張率を調整しているが,硬度など機械的強度を維持させるのが難しく,高精度が要求される機械部品には使いにくかった。単一物質でゼロ膨張の材料が得られれば,例えば工作機械のクランプなどの冶具などに使うことによって,高い加工精度を持たせることが可能になる。

 理研とJSTは今後,負膨張化のメカニズムを解明するとともに,ゼロ膨張になる組成の検討含めて材料や製法を最適化する研究を続ける。その一方で,企業の共同開発先を探して商品化にもっていきたいとしている。