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図1:NIMSが開発した,一層分の厚さが約1nmと薄い透明な磁性半導体シート材料。
図1:NIMSが開発した,一層分の厚さが約1nmと薄い透明な磁性半導体シート材料。
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図2:既存の磁性材料に比べて波長の短い紫外線から可視光領域で大きな磁気光学効果を示す。
図2:既存の磁性材料に比べて波長の短い紫外線から可視光領域で大きな磁気光学効果を示す。
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図3:高分子膜を「接着剤」にして多層に積層する。
図3:高分子膜を「接着剤」にして多層に積層する。
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 物質・材料研究機構(NIMS)は,多層化すると紫外から可視光の波長で大きな磁気光学効果を示すシート状の透明な磁性半導体を開発した(図1)。波長が500nmを切る短波長の光を使う大容量光通信や光情報処理向けデバイスへの応用を目指す。

光触媒TiO2が原材料

 今回NIMSが開発したのは,光触媒材料として知られるTiO2をシート状にしたTi1-δO2(チタニア・ナノシート)にCoやFeといった磁性元素を添加して作製したTi0.8Co0.2O2,およびTi0.6Fe0.4O2である(以下では,Ti0.8Co0.2O2で代表させる)。厚さは約1nmで,「透明な磁性材料としては,これまで開発されているもののなかで最も薄い」(NIMS物質研究所ソフト化学グループ 主任研究員の長田実氏)とする。この材料を10層積層させたところ,紫外から可視光(波長280~380nm)の光に対して大きなFaraday効果およびKerr効果を示した。

 Faraday効果とKerr効果は,ともに磁性体と光の相互作用によって表れる磁気光学効果の一種である。前者は磁性体を透過する光の偏波面が回転する効果で,光ファイバ通信に使う光アイソレータなどに利用されている。一方,Kerr効果は磁性体で反射した光の偏波面が回転する効果で,光磁気(MO)ディスクのデータ読み出しなどに利用されている。

Faraday効果の大きさは既存材料の10倍

 Ti0.8Co0.2O2の特徴は大きく四つある。(1)磁気光学効果を示す波長(応答波長)が280~380nmと短いこと,(2)磁気光学効果の強度が強いこと,(3)添加する磁性元素の種類や積層数を変えることで特性を制御できること,(4)多層構造の作製が容易なことである。

 (1)Ti0.8Co0.2O2の応答波長は,光アイソレータ向けで実用化されているYIGやGdBiIGなどのガーネット系材料(1.3~1.5μm)や,CdMnTeなど既存の磁性半導体(0.6~1μm)に比べて短い(図2)。そのため,既存方式に比べて伝送容量が大きい光アイソレータやデータ記録密度が高い光磁気ディスクなど,波長500nm以下の光を使う光通信や光情報処理向けデバイスに応用できる可能性がある。

 (2)10層に多層化したTi0.8Co0.2O2が示すFaraday効果の強度(Faraday回転角)は10000度/cmである。これは光がTi0.8Co0.2O2中を1cm進むとき偏波面が10000度回転することを示しており,応答波長1.3~1.5μmのGdBiIGのFaraday回転角の約10倍である。

添加元素や積層数を変えて特性を制御

 (3)Ti0.8Co0.2O2は,添加する磁性元素の種類や積層数を変えることでFaraday回転角や応答波長といった特性を制御することができる。例えば,Ti0.8Co0.2O2とTi0.6Fe0.4O2を交互に積層させ,積層数をさまざまに変化させることで,応答波長を広げられる可能性がある。「次世代光ディスクで利用される青色光(波長450nm)で大きな磁気光学効果が生じることを示唆するデータも得ている」(NIMSの長田氏)という。

 (4)多層構造は,次のような単純な手順で作製できる。まず,ガラス基板を正の電荷を帯びた高分子溶液に浸す。次に,高分子溶液から引き上げたガラス基板をTi0.8Co0.2O2の溶液に浸す。Ti0.8Co0.2O2は負電荷を帯びているので,ガラス基板に付着した高分子膜に静電気力で吸着する。この手順で1層分の積層が可能であり,これを繰り返すことで実現したい特性が得られる層数まで多層化できる(図3)。これに対し,ガーネット系材料や既存の磁性半導体材料の特性を変えるには,堆積させる膜の組成や結晶構造を変えるといった工夫が必要であるという。