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図1 電圧の直線性が低いと近距離通信に難が出る
図1 電圧の直線性が低いと近距離通信に難が出る
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図2 電圧を一定にして電流の強弱で信号を検出
図2 電圧を一定にして電流の強弱で信号を検出
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 富士通は現在米国で開催中のISSCC 2006で,FRAMを搭載した受動型のUHF帯無線タグ・システムの実現技術の詳細を発表した(講演番号 17.2)。FRAMは13.56MHz帯を用いる無線タグには既に利用されているが,UHF帯ではいくつか課題があった。今回は,「電流検出」と呼ぶ電流値で信号を読み取る,無線タグ向けとしては新しい技術を用いるなどしてそれらの課題を解決したという。

電流検知で直線性を確保

 FRAMは,不揮発性メモリとして広く使われるEEPROMに比べて,データの書き込みに要する電圧が低く,書き込み時間も速いという特徴がある。このため,13.56MHz帯を利用する無線タグには数多く搭載されている。富士通によれば「既に3億個のFRAMを出荷済み」であるという。ところが,通信距離がはるかに長いUHF帯無線タグにFRAMを用いるには,いくつかの課題を解決する必要があった。それは,(1)至近距離での通信がうまく動作しない,(2)CMOS技術でタグ中の整流回路を作ると変換効率が低すぎて通信距離を十分確保できない,といった点である。

 (1)の原因は,FRAMを含む無線タグ用ICの耐圧が低いことにある。耐圧が低いと,タグが大きな電力を受信した場合に備えて保護回路が必要になる。この結果,受信した電力に対する電源電圧の直線性とダイナミックレンジを十分確保できなくなる(図1)。一般に電子回路内でやり取りされる「0」と「1」の情報は,「電圧検出」といって電圧の高低で識別されている。無線タグの受信電圧が大きい場合,つまり通信距離が短い場合に,電力の変動幅に対して電圧の変動幅が非常に小さくなり,信号の識別ができなくなってしまうのである。

 富士通はこの課題を,保護回路をむしろ強化して電源電圧をほぼ一定にし, 信号の識別に電流検知を採用することで解決した(図2)。電流検知とは,電流の強弱に「0」と「1」を割り当てて情報をやり取りする方法。「無線タグでの採用はこれが世界で初めて」(富士通)だという。電圧を一定に保てば,電流は電力の変化に対し高い直線性と広いダイナミックレンジを持つようになる。

 この結果,近距離の通信が容易になるだけでなく,通信をする際の振幅変調で振幅の高低差を小さくできるというメリットも得られる。振幅の高低差を小さくできれば,データ伝送速度が同じでも,電波の占有周波数帯域幅を狭くできるのである。

しきい値の低い整流回路をCMOSで実現

 (2)のCMOS技術による整流回路の効率が低いといった課題は,2005年2月のISSCCで東芝が発表した「しきい値キャンセル」という技術を富士通が発展させることで解決した。無線タグ用IC中の整流回路は,受信した電波の電力をできるだけ無駄にせずに,無線タグからリーダー/ライターへの送信に使う電力に回す役割を持っている。このため,整流回路の変換効率が低いと,無線タグの通信距離も短くなってしまう。

 今回富士通は,能動型の無線タグ向けだったこのしきい値キャンセル技術を,電源を持たない受動型の無線タグで実現した。少ない電力で動作するよう,寄生容量などを最小にする回路構成を見つけ出したという。「東芝がnMOSダイオードだけを使っていたの対し,pMOSも用いることで実現した」(富士通 システムLSI開発研究所 ユビキタスシステム研究センター 主管研究員の桝井昇一氏)。

 この結果,しきい値を低く保ちながら0.35μmルールのCMOS技術で整流回路を形成できるようになった。整流回路の変換効率は,4mの通信距離の場合に36.6%と高い。今回,試作した無線タグでは,通信距離は書き込み時で4.3mを確保できたという。「CMOS技術を使えるようになり,製造コストも大きく下がる」(同氏)。

 従来UHF帯無線タグでは,しきい値が高すぎてCMOS技術を整流回路に用いることができず,ショットキー・ダイオードを用いたチャージ・ポンプを採用してきた。ところが,同技術での整流回路の変換効率は10%前後と低く,しかも回路形成に特殊なプロセス技術を用いるため,微細化の上でも製造コスト低減の上でも大きな課題となっていた。東芝は2005年のISSCCで,ショットキー・ダイオードに代えてnMOSダイオードを用いた整流回路を開発し,効率16.6%を達成したと発表していた。