図1 ETロボコンの走行体 ブロック玩具の「LEGO MINDSTORMS」を使い組み立ててある。仕様は第1回からほぼ共通という。

 「ぜひIT系の開発者にも組み込み開発に来て欲しい。IT系で培ったスキルを生かせる仕事はいくらでもある」。

 2月9日~10日にかけて東京都内で開催されたソフトウエア開発者向けのイベント「Developers Summit(デブサミ2006)」で,組み込み系開発に携わる立場の講師からIT系開発者の参加者に向けて,このような呼びかけがなされた。それも,メーカーのソフトウエア担当責任者からと,組み込み開発の現場の開発者からという,異なる立場からの共通の呼びかけだった。

 松下電器産業 ソフトウェアエンジニアリングセンター所長の今井良彦氏は「アーキテクチャ設計やプロジェクト・マネジメントに関するニーズが,組み込み開発の現場で高まっている」と訴えた。デジタル家電などのソフトウエア開発規模が大規模化していることに伴い,これらのスキルを持つ技術者が組み込み開発分野でも必要になっているためだ。「単に人手が欲しいということではない。上級エンジニアにこそ来て欲しい」(今井氏)。

 一方,現場の開発者からの声として興味深かったのが「ETソフトウェアデザインロボットコンテスト(ETロボコン)」初代チャンピオンである幸加木哲治氏(リコー)らのセッションである。

ETロボコンもモデリング抜きでは勝てない時代に

 ETロボコンは,ブロック玩具の「LEGO MINDSTORMS」で組み立てた走行体の制御プログラムを作成し,ソフトウエア・モデルの洗練度とレース結果の両方を競う(IT Pro関連記事)。幸加木氏と,同競技の実行委員長の渡辺博之氏(オージス総研)がこのETロボコンを紹介するセッションを開催した。

 「ETロボコンは,2002年の第1回のころ(当時の名称は「UMLロボコン」)には個人がごりごりプログラミングしてがんばることで勝てた。だが4回目となると,課題の高度化と共にプログラム規模も拡大し,きちんとしたモデリングができないチームは勝てなくなっている」(幸加木氏)。この競技は回を重ねるごとに「近道」や「丸太越え」など難易度が高い課題が追加されており,ソフトウエアの重要性が高まっている。制御ソフトウエアの設計に,UMLを使ったモデリングなど工学的な手法を取り入れることが,勝つための条件の一つになってきているという。

 ETロボコンには「モデルの評価が高いチームがレースの成績が良いとは限らない」というジレンマがある。実際,2005年7月3日に開催したコンテストでは,モデルとしての評価は中程度のグループの方がレースでは強かった(Tech-On! 関連記事)。この結果だけを見ると「組み込み分野はやはり職人の世界」との印象を持つ読者もいるかもしれない。

 しかし,4カ月後の2005年11月16日に開催した「ETロボコンチャンピオンシップ大会」(IT Pro関連記事)では結果が異なった。「モデルへの評価」と「レースの結果」にある程度の相関が認められるようになってきたという。これは,同じチームが同じ課題に挑戦することで,現場の条件などに左右される要素への対応が進み,モデルの違いが顕在化するようになってきたため,と幸加木氏らは分析する。この結果から言えることは「最もモデリングに優れたチームが優勝した訳ではないが,モデリングができないチームは勝てなくなっている」ことである。

IT系と組み込み系のモデリングは違う

 もちろん,IT系(エンタープライズ系)と組み込み系のモデリングは異なる。IT系のモデリングでは,Webアプリケーションのセッション管理などが典型的な処理であり,UMLのシーケンス図が有効な場合が多い。一方,組み込み系の場合は例外処理の比重が多く,シーケンス図よりも状態遷移図が有効とされている。なお,UMLはどちらのモデリング手法にも対応できる。

 最後に幸加木氏は「大規模化に伴い,職人的・現状改善的なエンジニアリングでは限界がきている。オブジェクト指向の考え方を取り入れたモデリングを積極的に使っていこうではないか」と呼びかけ「IT系で培ったスキルを生かせる仕事は,組み込み開発分野にはいくらでもある」と締めくくった。


図2 組み込み開発とIT系の違い IT系開発のモデリングではシーケンス図が有効な場合が多いのに対し,組み込み開発系のモデリングでは状態遷移図が有効とされる。組み込み開発者の方がより「職人肌的」との指摘も。


図3 組み込み向けモデリングの特徴 大規模化が進むのに伴い,モデリングなどの手法の重要性が増す。一方,実性能の要求が厳しいという条件は変わらない。


図4 ETロボコンのモデル評価とレース結果の相関 2005年11月16日に開催した「ETロボコンチャンピオンシップ大会」の結果。モデルへの評価とレース結果にやや相関が認められるようになった。