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図◎中村修二氏が発明した「404特許」。同氏が「ダイヤの原石」と主張する特許を日亜化学工業が権利放棄へ
図◎中村修二氏が発明した「404特許」。同氏が「ダイヤの原石」と主張する特許を日亜化学工業が権利放棄へ
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 日亜化学工業は2006年2月10日,報道機関各社に対し,3月初めに「404特許」の権利放棄について記者会見を開くと伝えた。詳細については「記者会見で明らかにする」と同社は言うが,現在新聞社などが「青色LEDの中核特許を放棄」といった報道を流している。

 404特許は,青色LEDを構成する窒化ガリウム(GaN)の結晶成長装置に関する特許で「ツーフロー方式」の特許として有名。特許第2628404号の下三桁をとってこう呼ばれている。発明者である中村修二氏が同社と争った職務発明訴訟の中で「ダイヤの原石」と表現し,議論の中核になっていた特許である。中村氏は,青色LEDに関する全特許の中で「404特許の価値が100%。ほかの特許の価値はゼロというべきである」と主張し,一方の日亜化学工業は「青色LEDの製造において404特許の寄与度は低い」といったことを強調し争っていた(Tech-On!の中村裁判の特設報道ページ)。日亜化学工業は404特許の権利を放棄することによって,中村氏の主張をあらためて否定することを狙っているようだ。以下で,この背景を探ってみたい。

量産には「404特許を使っていない」という4メーカーの資料

 404特許におけるGaN結晶成長の方法は,MOCVD(有機金属を使った化学的気相成長法)装置の内部で,結晶成長のベースとなるサファイア基板に対して水平方向から原料ガスを供給するのと同時に,上から垂直下方に不活性ガスを吹き降ろすもの。サファイア基板を高温に加熱するため,通常の方法だと原料ガスが対流現象によってサファイア基板にたどり着かずに上昇してしまうが,不活性ガスで原料ガスを基板側に押さえ付けることで対流上昇を防ぎ,結晶を成長させる。発明当時はGaN結晶をサファイア基板上に成長させること自体が簡単ではなく,この方法の詳細を知ろうと学会発表の場で中村氏のところに駆け寄る技術者も見られた。

 しかし研究開発段階を過ぎると,状況は変わってくる。ツーフロー方式に対し,日亜化学工業は訴訟時に「特許としての効力はかなり低く,クロスライセンスしたメーカーのどこも使っていない」「当社は1997年4月から別の技術思想に基づく結晶成長法を実施している」と主張していた。それらを裏付ける資料として,クロスライセンスを締結したメーカーからの宣誓書や陳述書,およびノウハウを守るために関係者以外に閲覧を禁止した上で現行の結晶成長方法を記した文書を裁判所に提出していた。

 このうち,一般でも閲覧可能な裁判資料をTech-On!で確認したところ,日亜化学工業が青色LEDの特許に関してクロスライセンスを締結したドイツOSRAM Opto Semiconductor社と米Lumileds Lighting社,豊田合成の3社と,青紫色(青色)半導体レーザについてクロスライセンスを結んだソニーから宣誓書や陳述書が提出されていた。その中で,例えばOSRAM Opto Semiconductor社が提出した宣誓書の中には「クロスライセンスの中にはツーフロー特許(404特許)が含まれているが,OSRAM社とその子会社はツーフロー特許自体もツーフロー特許の権利範囲である技術も使っていない。すなわち,OSRAM社およびその子会社はツーフロー特許でGaNを成長させる方法でLEDを製造していないし,将来にわたってそうすることはない」という記述が見られた。

現在は原料ガスを高速に流す方法が主流

 現在,白色LEDを研究する名城大学 理工学部 材料機能工学科 助教授の上山智氏は,404特許のツーフロー方式についてこう厳しく評価する。「発表された当時から関心はなかった。MOCVDを知っている人で興味を持った人はいないのではないか」。その理由を同氏は「MOCVDは量産に向くことに大きな特徴がある。しかし,ツーフロー方式ではその量産性が損なわれてしまい,価値が低いからだ」と説明する。

 具体的にはこうだ。ツーフロー方式のように,原料ガスと不活性ガスを異なる方向から流してぶつけると乱流や渦状の流れが発生し,サファイア基板の面内で不均一なGaN結晶ができてしまう。例えば膜厚にムラがあったり,部分的に組成の異なる結晶ができたりする。そのため,基板表面におけるガスの流れを「層流にすることがMOCVDの基本」(上山氏)。

 GaN結晶をMOCVDで成長させるときの現在の主流は「原料ガスを高速に流す方法」(上山氏)。対流によって原料ガスが上昇する前に,原料ガスをサファイア基板表面に届けて結晶を成長させる方法だ。「この方法なら原料ガスが層流の状態で基板表面を流れるので,品質と量産性が満たされる」(同氏)。

 「404特許が量産に向かない」というこうした指摘は,産業技術総合研究所の研究者やNTTグループの研究者,ベンチャー企業であるパウデック代表取締役社長,昭和電工の技術者らがこれまで「日経ものづくり」誌の取材に対しても明らかにしていた(関連記事)。