西暦2000年問題が発生し,組み込みマイコンを搭載した機器のユーザに被害が発生した場合,誰がどのような責任を問われるのだろうか。問題の有無を確認し,対策を施す上でまず確認すべき事項である。

 この点に関して,日米の半導体産業の業界団体が先手を打って,責任の所在を定義するガイドラインを示した。これは民法に照らし合わせて作った業界内の対策指針である。多くの事例ではこの基準に沿って考えることができるが,最終的には訴訟が起こった場合に裁判所の判断に委ねられることになる。

機先を制する半導体業界

 日本電子機械工業会(EIAJ)の半導体委員会は,1998年12月に公表した「2000年問題に対する半導体業界のポジションペーパー」と題した文書の中で,西暦2000年問題が発生した場合に誰が責任を負っているのかを判断するための基準を定義している(原文)

 それによると,「西暦2000年問題は基本的に,マイコン等に書き込まれたプログラムの仕様に帰着すると考える」としている。また米国半導体工業会 (Semiconductor Industry Association:SIA)も同様に「Chip Industry Releases Position Paper on Y2K Issues」と題した文書の中で,「西暦2000年問題はソフトウエアが原因の問題であり,半導体メーカには責任はない」と宣言している(原文)

 そして,この基準に沿って半導体メーカの多くは,組み込みマイコンの西暦2000年問題に対して直接の責任を負う場合は少ないと判断している。こう判断する根拠を以下に三つ挙げて説明する。

 まず,1. マイコンを動作させるための組み込み向けプログラムを,半導体メーカまたはその関連企業が開発していない場合が挙げられる。たとえばNECでは,1990年から1998年までの8年間に自社製マイコン向けに開発された3万4349件のソフトウエアのうち,マイコン・ユーザ側で開発した案件が約84%を占めるという。こうしたユーザが開発したソフトウエアの多くは,半導体メーカが組み込みマイコン内部のマスクROMや外付けのマスクROMに焼き込む作業を行なっている。しかし,通常こうした作業を半導体メーカが受注する場合,ソフトウエアの内部を調べないことを明記した契約書を交わしているため,ソフトウエアの内容までは責任が持てないというのが基本的なスタンスである。

 次に,2. 半導体メーカまたはその関連企業がソフトウエア開発を代行した場合では,知的財産権などをユーザに移管して契約関係が終わっていることが根拠として挙げられる。仕様通りのソフトウエアが作られていることを引き渡す時点で,ユーザに確認してもらっているという主張である。ソフトウエアの仕様はユーザの所有物であり,半導体メーカには責任がないという考え方だ。

 最後に,3. リアルタイム・クロックに関しては,年号を下2ケタだけ出力すること自体は西暦2000年問題を引き起こす決定打となるような原因にはなっていないという立場を採っている。実際,4ケタで年号を出力する回路を使ってもソフトウエア次第では問題を発生する。また,2ケタで年号を出力する回路を使っても,ソフトウエアで問題の回避が可能である。半導体メーカはあくまでも仕様通りのチップを納入しているのであり,西暦2000年問題が発生するのは,ソフトウエア上の問題であるとする。

 ただし,マイコン向けソフトウエアを開発するためのアセンブラ,コンパイラ,リンカなどのツールや特定の機器の機能を実現するためのミドルウエアを開発・販売している場合に関しては,半導体メーカが責任を負うことになる。 (伊藤元昭)


 WWW版の「組み込み機器における西暦2000年問題」は合計で3回掲載します。今回はその3回目です。

 1回目は「半導体ユーザの自発的な対策が原則」,2回目は「家電機器よりも産業機器の方が問題は深刻」。このシリーズの詳細な情報は,日経エレクトロニクス誌1999年2月8日号の「NETs特集」欄でご覧になれます。