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【図1】SWCNTの構造による金属性,半導体性の変化。図中の(n,m)は構造の指数を示す。白丸と赤丸が重なるようにシートを丸めると金属性SWCNT,白丸と青丸が重なるようにシートを丸めると半導体性SWCNTとなる
【図1】SWCNTの構造による金属性,半導体性の変化。図中の(n,m)は構造の指数を示す。白丸と赤丸が重なるようにシートを丸めると金属性SWCNT,白丸と青丸が重なるようにシートを丸めると半導体性SWCNTとなる
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【図2】過酸化水素水による熱処理の模式図
【図2】過酸化水素水による熱処理の模式図
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【図3】SWCNTを過酸化水素水で処理する時間によって吸収スペクトルがどう変化するかをみたもの。処理時間が長くなるにつれて金属性SWCNTの比率が増すのが分かる
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 産業技術総合研究所は,単層カーボンナノチューブ(SWCNT)のうち金属性SWCNTと半導体性SWCNTを選択的に分離する手法を考案した。金属性SWCNTと半導体性SWCNTが混合している市販SWCNT(金属性SWCNTが1/3)を過酸化水素水中で熱処理することにより,半導体性SWCNTの方が早く酸化・燃焼する原理を使って,金属性SWCNTの含有量を80%まで濃縮することに成功した。金属性SWCNTはITO(酸化インジウム・スズ)に代わる透明電極材料として使える可能性がある。さらには,SWCNTの構造を選択制御できる可能性が出てきたことから,将来的には半導体SWCNTを選択的に取り出して透明薄膜トランジスタを実現する手段としても有望視している。

 SWCNTは,ベンゼン環を敷き詰めたような6員環シート(グラフェンシート)を丸めた構造をしている(図1)。その丸め方によって,SWCNTは金属になったり半導体になったりする。合成直後のSWCNTは金属性と半導体性のものの混合体であり,比率は金属性SWCNT:半導体性SWCNT=33:67である。

 産総研が今回使ったSWCNTは米Carbon Nanotechnologies Inc.より市販されているもので,平均直径1nm前後のナノチューブを多く含むものだ。製法は,鉄触媒と高圧の一酸化炭素から高温で合成する「HiPco(High Pressure Carbon Monoxide)プロセス」と呼ばれ,それがそのまま商標となっている。

 分離プロセスは,HiPco-SWCNTを過酸化水素水中に投入して熱処理するだけだ(図2)。過酸化水素は2段階反応でSWCNTを酸化していく。第一にSWCNTより電子を奪う酸化反応が起こり,SWCNTを活性化する。第二に過酸化水素より活性酸素が発生して活性化したSWCNTを酸化・分解(燃焼)して,最後は二酸化炭素になる。

 産総研の今回の実験では90℃の雰囲気で47分間HiPco-SWCNTを熱処理することによって,その99%が分解・消滅した。残った1%のSWCNTを調べると金属性SWCNTの比率が約80%まで増加していることが分かった。これは,金属性SWCNTよりも半導体性SWCNTの方が反応性が高く,この反応性の違いを使って,選択分離できたことを示している(図3)。これまでは,金属性SWCNTの方が半導体性SWCNTよりも反応性が高いというのが通説だったが,今回の結果はその逆の傾向になっている。これについて産総研は,「過酸化水素が電子を奪った後の電子構造の変化が,半導体性SWCNTの方が金属性SWCNTよりも大きいためではないか」と見ている。

まずはITO代替,将来的には透明TFTも視野に

 この金属性SWCNTの用途として考えられるのがITO代替材料である。ITOは透明電極向け材料としてFPD(フラットパネル・ディスプレイ)などに不可欠な材料だが,インジウムが希少金属で数年で枯渇する恐れがあると言われており,様々な代替材料が検討されている。カーボンナノチューブはその有力候補の一つである。

 これまで開発された透明電極材向けSWCNT薄膜が実用レベルの導電性を実現できなかったのは金属性SWCNTが1/3程度しか含まれていなかったことが大きい。今回開発した手法で金属性SWCNTの比率が高まればITO代替材料として現実味がでてくると予想される。今後,産総研は,1%と低い収率を上げると共に,薄膜化の検討など透明電極としての応用研究も進める考えだ。

 さらに将来的に期待されているのが,こうしたSWCNTの反応性や構造を制御できる可能性が示されたことから,反応条件を変えることによって半導体性SWCNTだけを選択的に取り出すことである。半導体性SWCNTの用途として期待されているのがTFT(薄膜トランジスタ)だ。SWCNTならばより透明で,プラスチック基板上に塗布により成膜しやすいなどのメリットがあるが,従来のSWCNTでは金属性SWCNTが含まれているのでトランジスタとしての性能を出しにくかった。そこでこれまで,米IBM社などが導電性の差を利用して通電によって金属性SWCNTを焼き切る方法を開発しているが,実際には通電の条件などを最適化するのが難しいという。今回の産総研の試みは,半導体性SWCNTを効率的に取り出す手法につながる可能性もある。