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図1 倍音成分を検出してコピーし,付け足す
図1 倍音成分を検出してコピーし,付け足す
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図2 左側はコピーした倍音成分の付け足し前。右側は付け足し後
図2 左側はコピーした倍音成分の付け足し前。右側は付け足し後
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 日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は,高音質化に向けた3つの技術を開発した(発表資料)。(1)低域の音を補正する技術,(2)高域の音を補正する技術,(3)前面スピーカやヘッドホンを使って音を立体的に再生する疑似サラウンド技術である。いずれの技術も開発は完了しており,日本TIのオーディオ用DSP「Aureus」に組み込んで使用できるという。早ければ,2006年春ころから今回の技術を実装したAureusの出荷を予定する。いずれの技術も,同社の筑波テクノロジー・センターで開発した。

 今回開発した技術はまずはオーディオ用DSPに向けているが,将来的には同社の携帯電話機向けアプリケーション・プロセサ「OMAP」への展開も視野に入れる。今のところ開発が完了しているのは浮動小数点DSPに向けたものであり,OMAPといった固定小数点DSPに向けたソフトウエアはこれから開発を進めていくという。

Missing Fundamentalを利用し,低域の音を創出


 低域の音を補正する技術は,100Hz未満といった低域の音を再生できない小型スピーカを使っても,再生できないはずの低域の音が「鳴っている」と感じさせるというもの。原音がなくても,原音の周波数帯域の倍数に当たる音(倍音)が鳴っていれば,原音が聞こえるように人間が錯覚する「Missing Fundamental」と呼ばれる現象を利用する。

 例えば,50Hzの音を再生できないスピーカで50Hzの音を聞こえるように錯覚させる場合,100Hzと150Hz,200Hzといった50Hzの音の倍音成分を発生させる。倍音を使う技術はこれまでにも他社が実用化していた。日本TIによれば,「他社の技術は原音の奇数倍,あるいは偶数倍のいずれかの倍音を生成していた。それに対して当社は,両方の倍音を作り出している」と説明する。倍音を生成するアルゴリズムを工夫し,倍音を作り出す演算量を抑えたとする。Aureusに実装した場合,演算量は「4.6MHz相当」とAureusの演算処理能力の2%未満,使用するメモリ量は12KバイトとAureusの内部RAMの5%未満しか使わないという。

倍音成分をコピーして付け足す


 高域の音を補正する技術は,MP3やAACといった高効率符号化技術を使ってデータを圧縮する過程で高域の音が欠落してしまった音楽データに処理を加え,欠落した高域の音を擬似的に作り出すというもの。高域の音は主に倍音成分から成ることを考慮し,音楽データの周波数特性から倍音成分を割り出し,音楽データにおいて高域の音をカットしている周波数(カットオフ周波数)よりも高域側に割り出した倍音成分をコピーする(図1~2)。

 他社にも倍音成分を高域に付け足すという技術はある。日本TIの技術は,カットオフ周波数を動的に検出している点などが異なるという。楽曲内でカットオフ周波数は一定でなく,変動していることに対応した。これにより,切れ目なく倍音成分を付け足せるとする。今回の技術では,128サンプルに1回の頻度で,音楽データの周波数特性を解析し,カットオフ周波数を検出している。なお,カットオフ周波数が4kHzと低く,コピーすべき倍音成分がほとんど含まれていない音楽データに対しては,今回の処理は加えない。

周波数領域を選び,効率的なクロストーク・キャンセル


 疑似サラウンド技術は,音源から耳に至るまでの音の伝達特性を示す頭部伝達関数(HRTF:head related transfer function)を使い,前面の2本のスピーカあるいはヘッドホンといった2チャンネルの出力だけで真正面や前面左右,背面左右に仮想的な音源を作り出す。疑似サラウンド技術はこれまでにも数多くあるが,日本TIはクロストーク・キャンセルの手法などが異なるとする。

 クロストーク・キャンセルは前面スピーカを使って疑似サラウンドを得るときに用いる。疑似サラウンドでは,右スピーカの音は右耳だけに,左スピーカの音は左耳だけに届ける。右側のスピーカの音を右耳だけに届ける場合,右スピーカから左耳に届いてしまう音を打ち消すために,左スピーカから逆成分の音を発する。日本TIの手法は,クロストーク・キャンセルに使う打ち消し信号の周波数成分を,数kHzよりも低域の音に限定する。こうすることで,演算量を減らしている。音を限定しても,クロストーク・キャンセルの効果は十分高いという。高域の音をクロストーク・キャンセルに使っても,頭部の位置が数cmずれただけで打ち消し効果が急速にうすれてしまうからだ。これでは演算量が増えるだけで,クロストーク・キャンセルの効果は限定的と判断した。