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IGBTは車載向けパワー・デバイスの中核。2005年7月5日に開催した「NIKKEI MICRODEVICES創刊20周年記念セミナー」でのトヨタ自動車の発表資料。
IGBTは車載向けパワー・デバイスの中核。2005年7月5日に開催した「NIKKEI MICRODEVICES創刊20周年記念セミナー」でのトヨタ自動車の発表資料。
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 トヨタ自動車は,「プリウス」を始めとする同社のハイブリッド車向けに内製しているIGBTの実現技術とその進化の方向性を明らかにした。

 2006年3月22~26日に開催された「第53回応用物理学関係連合講演会」でのシンポジウム『エネルギーデバイスの革新が拓く,持続可能社会実現への道』に登壇した,トヨタ自動車 車両技術本部 第3電子技術部 第32電子室長の櫛田知義氏が語った。

センサーと1チップ化,残留電荷による損失を抑制

 ハイブリッド車向け半導体デバイスは大きく四つに分類される。(1)IGBT(insulated gate bipolar transistor)やパワーMOS,電源供給用ICなどのパワー・デバイス,(2)ABS(anti-lock brake system)向けICなどパワー・デバイス以外の車載用デバイス,(3)高周波ICやDSPなどの情報処理・通信向けデバイス,(4)アナログICやメモリーなどその他のデバイスである。トヨタは「これらすべてのデバイスを内製する技術を社内に持つ」(第3電子技術部 部長の藤川東馬氏)としている(Tech-On!関連記事)。このうち,IGBTはモータ制御に欠かせない基幹デバイスである。

 同社が内製するIGBTは,最新世代の「プリウス」搭載品ではゲート長を1μm以下に微細化しており,チップ面積は100mm2以下である。特徴は大きく二つある。第1に,チップ上に温度センサーと電流センサーを搭載している。これによって,過熱や過電流によるデバイス故障を防ぎ,車載向けで求められる高い信頼性を実現している。デバイス寿命は時間換算で10年以上,走行距離換算で10万km以上とする。温度センサー,電流センサーの一方を搭載した例は他社のチップにあるが,両者を1チップ化したのは同社のIGBTが初めてという。

 第2に,スイッチング時の電力損失を抑えるために,作製プロセスに工夫を施している。IGBTでは,スイッチング時にコレクタ電極付近に電子と正孔が残留しやすく,これがオン抵抗を高めてエネルギー損失を増加させる。同社は,コレクタ電極付近に電子と正孔が再結合して消失する層(再結合層)を設けることで損失の増大を抑制した。再結合層は,高エネルギーのHeイオンをSi基板に打ち込み,電極周辺のSi結晶に多数の欠陥を生じさせることで形成する。欠陥部で再結合が生じやすい性質を利用する。

技術革新は,サイズ→構造→材料の順に

 同社は今後,スイッチング損失をさらに低減するために,次の三つの技術を段階的に導入していく意向である。すなわち,(1)耐圧部の薄化,(2)スーパー・ジャンクション(SJ)構造の導入,(3)SiCなどの新材料の導入である。(1)耐圧部の薄化については,現状の数百μm厚を半分以下に減らしてオン抵抗の削減を図る。(2)SJ構造は,エミッタ電極周辺に形成される空乏層がコレクタ電極付近まで延びるように不純物を添加し,オン抵抗を削減する手法である。(3)SiCは既存のIGBTに使われるSiに比べて絶縁破壊電界強度が大きく,耐圧部の厚さを薄くできるので,オン抵抗の削減につながる。

 (1)~(3)のうち,(1)と(2)はすでに独Infineon Technologies AGなどのデバイス・メーカーが民生機器向けで実用化している。民生機器に比べて技術障壁の高いハイブリッド車向けで,トヨタは(1)と(2)を3~4年以内に実用化する構えである。(3)はまだ民生機器向けでも製品化例がない。「現状ではSiCを使うとSiに比べてコストが10倍以上高くなる。ハイブリッド車向けIGBTへのSiCの導入目標は,2010年代の早い時期に据えている」(櫛田氏)とする。

 【申し入れ】  最終段落の櫛田氏の発言に関して,同氏から「新技術の実現時期については学会に参加した研究者への開発協力の期待を込め,あくまで一般的な目安として述べたものであり,当社独自の開発指針や認識を示したものではない」との申し入れがありました。記事本文は掲載当初のものをそのまま掲載しています。