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山田久美夫氏
山田久美夫氏
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富士写真フイルムの「F30」
富士写真フイルムの「F30」
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松下電器産業の「DMC-L1」
松下電器産業の「DMC-L1」
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ソニーの「DSC-R1」
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ソニーが「ISSCC 2006」で発表した超高速CMOSセンサ
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オリンパスの「E-330」
オリンパスの「E-330」
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 デジタル・カメラ・メーカーの先行きについて,写真家でジャーナリストの山田久美夫氏と議論した。山田氏の見解の根底には市場の伸びが乏しい中で勝ち残るため,各社に魅力的な製品を開発してほしいとの思いがある。山田氏は,デジタル・カメラで撮影した作品を発表する傍ら,カメラ関連ニュースを網羅するWWWサイト「DigitalCamera.jp」を主宰。カメラ専門誌への執筆や,カメラ・メーカーへの助言なども行っている。(大槻智洋=日経エレクトロニクス)

“プレイボーイ”復活か

――カメラ・メーカーの行く先を考える材料が先日開催された「PMA 2006」ではいろいろと出てきたと思います。私は富士写真フイルムが高感度路線を強力に打ち出したことが印象に残りましたが,山田さんはどうですか。

山田氏 富士写真フイルムは,これからのカメラ開発の方向を今,ハッキリ見せられる数少ないメーカーですね。2002年に発売した「F401」をヒットさせた後,最近までは調子を落としていましたが,ようやく復活してきました。
 同社は,言うまでもなく世界を代表するフィルム・メーカーです。デジタル・カメラ市場が大きくなるまでは,いわば「ふられたことのないプレイボーイ」だった。だから自らの魅力を分析する必要なんてなかった。
 ところが,F401の後に投入した機種で次々と消費者にふられてしまった。それだけに,自らが何をすべきかわからなくなったんじゃないでしょうか。しかし,やっと自らのカメラの強みが,フィルムでの高感度競争で培った技術・ノウハウにあることを確認し,開発に邁進した。これがISO感度を最大3200に高めた「F30」が生まれた背景だと理解しています。

――確かにフィルムに使う材料の技術や,同社ならではのエレクトロニクス技術が高感度化を下支えしていましたね。最近のミニラボ機は,フィルムの情報をスキャナで電子化し,画質を高めて印画紙に焼き付けている。

山田氏 ただ,高感度だけではデジタル・カメラの世界シェアを大きく変えるには至らないでしょう。分かる人には分かるという類の特徴だから,補強する何かが必要です。その候補の1つが,同社がPMAで見せた顔検出技術とみています。

松下製品は操作しがいがある

――松下電器産業として初のデジタル一眼レフ機「DMC-L1」もPMAでは注目を集めました。ただ,これではキヤノンやニコンに対抗できないという冷めた見方があります。

山田氏 今回公表したのは1号機ですから,あれもこれも開発できないのは当然です。ただその中にあって,画像処理LSIの新規開発にしろ,液晶ディスプレイを見ながら写真を撮れる機能にしろ,今後につながる部品や機能を盛り込んだ点が評価できます。

――山田さんはカメラの重要な差異化点の1つとして,撮影結果だけでなく,撮る過程も楽しめるかどうかがあると常々主張してきました。この観点ではどうでしょう。

山田氏 それを満たす兆しはあります。例えば,DMC-L1の本体上部に設けたシャッター・スピード・ダイヤル。ダイヤル表示なので電源を切っていても一瞬で設定値を把握できるし,設定段階数がかなり多い。いずれもキヤノンやニコンの製品であまり見られない特徴です。
 松下電器産業の製品は,カメラが好きな技術者が作りたいものをまじめに追求していると感じさせます。レンズ一体型の高級機「DMC-LC1」や,写真のアスペクト比を16対9や4対3などにスイッチ1つで切り替えられる「DMC-LX1」といった,操作しがいのある機種を生み出してきた。デジタル一眼レフ機でもDMC-L1のシャッター・スピード・ダイヤルで見せた工夫を積み重ねていければ,撮る過程を楽しめる製品を投入できそうです。

ソニーは実質2号機

――PMAでは何も発表しませんでしたが,ソニーが2006年夏ごろにデジタル一眼レフ事業に参入する予定です。1号機で開発期間も短いので,過大な期待はできないと思うのですが…

山田氏 いや,いわば2号機ですよ,ソニーが投入するデジタル一眼レフ機は。既にレンズ一体型の高級機「DSC-R1」がありますから。DSC-R1は撮像素子の大きさや画質からいってデジタル一眼レフ機と比べて遜色ない。DSC-R1を交換レンズ規格「Aマウント」に対応させる。そう考えれば,結構いい状態で開発を始められます。

――DSC-R1はどこまで良い製品ですか。広角端の焦点距離が24mm(35フィルム換算値)と短く超広角撮影ができる点などが一般に高く評価されていますが,オートフォーカスやホワイトバランスといった「基礎」はどうなのでしょう。

山田氏 オートフォーカスの性能は,コンパクト機と同じコントラスト検出方式を使うだけに,デジタル一眼レフ機より劣るかなと感じるけど,満足できる水準です。ホワイトバランスの精度は,好みの範囲といえる水準。実際,私はDSC-R1が気に入って海外へ撮影旅行に行きましたよ。もちろん,自腹です。
 それにソニーは,共同開発相手だったコニカミノルタがカメラ事業をやめてしまったので,結果的に自分のやりたいことを追求しやすくなってもいる。発売は,2006年9月末にドイツで開かれる展示会「photokina」の前後でしょう。楽しみです。

HDTV対応に期待

――ソニーにはビデオ・カメラの技術もあります。デジタル一眼レフ機の内部ミラーを上げ下ろしして静止画を撮るだけでなく,ミラーを上げっぱなしにして電子式ファインダー(EVF)を使った動画撮影も可能にしてほしいですよね。

山田氏 しかもHDTV動画の撮影を,ね。

――いまさらSDTV動画の撮影ができても,消費者から大したお金をもらえないですよね。

山田氏 その通り。特にソニーは撮像素子部門がせっかく超高速CMOSセンサを開発したのだから近い将来,デジタル一眼レフ級のカメラにHDTV動画の撮影機能を備えないと,立つ瀬がないでしょう。

EVF化は必然

――動画撮影機能の搭載が当然になったとすれば光学式ファインダーとミラーをデジタル一眼レフ機からなくす引き金を引くのではないでしょうか。動画撮影に不要な上,そもそも高コストで,小型化の障害になっている部品です。静止画も動画も電子式ファインダー(EVF)で撮れるなら,それに越したことはありません。

山田氏 既にオリンパスの「E-330」と松下電器産業のDMC-LC1が,液晶ディスプレイを見ながら静止画を撮れるようにしました。次は,高級カメラで光学式ファインダーやミラーが必須でなくなる時代が来ると思います。本体背面の液晶パネルの機能が向上したり,接眼してのぞくファインダーにも高性能な液晶パネルを用いたりする。超高速CMOSセンサが発表されたのですから,撮像素子のデータ出力速度は,もう電子化のネックではありません。

――残る課題は,ディスプレイの精細度が光学式ファインダー並みになること。

山田氏 ソニーの中には,接眼して使うEVFでHDTV級の精細度を実現したいという技術者がいます。ニーズさえ明確なら,いずれこうしたパネルが登場するでしょう。これまでエレクトロニクス技術はいろいろな分野で機構部品を不要にしてきました。デジタル一眼レフ機でもそれが起きるのです。

――ただ,ミラーや光学式ファインダーは,「撮っているぞ」とユーザーの気分を盛り上げてくれる側面があります。

山田氏 どうでしょう。私はミラーや光学式ファインダーがないDSC-R1を使っていて何一つ困りません。デジタル一眼レフ機の本質は,巨大な撮像素子がもたらす雑音の少なさや,レンズ交換の自由度にあるのです。
 それに光学式ファインダーは「嘘つき」ですよ。EVFに比べれば撮影結果をごく粗くしか予測できない。ホワイトバランスや露出といった画像処理結果を見られないばかりか,被写界深度(被写体の前後でピントが合う範囲)も光学式ファインダー中の小さな像でしか確認できないのですから。

――後編に続く――