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研究成果を発表するセイコーエプソン 研究開発本部 フェローの下田達也氏
研究成果を発表するセイコーエプソン 研究開発本部 フェローの下田達也氏
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試作したTFTの拡大画像と特性
試作したTFTの拡大画像と特性
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開発した液体材料の概要
開発した液体材料の概要
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TFTの試作プロセス(スピン・コート方式の場合),インクジェット方式の場合は上から2番目のフォトリソが不要になる
TFTの試作プロセス(スピン・コート方式の場合),インクジェット方式の場合は上から2番目のフォトリソが不要になる
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 セイコーエプソンとJSRは,液体材料を使ったSi薄膜の形成に成功した。このSi薄膜を利用した低温多結晶Si TFTの電子移動度は108cm2/Vsと高く,従来のCVD法で形成したTFTと同等の性能を実現した。有機ELパネルの駆動TFTなどの用途に向け,5~6年以内の実用化を目指す。

 液体材料を利用するため,塗布方式で形成できるのが大きな特徴である。真空装置やクリーン・ルームなどの高価な設備が不要で,プロセス時間が短くなるなどの利点が生まれる。108cm2/Vsの電子移動度を実現したTFTは,スピン・コート方式によって塗布した。このほかに,インクジェット方式による塗布で形成した低温多結晶Si TFTも試作した。このTFTの電子移動度は6.5cm2/Vsと,スピン・コート方式によって形成したTFTよりも低いものの,一般的なアモルファスSi TFTよりは高い値である。

 液体材料を利用してインクジェット方式などで形成できるTFTとして,最近では有機トランジスタの研究開発が盛んになっている。ただし,電子移動度などの性能は従来のSi TFTよりも劣ってしまう。そのためセイコーエプソンは,Si薄膜を液体材料で形成する研究開発を進めてきた。「我々のインクジェット技術というノウハウを,Si TFTという『本丸』に適用できる段階にようやくたどり着いた」(セイコーエプソン 研究開発本部 フェローの下田達也氏)。セイコーエプソンはこれまで,液体材料を利用してインクジェット方式で作製する電子デバイスとして,液晶パネル向けのカラー・フィルタや有機EL素子,面発光レーザー向けレンズ・アレイ,液晶パネルの配向膜(Tech−On!関連記事)などを開発している。

液体材料は「ポリシラン混合物」

 開発した液体材料は,多数のSiH2基が直鎖状につながった「ポリシラン」を,有機溶剤に溶解させたものである。ただし,ポリシランは有機溶剤に溶けないため,溶剤の役割を担うシクロペンタシラン(CPS)を混合させた。CPSは,ポリシランを合成する基となる材料である。CPSを光重合させるとポリシランになる。すなわち今回の液体材料は,CPSの一部を未反応のまま残留させた材料と有機溶剤を混合した材料である。

 この液体材料をスピン・コートやインクジェットでガラス基板上に塗布した後,+540℃で焼成してH2を飛ばすことでアモルファスSiになる。さらに,レーザーを照射することで多結晶化する。現状では,液体材料のガラス基板へのぬれ性があまり良くないという。そのため「特にインクジェット方式を利用した場合には,基板上に形成するSi薄膜の厚みなどの制御が不十分になり,スピン・コート方式で形成した場合に比べて大きく移動度が落ちる」(セイコーエプソンの下田氏)と説明する。ぬれ性を高めるための加工をガラス基板に施すことで「原理的には,インクジェット方式でもスピン・コート方式と同等の移動度を実現できる」(同氏)という。

 今回試作したTFTでは,ゲート酸化膜や電極といった部位は,液体材料を使わない通常のTFTプロセスを適用した。TFT作製プロセス全体をインクジェット方式などに置き換える研究開発も進めているという。今回の研究開発の成果は,英国の科学雑誌「Nature」の2006年4月6日号に掲載される。