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 旭硝子は,2006年5月16~17日に開催された「第13回燃料電池シンポジウム」において水素を燃料としたPEFC(固体高分子型燃料電池)の劣化原因についての見解を示し,その劣化を抑えたフッ素系電解質膜を使ったMEA(電極/膜接合体)の特性について講演を行った(講演番号A29「固体高分子形燃料電池用フッ素系高温高耐久MEAの開発」)。

 同社は,高温特性に優れる新規のフッ素系電解質膜「NPC」を開発し,世界で初めて自動車用途に必要な120℃,低加湿の条件で実用耐久性を有するフッ素系MEAの開発に成功したとしている。具体的には相対湿度18%,120℃の環境下において,負荷が掛かっていないOCV(open circuit voltage)状態で1000時間以上の耐久性を確保したほか,相対湿度50%,120℃の環境下で発電した状態では4000時間以上の耐久性を有しているという。

劣化の原因を調査


 劣化を解明するため,同社ではまず現在イオン交換膜として量産しているパーフルオロスルホン膜「フレミオン」を使い,加速劣化試験として低加湿,80℃の環境下でOCV試験を実施した。その結果,MEAを電子スピン共鳴スペクトル(ESR)で分析すると,カソード(空気極)とアノード(燃料極)の触媒担体上にカーボン・ラジカルの生成を確認したという。

 カソードでは酸素とアノード側からクロスリークした水素とが反応してH2O2(過酸化水素水)が,アノードでは水素とカソード側からクロスリークした空気が反応してH2O2が発生し,それらがカーボン担体もしくはPt(白金)/C触媒上で分解する際に生じるヒドロキシラジカル(HO・)により,触媒担体や触媒担体近傍の電解質膜の劣化が進行するとの見解を示した。

 次にH2O2が原因との仮説を立て,低加湿条件でH2O2とフッ素系電解質の反応を調べた。その結果,パーフルオロスルホン膜の劣化は,カルボン酸基などの末端の構造がH2O2と反応して壊れるだけでなく,フッ素系主鎖自体が切断されて新たに生じた不安定な端部からも構造の破壊が進むことを見出したという。

電解質膜とカソード触媒を改良


 旭硝子では,こうした劣化の機構を踏まえてMEAや電解質膜の高耐久性のためにはH2O2やヒドロキシラジカルに対する化学的安定性が必須であるとし,新たな電解質膜としてNPCを開発したという。実際,相対湿度18%,120℃の環境下でOCV試験を実施した結果,NPCを使ったMEAは1000時間以上の耐久性を確保した。

 これに対して,フレミオンを使ったMEAでは約10時間で膜損傷が発生したとしている。 高分子の分解指標を示すフッ素イオンの生成速度はNPCを使ったMEAの場合,フレミオンを使ったMEAの1/100以下と低く,化学的安定性に優れる結果となった。

 次に,相対湿度50%,120℃の環境下で発電し続ける試験では,フレミオンを使ったMEAは100時間で膜損傷したが,NPCを使ったMEAは4000時間以上の耐久性を有した。ただし,NPCを使ったMEAでも電圧低下率は約75μV/hと非常に大きく,同社は原因を解明するため,4000時間運転後のMEAを調査した。その結果,NPCの膜厚はほとんど変化しなかったが,カソード側の触媒層の厚さが約1/3に低減していた。同社では,カソードで発生した2O2によりカーボン担体(Ketjen系)がCO2まで酸化され消失したと考察している。

 カソード側にKetjen系カーボン担持のPt触媒を使うと劣化が大きいことから,旭硝子は高耐食性担体にPt合金系触媒を担持したカソード触媒とNPCを組み合わせたMEAを開発した。NPCの膜厚は25μmで,アノードとカソードのPt使用量はそれぞれ0.2mg/cm2である。試験は相対湿度50%,120℃の環境下で発電試験をした結果,3300時間経過時の電圧低下率は約2μV/hと大幅に低減し,劣化を大幅に抑えることに成功したという。しかも,カソードのPt使用量も従来の1/3に抑えていることから低コスト化にもつながるとしている。