PR

見込み生産の「悪」

「うわ~~~っ」

 山田が声を上げる。検査室にも,モノがあふれていた。検査前の製品と検査済みの製品が,台や棚の上に無秩序に置かれている。

 この時の山田には,守谷刃物に膨大な仕掛品を抱えさせた最大の原因が見えていた。製造ラインの上流から次の工程,そのまた次へと,ところてんのようにモノを押し込む生産手法「押し込み方式」である。

 押し込み方式の最大の問題点は,それぞれの工程で1日,このくらい作っておけば出荷に間に合うだろうという「見込み生産」にある。

 計画は,不良品や手直しの発生,機械の故障などの不測の事態をある程度折り込んでいるとはいえ,あくまで「見込み」に過ぎない。そのため現場では「いざと言う時のために多めに作っておこう」という心理が働き,仕掛品を増やす。これが,工場の管理に様々な弊害を引き起こすのだ(このページ最下部にある「押し込み方式のワナ」参照)。

「中小企業は、みーんなこれでおかしくなっとるんよ」

 山田がため息交じりにつぶやいた。

後工程はお客様!

「今日はここで何やるんですか?」

 山田が問うと,守谷が答えた。

「検査予定表がここにあって,現場の人間はこれを見て作業します!」

 確かに,ホワイトボードに張られたA4サイズの紙に,今日,検査する製品と量がこまごまと書いてある。

「これじゃあかん。8~9時は,Aさんが何を何個,Bさんが何を何個。9~10時はAさんが何,Bさんが何。時間とやることが分かって初めて『管理』って言える」

「なるほど」

 守谷はうなずいた。確かに時間ごとの表があれば,責任者は進ちょく管理が楽になるし,作業者だって仕事がしやすくなるはずだ。山田が続ける。

「それから,この彼女が検査しとる台の横に,検査した製品を置く場所を作らな。これが『ストア』だよ。さっきの梱包の彼女に,今日出荷するもんをここに買いに来ささなあかん」

(ややこしくなってきたぞ)

 守谷はとりあえず,山田の言葉を端からメモした。そして,山田が診断を進めている間,そのメモを見ながら考え続けた。

 山田が教えようとしているのは,トヨタ生産方式ならではの手法「引き取り方式」だった。出荷工程を起点に,その日に必要なモノを後ろの工程が前工程に取りに行く。

 押し込み方式と違うのは,「見込み」ではなく「実需」に基づく点だ。

 例えば,製品Aを10個,今日の正午に出荷しなければならないとする。梱包の作業者は,朝一番で検査工程のストアまで台車を転がして行き,10個分の製品を“買う”。検査の作業者は,翌日出荷する分のみを補充。後工程が必要とする量以上は作らないので,仕掛品が増えることもない。

(そうか。これだ!)

 守谷は思わず,手を打った。

社長の開眼,山田の決意

(写真:伊達悦二)

 怒涛のような工場診断ツアーが終わり,山田は守谷とともに接客室のソファに腰を下ろした。お茶をすすりながら,山田が話し始める。診断中の顔とは打って変わって,穏やかな表情を浮かべている。

「引き取り方式をやると,仕掛品がなくなって,キャッシュフローがずっと良くなりますよ。今のリードタイムはどんくらいですか?」

「お恥ずかしいことに1カ月です」

 下を向く守谷に,山田は笑いながら言った。

「僕がざっと見た限り,3~4日でできるでしょうな」
「……」

 目を伏せたままの守谷。山田はゆっくりと続ける。

「社長は,今日でよう分かったでしょう。この会社,ちょっとやるだけでぐっと伸びますよ。5億円は利益出せる思い……」

 山田がふと見上げた瞬間,守谷の目から大粒の涙がこぼれた。

「20年間……ずっと悩んでいたことが……ようやく今日……」

 そう言って,目頭を押さえる。その涙に,山田の胸も熱くなった。

(この会社は,絶対に伸ばしてやらなあかん)

 この時,山田はある決意を固めていた。

※次回に続く (文中敬称略)

    連載の目次
  1. 【連載・目次】カイゼンの鬼・山田日登志の一刀両断
  2. 【第1章】仕掛品減らん理由が分かるか? 押し込み方式やっとるからだよ
  3. 【第2章】モノの置き場所決めるだけで,2割は効率あがるんや
  4. 【第3章】ロットの端数は仕掛品になる,梱包の「箱単位」で生産せぃ
  5. 【第4章】今日できることからやれば「でっかいこと」も必ずできる