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松下電器産業の山添祥則氏
松下電器産業の山添祥則氏
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産業技術大学院大学の石島辰太郎氏
産業技術大学院大学の石島辰太郎氏
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IPA/SECの渡辺登氏
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キャッツの渡辺政彦氏
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 組み込みソフトウエア開発に必要な能力を明確にして評価するとともに,開発プロセスなどの全体像をつかめるようにする――大規模化に伴う品質の低下,開発工数の増大に直面している組み込みソフトウエア業界では,このような組み込みソフトウエア技術者の育成策が不可欠だと,「2006東京国際デジタル会議」(9月7~8日,東京)のセッション「ソフト危機を突破する人材育成術」で活発に議論された。第一線で活躍する産官学の識者が,それぞれの取り組みを語った。

松下電器,新人の7割にソフトウエア教育を実施

 松下電器産業コーポレート技術研修センター所長の山添祥則氏は,同社のソフトウエア開発力強化に関する取り組みを語った。それは(1)プロセス改善のモデルCMM(capability maturity model)の導入・実践といった継続的な開発プロセスの改善,(2)プログラミングの規約やモデル・ベース開発の導入といった設計力強化,(3)必要な人材やスキル,評価方法の明確化といったスキル強化指針の策定・導入,(4)中国・大連でのオフショア開発のようなグローバルなリソースマネジメントの4つである。

 このうち(3)スキル強化指針の策定・導入については,各技術者に求められるスキルを明確にして目標を設定,スキルアップを効果的に行う制度を今年度から導入した。ここではスキルを,専門的な知識や技能に関するテクニカル・スキル,課題解決や改善の能力に関するプロセス・スキル,挑戦の意欲や統率力などに関するヒューマン・スキルという3つに分類,技術者を各軸で評価する。これらを総合して各技術者のスキルを11のランクに分ける。スキルアップは報酬にも反映される。

 また新入社員については,材料系などを除く全体の7割の技術者に対し,1~2カ月にわたってソフトウエア教育を行っている。プログラミング言語やオブジェクト指向などを教えたあとに,10日間程度の演習を2回行うのが特徴である。最初の演習では,床に描いたラインに沿って動くロボットの制御ソフトを開発する。4~5人のチームを作り,チームリーダや構成管理担当者,テスト管理担当者などの役割を分担する。要求仕様書や開発計画書,プログラム構造設計書などを実際に書かせ,開発プロセスやプロジェクトマネジメントを実体験させる。次の演習では,最初の演習の成果を基に,各チームがオリジナルの機能を加えたロボットを作る。例えば“踊るロボット”などを作った例があるという。

大学や自治体がPBL型教育に向かう

 首都大学東京が設置した公立の大学院である産業技術大学院大学の学長である石島辰太郎氏は,実務教育の重要性について語った。中心となるのがPBL(project based learning)型教育。アーキテクチャやプロジェクトマネジメントに関する専門知識や方法論を学ぶだけでなく,それらの使い方を身に付けるためにプロジェクトを体験させる。

 具体的には仕様や技術の検討,アーキテクチャ決定,開発計画立案,開発環境整備,進捗管理,製品引渡しまでを経験させる。この間にプロジェクトの進め方だけでなく,コミュニケーション能力なども育成する。現在は情報システムを対象としているが,今後は「ものづくりアーキテクト」の養成も行っていく計画という。

 情報処理推進機構(IPA)ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)研究員の渡辺登氏は,ETSS(組込みスキル標準)について語った。ETSSは,組み込みソフトウエアの人材教育やプロジェクトを支援するために,開発に必要なスキルや職種などについて規定したものである

 ETSSでは技術を,(a)通信や情報処理,計測・制御,プラットフォームなどの技術要素,(b)要求分析や方式設計,テストなどの開発技術,(c)プロジェクトマネジメントや開発環境マネジメントなどの管理技術の3つに分類している。企業はその分類にしたがってスキルを体系的に規定することができる。さらにETSSでは「プロジェクトマネージャ」や「システムアーキテクト」,「ソフトウェアエンジニア」などの職種と,各職種に求められるスキルを規定した。

 すでにETSSを利用してスキル基準を策定する企業が,エレクトロニクス業界や自動車業界に出てきている。松下電器産業も研修内容や人材像をETSSと比較し,研修内容の改定などを検討している。さらに新潟県がETSSを利用しながらPBL型教育プログラムを策定中で,SECと組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)がこれを支援・協力しているという。

 このセッションの司会を務めたキャッツ副社長の渡辺政彦氏は「現在,多くのソフトウエア開発者の業務は細分化されてしまっており,ハードウエアを含めた組み込み機器全体の動作を理解していないことが多い。またソフトウエア開発のプロセスやプロジェクトマネジメントの手法もあまり普及していないのが実態だ。これらが品質低下や手戻りなどによる開発工数増大の原因になっている。この問題を解決するために,体系的にスキルを身に付けた人材の育成が必要。演習などを通して基礎と全体像を把握した人材を育てるのが不可欠だ」と述べた。