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右が開発した無線伝送装置
右が開発した無線伝送装置
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送信側回路のみ組み込んでいる
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 業務用ビデオ・カメラ向け無線システムを手掛けるアイデンビデオトロニクスは,HDTV動画伝送に向けた無線モジュールを開発,2006年11月15日から開催される「2006 国際放送機器展(Inter BEE 2006)」に出展する(ホームページ)。

 放送局の映像中継などに利用されるFPU(ポータブル型のマイクロ波伝送装置)技術をベースに,独自のOFDM技術を使って伝送品質を高めた。まずは業務用途に適用し,その後モジュールを名刺の半分程度まで小型化することで,DVD録画装置や大画面テレビなど家庭のAV機器への導入を狙う。

利用帯域幅は無線LANの半分以下

 アイデンビデオトロニクスは日立国際電気の技術者らが設立したベンチャー企業。FPUの技術開発に長年携わった技術者が開発陣を率いる。これまでは米国メーカー製の無線伝送ユニットを販売していたが,昨年から独自開発品の試作を進めていた。

 開発したのは,2.4GHz帯を利用する無線伝送モジュールで,送信側モジュールと受信側モジュールは現在のところ別になっている。伝送方式にOFDMを利用する点や,1次変調方式に16値および64値QAMを用いる点などは,無線LANに近い。ただし利用するOFDMのサブキャリア数が約30倍となる2000本と多いことや,利用帯域幅が7.54MHzと無線LANの1/2以下といった点が異なる。

 パケット・データ伝送でなく動画ストリーム伝送を前提とした伝送フレーム構成を採用している点も特徴だ。送信出力にもよるが,16M~34Mビット/秒の伝送速度で数百mの距離において高品質のストリーム動画伝送が可能と主張する。

 「我々の発想の原点は放送技術にある。FPUおよび地上デジタル放送の受信機の技術を,無線通信システムに応用した。例えばこれを家庭で使えば,高精細なHDTV動画を,部屋中の機器に無線で伝送できる。2.4GHz帯を使っているので,電波も回り込みやすい」(アイデンビデオトロニクス)。利用帯域幅が狭くなるので,2.4GHz帯の免許不要の帯域において10チャネル程度同時に利用することが可能という。同社はInter Beeの会場において,HD DVD再生機などを使ったHDTV伝送を行う予定である。

受信は地デジ・チューナーでもOK

 アイデンビデオトロニクスは既に送信用のRFチップを開発済みである。しかし,ベースバンド処理を担う箇所はFPGAで実現しているほか,まだ個別部品も多い。このため,必要な回路基板の面積も大きくなり,現在のモジュールの寸法は弁当箱程度の大きさである。まずはこのモジュールを,結婚披露宴会場などで利用するリアルタイム映像制作システムや,ラジコン建機と呼ばれる無線操縦型の屋外作業ロボットといった業務用途に適用していく方針だ。

 その後,ベースバンド回路部分もチップ化することで,モジュールを名刺の半分程度まで小型化して,DVD録画装置や大画面テレビなど家庭のAV機器への導入を狙う。

 同社の伝送方式は地上デジタル放送の伝送規格に近いことから,地上デジタル放送の受信機を内蔵したテレビの場合,伝送周波数のダウンコンバータ用アダプタさえ取り付ければ基本的には受信できるようになるという。つまり,動画コンテンツの送信側となるDVD録画機などが送信装置を取り付ければ,地上デジタル放送対応のテレビなら受信システムを設けずとも電波を受信して映像を再生できる。

 「日本のISDB-Tのみならず,DVB-Tなどの受信機を内蔵するテレビなら,小型アダプタをアンテナ接続端子に取り付けさえすれば,大きな変更なく送信システムからの電波を受信できる。送信側と受信側の両方のシステムを用意せずに済むので,機器メーカーにとっては製造コストをあまり上げずに,HDTVの無線伝送システムを機能に加えられるというメリットがある」(同社)。

 同社は2007年初めにも,ベースバンド処理回路をICとして試作し,2007年春にはベースバンドICとRF IC(国内メーカーの130nmのRF CMOSプロセスを利用)を合わせたチップセットとして量産したい考えである。チップ化することで,モジュール当たりの価格を1万円以下に下げることを想定する。既に,複数の大手家電メーカーから,宅内の無線HDTV伝送向けに利用したいという要求を受けているという。今後は,数億円規模と想定されるチップ開発費用の捻出などが課題になりそうだ。