東レリサーチセンター(本社東京)は,パーフルオロスルホン酸系電解質を用いた高分子固体電解質型燃料電池(PEFC)の触媒層内に存在し,PEFCにおけるプロトンの主な通り道とされるスルホン酸基(-SO3H)のクラスター構造を可視化することに成功した。同社は,その成果を2006年11月20日から開催の「第47回 電池討論会」(主催:電気化学会電池技術委員会)のポスターセッションで発表した。PEFCの高効率化には,触媒層の内部も含めて,電解質の分布状態をいかに適切にコントロールするかが重要。同社が今回の可視化に利用した手法は,そうした評価に有効なものという。
同社がこのクラスター構造を可視化するために用いたのは,透過電子顕微鏡(TEM)である。TEMを用いること自体は従来と同じだが,その前段階で必要となるサンプルの処理方法を工夫した。従来,前処理として一般的だったのが,触媒層を樹脂に浸して固めて薄くスライスするといった樹脂包埋という手法。ただ,この手法を用いると,電解質とカーボンのコントラストにあまり差が出ないため,領域によっては明瞭に区別できない部分が存在した。
そこで同社が開発したのが,触媒層を含むMEA(膜/電極接合体)を酢酸鉛に浸して電解質のスルホン酸基のプロトンを金属イオン(Pb2+)に置換して染色し,その上で同社独自の「凍結超薄切片法」というサンプルを薄くスライスする手法で切片を作るといった方法である。イオン交換によってクラスター構造に鉛を導入することで,カーボンとのコントラストに差を付け,カーボンとクラスター構造の識別をより明瞭に行えるようになったという。もっとも,電解質でもクラスター構造以外の部分ではカーボンとのコントラストの差は従来と変わらないため,明瞭な識別はできていない。3次元画像として触媒層内の電解質の分布状態を明瞭に把握するには,この辺りの改良が必要としている。
パーフルオロスルホン酸系以外の電解質については,まだ調査していない。ただ,同社によれば,炭化水素系の電解質でもスルホン酸基があるものについては適用できる可能性があるという。