PR

 Blu-ray DiscやHD DVDといった,大容量の光ディスクを扱えるプレーヤーの普及価格帯品が,続々と市場に登場してくる。例えば,ソニー・コンピュータエンタテインメントが2006年11月11日に発売した「プレイステーション 3(PS3)」はBlu-ray Discプレーヤー機能を備え,20GバイトのHDDを搭載した機種は定価4万9980円。東芝が12月下旬に発売予定のHD DVDプレーヤーは実売想定価格を4万9800円程度としている。いよいよ市場が立ち上がりそうな状況になってきた今,シャープはこれら大容量光ディスクの基幹部品となる青紫色半導体レーザの量産に踏み切った(発表資料1Tech-On!関連記事)。同社は青紫色半導体レーザにとどまらず,光ディスクでは現在主力の記録型DVDに向けて,業界最薄の赤色半導体レーザの市場投入も始めた(発表資料2)。
 シャープの半導体レーザ戦略と製品の技術的な特徴について,同社 電子部品事業本部 化合物半導体システム事業部 副事業部長の種谷元隆氏に聞いた。同氏は,レーザ技術統括と基礎技術開発PTチーフを兼務する。(聞き手=大久保 聡)

プレーヤー用に最適化した青紫色レーザ


――なぜ,このタイミングで量産を始めたのか。

種谷氏 青紫色半導体レーザの生産技術が確立し量産のメドが立ったこと,そしてBlu-ray DiscやHD DVDといった次世代光ディスクの市場が立ち上がる段階になったことが背景にある。市場では,記録機能を備えた機器がまず登場した。ただし,記録機能を備えた機器は高価なので,市場はすぐには立ち上がらないとみている。市場が急速に立ち上がるのは再生機能のみを備えるプレーヤーであり,少し遅れるかたちで記録対応の機器の市場が立ち上がるだろう。普及価格帯のプレーヤーが登場したことで,我々の青紫色半導体レーザの事業展開がようやく見えてきた。

 我々は,赤色半導体レーザと同じように,青紫色半導体レーザの市場が推移するとみている。赤色半導体レーザは,まずプレーヤー用に再生のみに対応する低出力品市場が立ち上がり,遅れて記録用の高出力品市場が伸びてきた。青紫色半導体レーザは,機器の市場投入時期では記録用が早かったが,実際に市場が立ち上がるのは再生用の方が先になる。

 まずは急速に立ち上がるプレーヤー市場に向けて低出力の青紫色半導体レーザの出荷を始め,記録機能を備えた機器の市場が立ち上がる時期に高出力品を市場投入する予定である。高出力品の開発は着々と進めている。

――シャープ製のプレーヤー用青紫色半導体レーザの特徴は何か。

種谷氏 大きく二つある。消費電力は業界最小であること,そして素子寿命は業界最高水準であることだ。消費電力は,10mWのレーザ光を連続出力したときに標準168mW,実測では124mW。市場に出回る次世代光ディスク・プレーヤーが搭載する他社製の青紫色半導体レーザを当社で評価したところ,10mW連続出力時の消費電力は実測で172mWと大きかった。消費電力は,再生用にレーザ構造を特化したことで抑えられた。共振器長は記録用の半分にとどめ,レーザ構造を工夫することで光出力を少ない動作電流で再生用に十分な光出力を得られるようにした。10mW出力時の動作電流は27.9mAであり,前出のプレーヤーが搭載する品種は41.7mAもあった。あえて高出力を狙わないことで,再生用にレーザの仕様を最適化したわけである。

 素子寿命は,25℃でのMTTF(mean time to failures)は,10mW連続出力時に最低でも1万時間を確保している。この素子寿命は,70℃で10mWを連続出力したときの寿命試験結果から推定した値である。動作電流が試験開始時の1.3倍になったときを故障と定義した。

――生産技術について聞きたい。

種谷氏 青紫色半導体レーザを形成するGaN系結晶膜にクラック(結晶のひび割れ)が入りにくく,結晶中への応力の蓄積を抑制できる技術を開発したことが大きい。今回の青紫色半導体レーザはGaN基板を使った。発光ダイオード(LED)で用いるサファイア基板を使う場合に比べると,青紫色半導体レーザを形成するGaN系結晶膜との格子定数差が小さいので結晶欠陥が少なく,結晶中の応力も小さい。しかし,GaN系結晶膜の層構造にあるAlGaN層はGaN基板と格子定数や熱膨張係数が異なるために,AlGaN層中に応力が蓄積し,それがクラック発生につながる。クラックが入ると,共振器長やレーザ端面状態がバラついてしまい,レーザの特性が素子間で均一ではなくなる。つまり不良品が多発する。クラックが入っていなくても結晶中に応力が蓄積されている。レーザを駆動してレーザ発光する活性層の熱は上がったときに,この応力が原因となってクラックが発生し,故障する危険性もある。

 そこで,我々はGaN基板に,深さと幅がそれぞれ数μmの溝をあらかじめ掘り込み,その後でGaN系結晶膜を成長させる方法を採った(図1)。溝を作ることで結晶中への応力蓄積を軽減し,クラック発生を抑え込んだ。仮にクラックが発生しても,溝の部分でクラックが面内に長く伸びることはなくなり,結果としてクラックが入る素子が少なくなった。結晶中の応力軽減は青紫色半導体レーザの歩留まり改善につながっただけでなく,素子寿命の向上にも効果を発揮した。

 この溝を設ける技術は,現在開発中の記録用レーザにも生かす。記録用レーザの試作品は,80℃で210mWをパルス出力したとき,3000時間超のMTTFを得られることを確認している。