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 2006年の暮れも押し迫ってきた。日本全体が「そろそろ仕事納め」という雰囲気に包まれる中,日本のエレクトロニクス・メーカーは「2007 International CES」の準備に余念がない。

 そんな多忙な時期に,Blu-ray DiscとHD DVDの両陣営の技術者が,相次いで中国に乗り込んでいる。目的の一つに,中国独自の規格に基づく光ディスク・プレーヤー「EVDプレーヤー」の現状を調査することがあるようだ。「つい最近,本格的に調査をはじめたところ。一度中国に派遣団を送ったが,『これはもっと良く調べた方がいいぞ』と結論付け,年末に再度派遣することになった」(次世代光ディスクに関わる技術者)。

 中国の光ディスク市場に何が起こっているのか。以下,EVD規格が注目されるに至った経緯をまとめた。

DVDと同じ物理層にHDTV映像を収録

 EVD(enhanced versatile disc)とは,HDTV映像を再生できる中国独自の光ディスク規格である(Tech-On!関連記事製品の一例)。同規格の特徴は,DVDと同じ光学系,物理層でHDTV映像を再生できること。映像の符号化方式はMPEG-2 Main Profile at High Levelを採用しており,720pの映像なら片面2層ディスクに110分を格納できるほか,1080i出力にも対応する。EVD規格の策定は2003年11月に公開され,2005年2月には中国政府の情報産業部から「国家標準」の認定を受けた。

 これまでEVD規格は,Blu-ray Disc,HD DVD両陣営にとって,ほぼ無視できる存在だった。パッケージ・メディアが質・量ともに不足していたこともあり,EVDは中国の消費者から敬遠されていたためだ。さらに,EVDと同様のコンセプトの規格である「HDV」や「HVD」が立ち上がり,中国国内で泥沼の規格競争に陥っていた。

 潮目が変わったのが2006年10月である。中国の大手機器メーカーやコンテンツ・プロバイダ,家電量販店などから成る約40社の企業が,EVD規格の推進を目的とする業界団体「EVD産業連盟」を立ち上げたのである。この団体には,EVDのライバルだったHDVやHVDの推進企業も入っており,事実上の規格統一を意味するとみられる。また,中国最大の家電量販店である国美電器がメンバーに加わったことで,販売チャネルの確保も容易となった。

 そして2006年12月6日,EVD産業連盟は中国国内で記者会見を開き,機器メーカー約20社がEVDプレーヤー約50機種を一斉に発表した。プレーヤーの平均価格は約700元(約1万1000円)と従来より安く抑えた。

 これと合わせ,EVD産業連盟はHDTV映像のダウンロード・サービスの開始を明らかにした。具体的には,EVDのAV圧縮規格や著作権保護規格に準じた映像コンテンツを手持ちのUSBメモリやHDDにダウンロードできる専用端末「EVD流媒体高清加油站」を,中国全土に2500台設置する。料金は1コンテンツ当たり5元~8元(80円~110円)と安い。2007年上半期までにさらに6000台の端末を展開する計画である。

2008年にはDVDプレーヤーを出荷停止

 記者会見の席上でEVD産業連盟は,「2008年にDVD専用プレーヤーの生産を中止し,EVDプレーヤーに移行する」と宣言した。HDTVテレビの特需が見込まれる北京オリンピックに合わせ,EVDプレーヤーの普及を一気に進めたい考えとみられる。

 機器メーカー各社が「DVD専用プレーヤーの生産中止」にまで踏み込んだのには,各メーカーの苦しい台所事情がある。2003年以降,DVD関連特許のライセンス料(1台14米ドル以上)の徴収が本格化したことで,中国の機器メーカーにとってDVDプレーヤー事業はまったく利益が出ないビジネスとなっている。かといって,大量の製造設備が未償却のままである以上,安易に撤退することもできない。そこで中国企業は,光ディスク・プレーヤーの主戦場をEVDプレーヤーへと移すことで,採算が取れないDVDプレーヤー事業から抜け出したい考えとみられる。

 EVDプレーヤーはDVDの上位互換機であるため,海外企業にライセンス料を徴収される点はDVDプレーヤーと変わらない。だが,海外のメーカーがEVDプレーヤーを出荷する際には,逆にEVD関連特許のライセンス料を求めることができる。これにより,海外メーカーに対して価格競争で不利にならない体制を作ることができる。

HD DVDやBlu-ray,中国に進出できるか

 この間,HD DVD陣営やBlu-ray Disc陣営が,中国の次世代DVD市場に対して手をこまぬいていたわけではない。

 例えばHD DVD陣営は,中国の清華大学などの要請を受け,中国版HD DVD-ROM規格の策定作業に入っている。物理層はほぼHD DVDのまま,変調方式やアプリケーション層を,中国のコンテンツ・プロバイダの要望に合わせた独自のものに変更する。例えば対話型操作機能の「HDi(以前は「iHD」と呼んでいた)」は搭載されない見込みのほか,映像圧縮方式や著作権保護方式もHD DVDとは異なるものになる可能性がある。2006年9月には,DVD ForumのSteering Committeeが中国版HD DVD-ROMの物理層規格Version 9.9を承認した。

 Blu-ray Discは独自規格策定の動きこそないものの,中国の機器メーカーにBlu-ray Disc Associationへの参加を呼びかけているという。

 ただしいずれの陣営も,中国市場への本格上陸というにはほぼ遠い状況である。両陣営が今後,中国市場にどのような対策を打つのか,注目が集まる。