「5.1チャネル・システムを部屋に入れたいのだが,リアチャネルへのスピーカー・ケーブルがうっとうしい――」。こう考えるユーザーは多い。そんなユーザーに向けて,前方のスピーカーだけであたかもリアチャネルがあるかのように表現するサラウンド音響操作技術も流行っているが,やはり現実にリアチャネルがあるシステムにはかなわない。スピーカー・ケーブルをなくすために,リアに赤外線や無線LANで信号を飛ばす仕組みも考えられてきたが,これまでのものは残念ながら音質的に首をかしげざるを得ないものも多かった。
しかし,このInternational CESの期間中に,そうしたこれまでの状況を打ち破るような体験をすることができた。ロサンゼルスに本拠を置く,無線RFチップの開発会社である米SST Comunications社のデモンストレーションをヒルトンホテルのスイートルームで聴くことができたのだ。「Wireless Audio Chip」と名付けられた,この無線LANのチップセットの音声伝送は,音質が非常に良かった。
その理由は2つある。第1に,無線LANに802.11aを使ったことだ。これまで802.11bを使う無線LANサラウンド・システムがあったが,11bが使う2.4GHz帯は家庭内でさまざまな用途に使われており,実効のデータ伝送速度が安定せず,十分でなかった。
今回のWireless Audio Chipが使う802.11aは,5GHz帯を使う。米国の場合,16チャンネルが使えて,家庭内で利用したときの実効のデータ伝送速度として,ほとんどの場合10Mビット/秒は確保できる。つまり,マルチチャネル・オーディオのベースバンド信号を伝送できる。
第2の理由は,同社 社長のダニエル・チョウ博士が開発した「スマート・チャンネル」技術の採用である。5GHz帯の電波を使うコードレスホンなどによって通信に障害が発生しても,すぐにほかのチャンネルに移動して最低限のデータ伝送速度を維持する機能である。「だから,絶対に切れないんです」とチョウ博士は胸を張る。
日本の大手AV機器メーカーも強く興味を示しているという。製品に組み込まれるのは今後のことになるが,既に米国のスピーカー・メーカーであるAuraSound社が,自社の5.1チャネル・サラウンドスピーカーシステムに組み込む意向を示している。登場が楽しみではないか。