産業技術総合研究所 界面ナノアーキテクトニクス研究センターは,赤外線反射特性を大幅に向上させたITO(indium tin oxide)微粒子を低コストに製造する技術を開発した。粒径が数nm~数十nmのいわゆるナノ粒子を生成する。純水中に分散させた粒径20~100nmのITO粒子にパルス・レーザーを集光して照射する「液相レーザー・アブレーション法」を使う。ITOナノ粒子は赤外線遮蔽用フィルムやタッチパネルの透明電極材料として一部メーカーがサンプル出荷を始めており,今後フラットパネル・ディスプレイへの応用も期待されている。
一般にITOの粉末やナノ粒子は共沈法などの化学合成法によって作成しており,中和,洗浄,乾燥,または湿式粉砕などの複雑な工程や熱処理が必要である。今回の液相レーザー・アブレーション法は,パルス・レーザーを集光照射するだけという単純な手法であり,製造コストを削減できる可能性が高い。さらに,得られたITOナノ粒子の赤外反射特性が大幅に向上することから,希少金属のインジウムを含むITOの使用量を低減できるという。
液相レーザー・アブレーション法は液体に浸けた金属板や酸化物粒子,または各種の粉体にレーザーを集光照射する方法で,酸化物,貴金属,半導体などの無機系ナノ粒子だけではなく,有機色素などの有機ナノ粒子も製造できる。液体中に閉じ込められた高温・高圧のレーザー誘起プラズマ場によって,瞬間的にナノ粒子を形成するため,ナノ粒子の結晶性を改善できる。また,高エネルギーの化学種を急速に冷却して形成することから,ナノ粒子に効果的に欠陥を導入することもできる。
今回,液相レーザー・アブレーションによって製造されたITOナノ粒子には,過剰の酸素欠陥が存在し,ITOナノ粒子中のキャリヤ濃度が増加している。その結果,赤外線反射特性が向上し赤外線遮蔽フィルムへのITO使用量を減らせるようになった。さらにキャリヤ濃度が高いことから,透明導電性コーティングなどにも利用できるとみる。また,液相レーザー・アブレーションでは水だけではなく,有機溶媒も使用でき,直接,ナノ粒子のコーティング液を製造することも可能である。これにより,ITOナノ粒子コーティングの製造コストを低減できる可能性があるという。
今後,同研究センターでは,液相レーザー・アブレーションによって製造したITOナノ粒子の実用化を目指し,連携企業を募集して,その用途開発を進めていく。なお,今回の成果は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究助成事業による研究成果である。