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図1:「近接垂直ブロー型CVD炉」の構造
図1:「近接垂直ブロー型CVD炉」の構造
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 産業技術総合研究所(産総研)は,同所パワーエレクトロニクス研究センター 主任研究員の石田 夕起氏がSiCのエピタキシャル膜の成長速度が100μm/時と速い化学気相成長(CVD)装置「近接垂直ブロー型CVD炉」を開発したと発表した(発表資料)。成長速度は従来に比べ2ケタ高い。SiCは,電源回路に使うパワー半導体の高効率/小型化につながると期待されているが,価格の高さが普及を妨げる要因の一つになっているという。特に,SiCのエピタキシャル成長は,現行の量産装置で数μm/時とSiに比べ数ケタ遅く,SiCデバイスの価格を押し上げる大きな要因になっていた。今回,成長メカニズムを根本的に見直すことで,高い成長速度を得た。

 従来,定説化していたエピタキシャル成長の阻害要因は,テラス(凹凸がない結晶表面)上における2次元核生成だった。結晶表面に付着した原子は通常,テラス上を拡散しステップ(段差のある部分)にたどり着いて結晶中に取り込まれるが,条件によっては成長核となり拡散してきた他の原子を取り込んでしまう。これが,2次元核生成である。2次元核生成を抑制するため,通常の成膜温度1600℃より100~200℃高温の炉などが提案されてきたが,装置内の部材の劣化,膜厚および不純物濃度の膜内均一性低下などにより,実用化に至っていない。
 これに対し,産総研が発見した阻害要因は,気相中における均一核生成というものである。反応ガスがある濃度以上になると気相中でガス同士が反応し,微粒子を生成してしまう現象を指す。この微粒子は成膜に寄与できないため,成長速度が落ちる。産総研はこれに基づき,近接垂直ブロー型と呼ぶ原料ガスを基板へ垂直に吹き付ける構造の炉を開発し,通常の1600℃で100μm/時の成膜を実現した(図1)。

 産総研が調べたSiC膜の成長速度と原料ガス(SiH4とC3H8)の濃度比(C/Si比)の関係を,図2に示す。成長の仕組みを見直したところ,初期段階の過程を最適化することで鏡面を得られる条件の幅が拡がり,成長速度の上限値が上がることを見出した。従来考えられていたテラス上の2次元核生成による境界線はおそらく図2中のB領域中と,産総研ではみている。これにより,成長の高速化に対しては,なるべく多くのガスを無駄なく基板面上に到達させることが有効と判断し,近接垂直ブロー型を採用した。なお,荒面をもたらす原因は3種類ある。図2中のA/C領域では,階段状に複数存在するステップが合体して大きなステップになってしまうステップ・バンチング,Dでは膜表面におけるSiの凝縮,Bでは気相中の均一核生成である。

 今回は,炉内部の構造に改良を加え,SiC膜の均一性向上も図った。2インチ基板で実験したところ,全面にわたり,平均成長速度140μm/時,膜厚バラつき3.9%などを達成した。生産性の大幅な向上が期待でき,特に数十mm以上の厚膜形成では,現行の量産装置に比べ2倍以上の生成効率の向上を見込めるという。今後は,新開発した機構を用いた量産型装置の実用化に向け,CVD装置メーカーと意見交換や共同開発を行いたいとした。なお,この成果は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の産業技術研究助成事業による研究から得られたものである。

図2:SiC膜の成長速度と原料ガスの濃度比の関係(出所:産総研)
図2:SiC膜の成長速度と原料ガスの濃度比の関係(出所:産総研)
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