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 インターリンクは,燃料電池車に関する最新動向を発表した。以下が,その報告文である。(田野倉 保雄)

燃料電池車(FCV・FCEV)をめぐる最近の状況

2000年6月23日
株式会社インターリンク
〒222-0031 横浜市港北区太尾町100-1 ポッシュビル302

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1. 「California Fuel Cell Partnership」

 カリフォルニア州サクラメントで、2000年秋から燃料電池車(FCV・FCEV)と燃料電池バスの「California Fuel Cell Partnership」実証試験が開始する。米国におけるFCV・FCEV実用化の第一歩となるこの実証試験にダイムラー・クライスラー(DC)、フォード、ホンダ、日産、フォルクスワーゲン(VW)と現代の自動車メーカー6社、BP Amoco、ShellとTexacoの石油会社3社、CARB、CEC、SCAQMDとDOEが参加する。Ballardは燃料電池バスオペレータとして参加する。また、水素供給会社のLinde、PraxairとAir Products and Chemicalsとメタノール供給会社のMethanexが準メンバーで参加する。すでに、水素バスの実証試験をおこなっているSunLine Transit(パームスプリング地区のバス会社)とサンフランシスコ湾岸地区のバス会社のAC Transitが準メンバーとして参加する。(注1)

注1:DCとフォードはBallardの「Mark 700」(2スタックで70 kW)を日産は「Mark 900」を使い、ホンダは自社製のスタックを使う。VWと現代は東芝と提携しているIFCの50 kWスタックを使用する。IFCから現代へのスタック納入は2001年春になるので、現代のFCEV実証試験開始は2001年夏からとなる。プログラムのスタート時はBallard色の強い実証試験になると予想されていたが、Ballardとも供給契約を結んでいるVWと現代がIFCのスタックを使用することでこれまでとは違う業界マップができる可能性がある。また、直接水素FCEVの実証試験の予定であったが、VWがガソリン改質FCEVを選択する可能性もあるので「Fuel Free」の実証試験となる。

 1997年12月に、DCが2004年から年間4万台のFCV生産をおこなうと発表している。それがトリガーとなり、他の自動車メーカーも2003年~2005年の実用化・商業化を強くアピールして、先発組も後発組も含めて自動車業界が一気に「FCV・FCEV開発競争」になだれ込んだ。DCはBallardおよびフォードと、1999年4月に、「California Fuel Cell Partnership」設立にこぎつけている。このDCとフォードがつくった「FCV・FCEV商業化の道づくり」にホンダが合流して、その後で、日産とVWが参加を発表。6月になって現代がプログラムへの参加を発表している。GMとトヨタは提携して「独自の路線」を選択している。(注2)

注2:FCV・FCEVの量産を開始するときが、本格的な商業化の時期。FCV・FCEV開発では技術面・コスト面の壁は依然として高い。「ガソリン改質」あるいは「メタノール改質」と中期(2003~2005年)のFCV・FCEV用燃料も意見が分かれている。そのため、最近では、「商業化の時期」というよりも「20~50台規模のFCV・FCEVを市場投入する時期」という表現になっている。
協調路線を選択したGMとトヨタが「California Fuel Cell Partnership」に参加しない理由について、1999年のプログラム開始時にはいくつもの憶測が流れた。GMとトヨタが「California Fuel Cell Partnership」をボイコットした訳ではなく、個人ユーザーにFCV・FCEVをアピールするのにはまだ時期が早すぎると判断しただけである。DCやフォードへの対抗をあげる意見も聞く。「全くない」とは断言できないが、それが大きな理由とは言えない。
1990年代の半ばに、EV普及に向けて誰よりも努力を惜しまなかったGMのJon Bereisa(Global Alternative Propulsion Center)は、「FCV・FCEV普及につなげる努力のうち、技術開発は20%程度。残りの80%は商業化への努力。」と普及は長丁場と述べている。EV普及はGMが率先して旗振りをしたが、FCV・FCEV普及ではDC・フォードが最初の旗振りをしてはどうかといった米国自動車業界間での了解があったとしても何ら不自然ではない。

2. 活発なFCV・FCEVの発表と見逃せない補助電源ユニット(APU)用FC開発の動き

 自動車業界では再編が進み、今後、小型車開発競争の激化が予想される。FC搭載の小型自動車は1990年代の「Luxury Car」や「高級車仕様のSUV」の利益幅を凌ぐスケールの高付加価値乗用車の市場を形成する。この魅力ある市場に向けて大手自動車メーカーからFCV・FCEV試作車の発表が活発になっている。「FCV・FCEVがガソリン車と競合する時期は2010年」という意見も最近でている。すでに巨額の投資をおこなっている自動車メーカーは、その10年をどのように短縮するかに凌ぎを削っている。

 1999年のフランクフルトモーターショーでフォードがメタノール改質「FC-5」を発表。東京モーターショーでは国内自動車メーカーのFCEV発表が相次いだ。そして、2000年1月のデトロイトモーターショーでGMが「PRECEPT」(100 kWのFCスタックで水素吸蔵合金タイプ)を、3月のおこなわれたジュネーブモーターショーではOPELが液体水素「ZAFIRA」を発表している。これで、ひととおり大手自動車メーカーからFCV・FCEV試作車が出尽くしたと言える。

 2004年のFCV・FCEV市場投入が妥当かどうかの意見は分かれるが、DCの「NECAR 4」はすでに技術課題をクリアしている。それでも、DCは技術課題が残っており、低い出力性能と高コストがクリアできていないと述べている。また、FCV・FCEV燃料に関して、「水素は高効率で、ゼロエミッションであり技術的には好ましいが、自動車メーカーの視点から言えばメタノールが現実的である」という姿勢をとっている。(注3)

注3:2000年2月に液体水素「NECAR 4」に同乗してミュンヘン空港水素充填ステーション近辺を5分程走行したが「素晴らしい」の一言であった。DCのデータはNEDC(New European Driving Cycle)の燃費は水素1.1 kg/100 km 37.0 kWh/100 kmでありガソリン換算では4.01 L/100 kmに相当する(A Class はガソリン7.11 L/100 km)。

 FCV・FCEVの開発とならんで見逃してはいけないのが、自動車部品メーカーが推しているAPU(補助電源ユニット)用FC開発の動向である。水素・ガソリンバイフュエル車の「BMW 750 hL」にはIFCの5 kW FCが搭載されており、DCはS-ClassにBallardの3 kW FCを搭載して試験をおこなっている。また、Delphi Automotiveは、2000年5月にBMW、RenaultとAPU用に固体電解型燃料電池(SOFC)開発に同意したと発表している。BMWとDelphiは 1999年からAPU用FCの共同開発をおこなっており、その開発プログラムにRenaultが参加したもので、SOFCはカナダのGlobal Thermoelectricが開発している。

3. 「Mark 900」の発表とFCスタック・改質器などの技術・コスト課題

 2000年1月にBallardが、DCのメタノール改質「NECAR 5」とフォードのメタノール改質「TH!NK FC-5」に搭載されている「Mark 900」を発表した。Ballardは、この「Mark 900」をプレ量産モデルと述べており、FCスタックのディファクトスタンダードとしての位置づけを狙っている。DCは直接水素「NECAR 6」を発表する予定であるとMichael Koss が5月にパームスプリングでおこなわれた燃料電池会議で述べている。「NECAR 6」とフォードの「TH!NK FC-6」に搭載される「Mark 1100」が年内か2001年の始めに発表される可能性もある。(注4)

注4:「Mark 900」のサイズは30 cm x 45 cm x 90 cm。直接水素の出力は80 kW(1.04 kW/L)とあるが、「Mark 900」はメタノール改質用スタックで出力は75 kW (0.97 kW/L)。プレ量産の「Mark 900」では「プラチナ担受量やシール材が少し変わる可能性がある」とBallard AutomotiveのNeil Ottoは述べている。プラチナ担受量やバイポーラセパレータ量産技術などコストに関連する課題が、「依然、未解決という俎板」にあがっている。ヨーロッパ市場にターゲットをあてたメタノール改質「NECAR 5」は、Hanover万博、ベルリンのDCショールームのオープニングとイベントが盛り沢山の2000年6月に発表される予定であったのが延期されている。おそらく、メタノール改質器に問題が残っており、発表が見合わされている状況と推測される。

 移動体FCスタックの耐久性は5,000時間が目標になっている。メンブレンの選択と価格、カーボンペーパー・カーボンクロス価格なども重要であるが、FCスタックの重要な技術課題・コスト課題にあげられるのは、MEA(プラチナ担持量の削減とメンブレン・触媒層成型技術)とバイポーラプレート(コストダウンのための素材選択と量産化技術)である。二次電池の搭載も重要な課題のひとつになっている。「Stop & Go」の多い都市部ではハイブリッド・バージョンがオプションとしてあっても良いがと前置きをしたうえで、「メタノール改質のコールドスタートも(始動電池なしで)解決される」とDCは述べている。

 サクラメントのFCV・FCEV実証試験は直接水素(VWがガソリン改質を選択する可能性もある)でスタートするが、2003~2005年の実用化時期の燃料はRFGガソリンあるいはメタノールになる可能性が高い。自動車メーカーの技術開発の大きな負担になるのが改質器である。また、ダイレクトメタノールの可能性もあるので、それも技術課題・コスト課題としてリストにのぼる。将来の水素供給にそなえて、水素吸蔵合金やナノチューブの技術開発も必要になる。(注5)

注5:MEAを自社で開発しているFCスタックメーカーが多いが、Honeywell(AlliedSignal)は「PRIMEA」(W.L.Gore)を、Nuvera(DeNora)は子会社E-TEKのMEAを使っている。量産が必須課題であるバイポーラプレートに関しては、グラファイト(Ballard)、導電性プラスチック(Honeywell)、ステンレス(Siemens・アイシン)やアルミ/アルミ合金(Nuvera)と素材もまだばらばらの状態である。Shell、Nuvera(Epyx)、出光やIFCがRFGガソリン改質器開発に取組んでいる。FCV・FCEVの普及状況を見極めたうえで、RFGガソリン改質の可能性を検討する姿勢があったので、ガソリン改質器開発は後手にまわってしまった。

4. 「儲かる構図」にダメージを与えないFCV・FCEV価格

 Ballardの「FCスタックは$50/kW」がひとつのマジック・ナンバーになっている。その後、AlliedSignalによる$100/kW のFCスタック試算や「FCスタックシステムは$55/kWで、そのうちFCスタックは$20/kWでコンプレッサやプロセッサなどを含むその他のシステム部分が$35/kW」とBallardの試算などいくつかの数字がでている。システム分野は、自動車メーカーや部品メーカーに技術の蓄積があるのでFCV・FCEV商業化の時期までに解決すると思われる。

「プリウス」のように、生産台数を月産1,000台で立ち上げて、それを一気に2,000台までもっていく先行投資型の車両開発をFCV・FCEVに当てはめるには時期が早すぎる。EVは年間生産台数が200台あるいは250台のスケールであった。FCV・FCEVを期待どおり商業化に繋げるためには月産50~100台規模でスタートする必要がある。その場合、FCスタックシステムの価格は$250/kW程度となることが望ましいが、それが自動車メーカーの重荷になってはならない。(注6)

注6:「TH!NK FC-5」(液体水素として出力80 kWで算定)と「Focus 2000」(ベース車の価格は$20,000)をもとに試算する。$250/kWであればFCスタックシステムのコストは$20,000で、モーターやその他のコストが$5,000となる。この$5,000はベース車の$20,000のうち$2,500を充当して、不足分の$2,500を足して「TH!NK FC-5」の価格は$42,500となる。SCAQMDと連邦政府の補助金が$10,000であれば、$32,500は市場投入の第一ステップである業務用分野に文句なしに受け入れられる。
自動車メーカーによっては出力を下げるとか二次電池とのハイブリッドにするなど市場に投入するFCV・FCEVに差はある。月産50~100台規模のスタートは、量産とはほど遠いのでインターリンクが推定する現状の$2,000/kW(Plug Powerの分散電源用「GE HomeGen 7000」のコストと移動体への搭載という条件を考慮して試算)から「どのように」、また「いつまでに」、$2,000から$250/kWにもっていくのかが鍵となる。「ブレークスルー技術」にチャレンジしないで、その答を「量産によってメンブレンの価格が下がる」とか「白金の担持量を大幅に減らす」などにとらわれているとFCV・FCEVの実用化もコストダウンに繋げられなかったEV実用化と同じ命運をたどることになる。

5. 自動車メーカー、CARBと石油会社がFCV・FCEVの普及推進で協力

 ZEV販売義務を1990年に採択してから、CARBは自動車メーカーと石油会社の反論のターゲットになっていた。クリーン燃料をめぐって、CARBのワークショップや公聴会で石油会社からの攻撃は1994年から1995年に集中した。ところが、技術面・コスト面で確かに大きなハードルはあるが、FCV・FCEV普及に関しては自動車メーカーとCARBが、それに、石油会社がそれぞれ「儲かる構図」を持っているので3者の関係は極めてスムースにいっている。(注7)

注7:1970年代の「排ガス規制の時代」からCARBは規制する側であり、自動車メーカーと石油会社は規制される側となっていた。トヨタのエバポ問題などその対峙関係が全くなくなった訳ではないが、ZEVの普及ターゲットがEVからFCV・FCEVへとシフトしてから3者の関係は変わろうとしている。

 米国の好景気に支えられ売上を伸ばしていた高価格帯の「Luxury Car」や「高級車仕様のSUV」販売にかげりが見えてきた。そして、小型車の時代に移行してきている。FCV・FCEVは自動車メーカーにとって小型車の高付加価値化の重要な選択肢のひとつで、DCは「A Class」にフォードは「Focus」にFCを搭載している。自動車メーカーにはFC搭載で小型車の高付加価値化がはかれる「儲かる構図」がある。今、FCスタックのアウトソーシングか内製かで選択は分かれるがFCV・FCEV商業化の主導権は自動車メーカーの掌中にある。

 カリフォルニア州政府(CARB)の役割は、一定の期限内に個人ユーザーのFCV・FCEV購入につなぐことができる優遇策の設定などを含めてFCV・FCEV商業化への「スムース・ランディング」のアシストで、EVの普及促進と較べると調整はしやすくなっている。

 ZEV規制を切り札に、「大気質の改善」を推してきたCARBだけでなく、カリフォルニア州政府(民主党のGray Davis州知事)も自動車メーカー主導でおこなわれるFCV・FCEVの商業化の経済効果に大きな期待を抱いている。端的な表現をすれば、FCV・FCEV商業化でカリフォルニア州が「儲かる構図」がはっきり見えている。(注8)

注8:米国経済が極めて好調で、カリフォルニア州が「儲かる構図」は、今のところ、それほどはっきりとした議論にはなっていない。それでも、カリフォルニア州が産業振興策を優先させることは当然で、Davis州知事はカリフォルニア州の雇用拡大のためにBallardがサンディエゴ工場でDC-三菱自動車およびフォード-マツダ-VOLVOのFCスタックを生産して、サンフランシスコ郊外のフレモントにあるGM・トヨタの合弁会社のOMNI工場でGM-OPEL-いすゞ-富士重工-FIATとトヨタのFCスタックを生産することを期待している。当然、ホンダのFCスタック生産体制(あるいは供給体制)と日産のFCスタック供給体制にも注目している。

 今後、分散電源PEM型燃料電池の「GE HomeGen 7000」生産がどのような展開をみせるかは別として、FCスタック生産に関してGray Davisカリフォルニア州知事は、「Clean Water・Clean Air Bond」で、Plug Power-GE Micro Generationの燃料電池商業化を後押ししたGeorge Patakiニューヨーク州知事に先を越されている。2002年に知事選があり、カリフォルニア州知事再選、そして、その4年後の大統領選を視野に入れたGray Davis州知事は2003年までに、カリフォルニア州におけるFCスタック生産のメドをつけたいと考えている。(2000年秋にスタートする「California Fuel Cell Partnership」実証試験はこのタイム・テーブルに沿っている)その実現のために、燃料電池に詳しいAlan Lloydをデザート・リサーチ研究所からCARB委員長に迎えいれている。CARBは「カリフォルニア州におけるFCスタックビジネスのインキュベータ」の役割もしている。EVの利用拡大には貢献したが、EV商業化に繋げることが出来なかったカリフォルニア州はこの「儲かる構図」の発表には慎重な姿勢をとっている。

 自動車業界が絞り込みたい大きな懸案ではあるが、まだ、「儲かる構図」がはっきりとしないので、これから数年間は、FCV・FCEVの燃料インフラが話題にあがってくる。特に5~10年後(Shellのシナリオでは10年後の2010年)のOn-Site水素ステーション設置では、カリフォルニア州が中心となって「PFI(Private Financing Initiative)方式」がとられると推測される。リスク負担がともなうので石油会社はFCV・FCEVの普及時期については慎重である。

 石油会社にはFCV・FCEV燃料インフラに関して、?「儲かる構図」ができるまで待つ選択と?「儲かる構図」をつくりあげていく2つの選択肢がある。

 BP Amoco(2000年4月にBP AmocoとARCOが合併)もOn-Site水素供給には大きな関心を抱いている。BP主導で、ヨーロッパ色の強いBP Amocoは天然ガス事業を大幅に拡大しており、石油会社の枠組みから外れてエネルギー供給会社としての立場が強く、Andrew Armstrongが5月にパームスプリングでおこなった発表では、FCV・FCEVは2005年にメタノール改質からスタートして2010年にガソリン改質に移行。その後で、On-Site水素供給になると述べている。BP Amocoは「儲かる構図」ができるまで待つ選択をおこなっている。TexacoやChevronなども様子見の状況にある。一方、Shellは現在の液体水素からOn-Site水素供給までの繋ぎに、既存のガソリンスタンドが使えるRFGガソリン改質をプッシュしている。ShellがおこなっているRFGガソリン改質の研究は後者の「儲かる構図」をつくりあげていくカテゴリーにはいる。

 ガソリン改質あるいはメタノールとFCV・FCEV燃料の選択が分かれるが、技術課題さえクリアすれば2000年半ばのFCV・FCEV燃料は石油会社がOn-Site水素供給に移行しやすいガソリン改質になる可能性が高い。米国ではメタノール燃料に対する受け入れがあまり良くない。カリフォルニア州にもM85メタノールスタンドが80基あったが、メタノール車(ガソリンとのバイフエル車)の普及が伸びず30基に減っている。メタノール価格(課税前)は\13/Lで、ガソリンの課税前の価格より大幅に低い。そのため、メタノールを販売することでFCV・FCEVビジネスで「儲かる構図」が石油会社にはない。従って、年間売上高が5,000億円規模のメタノール供給会社であるMethanexの理論に石油会社は耳を傾けない。その結果、カリフォルニア州では「メタノール改質」をスキップする確率が高い。

 それでも、「同業の石油会社の動向だけをウオッチしている訳にはいかない」とChevronのメンバーが述べているように、電力規制緩和をきっかけに、米国のエネルギー供給会社の動きが活発になっている。このグループの企業からFCV・FCEV燃料供給の「儲かる構図」が出てくる可能性もある。

8. 「Fuel Free」の政策

 CARBはFCV・FCEV燃料に関して技術面のコメントはおこなうが、まだ燃料を特定していない。On-Site水素供給は、将来のエネルギー政策(カリフォルニア州と連邦政府)および石油会社の「ポスト石油ビジネス戦略」からも極めて重要で、California Fuel Cell Partnershipでは石油会社に声がかけられた。カリフォルニア州にとってベストなのはFCV・FCEVの早期商業化であり、水素、メタノール改質(ダイレクトメタノールも含めて)、RFGガソリン改質のいずれでも構わない姿勢をとっている。

 フォードが「Mark 900」を搭載したメタノール改質「TH!NK FC-5」の試作車を昨年のフランクフルトモーターショーで発表したのに続き、DCもメタノール改質「NECAR 5」を発表する。RFGガソリン改質よりもメタノール改質のほうが容易でFCV・FCEV燃料は「メタノール」と思われるが、そうとも限らない。ドイツ政府と産業界のTESプロジェクト(Transportation Energy Strategy)に沿って、DM 4,000万を投入してミュンヘン空港にARAL水素充填ステーションを建設してミュンヘン空港水素プロジェクト(Wasserstoffproject Flughafen Munich)が1999年からスタートしている。ここでは、水素・ガソリンバイフュエル車の「BMW 750hL」と圧縮水素充填のMAN空港シャトルバスの実証試験がおこなわれている。また、液体水素充填の「NECAR 4」の実証試験もおこなわれている。そのため、EUプログラムで使う予定の「TH!NK FC-5」と「NECAR 5」はどこでも走ることができるメタノール改質となった。メタノールは、水素搭載で生じる高圧容器に関する規制やトンネルの走行禁止といった制約を全く受けない。メタノールの供給は北海油田で石油・天然ガス採掘をしており、メタノール製造もおこなっているノルウェーのStatoilが支援する。フォード=米国市場と考えるのではなく、ドイツフォードが45,000人の従業員で年間100万台の乗用車と100万基のエンジンを生産するドイツ企業であることを忘れてはいけない。メタノール改質の「TH!NK FC-5」と「NECAR 5」はドイツフォードとDCがドイツを中心にヨーロッパ市場にターゲットをおいたFCV・FCEVであって、カリフォルニア市場向けではない。

5. ハイ・リスクへの警告

 民生市場向けに、Plug PowerとGE Micro Generationが2001年からの商業化を目指して、485台のパイロット生産を開始した「GE HomeGen 7000」が宙に浮いてしまった。先日の記事では、1999年2月にGEがPlug Powerと交わした契約内容とは異なるスペックであり、GEは購入義務がないと主張している。予想しなかった成り行きで驚いたが、先陣を切って市場導入するハイ・リスクへの警鐘とも言える。契約内容の誤認というよりはコスト面に問題があり、その後、Plug PowerはAXIVAと提携してHT膜を使ったFCスタックのコストダウンとEngelhardと提携して改質器まわりの改良に着手している。「Ballardとも比較したうえでPlug Powerをビジネス・パートナーに選んだ」と昨年11月にGE Micro Generationで北米マーケティング担当のChristopher Lawは述べており、当然、「GE HomeGen 7000」の市場投入は、GEが「最も適切と判断した時期」を選んでおこなわれた。GEが仕掛けたマーケティング戦略であって、Plug PowerのPEM技術が他社を圧倒しているとか販売価格の8,000ドルについての外部のコメントは殆どない。ひとつ言えることは、分散電源PEM燃料電池はプラチナの回収や主要部品のリサイクルが必要で、燃料電池は決して売切りの商品ではなくて、リース・設置とメインテナンス業務を含めた「サービス・ビジネス」であるとGEが考えていた点である。ジェット・エンジンを売り込むためにジェット機のファイナンス業務もおこない、「GEのサービス部門は2000年には収益の70%を超える」と述べるJack Welch会長のビジネス哲学が反映している。4月にアーヘン工科大学のDeDonker教授とこのGE Micro Generationのビジネスについて話をした。ベルギー人で、ウイスコンシン大学からGEに入社してR.D.Kingとモーターの開発をおこなっていたDeDonkerは「いつもセカンド・ベストで収益をあげてきたGEが、何故、トップを切って分散電源PEM型燃料電池のビジネスを始めたのかわからない」と言っていた。

 「セカンド・ベストのGEが先陣をきって市場導入」、そして、「アウトソーシングとの関係」など「GE HomeGen 7000」をめぐる波乱含みの動きは、FCV・FCEV商業化に無縁とは断言できない。これから、FCシステム開発で「アウトソーシング」が活発になる。スペックなどの折合いが中途半端で進行すると、双方にダメージを与えて開発のチャンスを潰してしまう。

1 FCスタックの技術面・コスト面の課題
1 FCスタックの技術面・コスト面の課題
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2 FCV・FCEVの普及予測
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3 水素充填インフラ
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4 EVからFCV・FCEVにシフト
4 EVからFCV・FCEVにシフト
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