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 東芝とソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が次世代プレイステーション向けの128ビット・マイクロプロセサ「Emotion Engine」を製造するための新会社の設立(関連記事)。加えて,SCE単独でのレンダリングLSI「グラフィックス・シンセサイザ」を製造するための新会社の設立(関連記事)。この二つの発表は,家庭用ゲーム機の生産計画が,半導体の生産計画,しいては他のディジタル民生機器の生産計画にまで及ぶ巨大な影響力を持ち始めたことを印象づけた。これまでにも,ASICなどを使って特定の機器向けにLSIを設計することはあった。しかし,特定の機器の発売計画に合わせてLSIの設備投資や微細加工技術の開発を考えることはなかった。

製造ラインを急速立ち上げ

 東芝とSCEが共同で設立する新会社は,東芝側にとって絶好の条件になっている。東芝は,今回の新会社設立の合意を踏み台にして,他のディジタル民生機器向けのLSIを製造するための技術開発の基盤を手に入れたといえる。

 東芝にとってのメリットは以下の通り。まず,東芝は次世代プレイステーションという大市場がほぼ約束されている機器向けのチップの製造を通じて,最小加工線幅0.18μm~0.15μmの論理LSI向け製造ラインを立ち上げることができる。LSIの製造ラインの立ち上げは,DRAMのように単一の品種を大量生産するチップを製造することによって迅速に立ち上げることができる。月産1万枚の製造ラインを単独の品種で埋めることができる論理LSIは,めったにない。低価格化の要求が非常に強い家庭用ゲーム機向けLSIを作るために培った技術を他の製造ラインに展開すれば,ディジタル民生機器向けの論理LSIを低コストで製造できるようになる。しかも設備投資の約半分は他社に負担してもらえるのである。長引く半導体不況に悩む東芝にとっては,渡りに船といえる。加えて,今回の新会社設立に関する合意では,Emotion Engineを機器需要に合わせて製造し,製造ラインに余りが出た場合には東芝が別のチップを製造してもよいことになっている。そして,次世代プレイステーションが機器寿命をまっとうし,Emotion Engineを製造しなくなったときには自由に東芝が使ってよいことになっている。

 このような東芝にとってメリットの多い条件の新会社設立の提案を,SCEからもちかけた模様である。それではSCEは,単純にチップを東芝から購入するという形態をなぜ採らなかったのか。なぜ新会社を設立する必要があったのか。答えは,SCEが次世代プレイステーションを発売したいと考える時期に,必要な量のチップを,想定する調達コストで安定して調達したいと考えたからである。同社は,次世代プレイステーションを早期に大量生産できる体制を整えようとしている。今回の機器の生産計画は,LSIメーカの投資計画や生産計画に合わせて,機器の生産計画を想定できる範囲を超えているのである。また将来,SCEが想定する時期にチップを縮小して,機器の製造コストを削減していけるメリットも大きい。同社は,現在のプレイステーションで約10世代に渡ってチップのバージョンアップをしている。チップの小面積化と周辺回路の集積化によって,チップの製造コストを削減することがねらいである。

 一方,DRAM混載プロセスで製造する「グラフィックス・シンセサイザ」はSCEが単独で新会社を設立した。これには,ディジタル・テレビ受像機向けLSIなどソニー本体のさまざまな機器向けのLSIを最先端の製造技術で作れる環境を,次世代プレイスレーション向けLSIを尖兵として早期に整えたいというねらいがある。DRAM混載技術は,論理LSIとDRAMの集合体であるディジタル民生機器の付加価値を高めるために有用な技術である。実はSCEは,現行のプレイステーションでも,最近のバージョンの機器では一部の部品にDRAM混載チップを使っていた。このチップはソニーの工場で製造している。