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 EDA業界で売上高2位の米Synopsys, Inc.。同1位の米Cadence Design Systems, Inc.と同3位の米Mentor Graphics Corp.が特許裁判がらみの混迷や売上高の低迷に見舞われるなか,Synopsys社は業績を順調に伸ばしている。我が世の春を謳歌しているという声すら,ちらほら聞かれる。

 Synopsys社の論理合成ツール「Design Compiler」は,Cadence社の自動レイアウト・ツール「Silicon Ensemble」と共に,1980年代後半からのASIC時代の設計を支えた。最近始まったシステムLSI時代には,二つのツールの統合が必須になる(EDA Online関連記事1)。ASIC時代には市場をシェアした両社が,システムLSI時代には正面からぶつかる。統合された新ツール・体系をSynopsys社は「Physical Synthesis」(EDA Online関連記事2),Cadence社は「Nano-Project/PKS」(EDA Online関連記事3)と呼ぶ。勝者はどちらか。

 今回,顧客訪問などのために来日した,Synopsys社のChairman and CEOのAart J. de Geus氏に,最近の業績や今後の戦略などについて聞いた。(聞き手は小島郁太郎)

 1999年第2四半期の業績を見ると,競合の米Cadence社(EDA Online関連記事4)や米Mentor社(EDA Online関連記事5)が低迷するなか,Synopsys社は順調だ(EDA Online関連記事6)。違いはどこにあると分析しているか。

de Geus氏 当社が「技術」を大切にしていることである。技術こそが当社の源泉といえる。システムLSI時代を迎え,顧客は新たな設計手法を採り入れる必要に迫られている。新手法の採用にあたって,顧客は,「特別な(primary)EDAベンダ」を選び,そのEDAベンダと密な関係(パートナシップ)を築くことが重要になる。特別なEDAベンダを選定する際のもっとも重要な評価基準が技術である。実際,当社は,顧客満足度で高い評価を得ている。米国のメディアやリサーチ会社の調査結果で,それが証明されている。

 一般にEDAベンダの寿命は短い。これまでにも,興隆を極めたものの消えていったEDAベンダはたくさんある。同じ道をたどらないように,何か手を打っているか。

de Geus氏 市場のリーダには「技術」が欠かせない。当社の経営陣には博士号をもった技術者が多数いるうえ(本誌注:de Geus氏もその一人),新しい技術を生み出せるように,いくつも手を打っている。たとえば,売上高の23~24%を研究開発費に回している。大学とも太いパイプがある。社内で技術発表会を行なったり,社外から講師を招いた勉強会も催している。また,国際会議に投稿したり,特許取得に関しても強力にサポートしている。

 技術だけでは成功しないのでは

de Geus氏 確かに,顧客は技術だけでなく,EDAベンダの安定性についても気にしている。「顧客にとって特別なEDAベンダ」が倒れたら,それまでの顧客の投資が無駄になる。EDAベンダの財務安定性は重要である。EDAベンダにとっても,財務安定性は欠かせない。それなくしては,安定的に研究開発費を確保できないからだ。


 財務状況を安定させるため,当社は製品の販売モデルを切り換えている。具体的には,製品(EDAツール)を売り切り(永久ライセンス)から,期間を限定した使用権方式(期間ライセンス)方式に切り換えている。期間ライセンスの方が,1ライセンス当たりの価格が下がり,顧客の間口が広がるとともに,売上高の振れが小さくなる。顧客にとっても,新しいツールを導入しやすくなるといったメリットがある。現在,約半数が期間ライセンス方式に変わった。

 システムLSI時代のEDAとして,Cadence社とSynopsys社は共に,自動レイアウトと論理合成が合体した設計環境の構築に注力している。Synopsys社に勝算はあるか。

de Geus氏 この新しい分野では当社が優位である。Cadence社が下流のレイアウト設計側から攻めているのに対して,当社は上流の論理設計側から侵攻している。重要なのは,問題点をより上流側でつぶすことだ。上流の論理合成は当社の得意分野であり,競合より優位であるといえる。Cadence社が提供するであろうツールでできることは,レイアウト設計の修正にとどまるのではないか。それは,現在の技術/製品でも十分に対応できることだ。

 Synopsys社は詳細配線ツールをもっていないことで,Cadence社に比べて不利だという意見があるが。

de Geus氏 当社は最上位ブロック間の詳細配線ツールについては,すでに発表した(EDA Online関連記事7)。ブロック内の詳細配線について発表していないが,将来もやらないとは言っていない。しかし,優先度はそれほど高くない。詳細配線をうまく行なうためには,配線の混雑度を均一にすることが重要である。これは配置ツールが扱う問題だ。詳細配置ツールは,デザイン・プラニング・ツールの一機能として発表ずみだ(EDA Online関連記事8)。混雑度が均一になっていれば,どんな配線ツールを使っても問題はない。

 Cadence社は論理合成と配置ツールが合体した「Envisia synthesis with PKS(physically knowledgeable synthesis)」という具体的な製品を7月に発表している(EDA Online関連記事9)。Synopsys社はいつ発表するのか。

de Geus氏 当社はPhysical Synthesis関係のツールについては,上流の方から順次発表している(EDA Online関連記事8EDA Online関連記事7)。論理合成と配置が合体したツールに関しては,日米欧4社と共同開発していることを7月に発表した(EDA Online関連記事10 )。正式な製品発表は,「今年中」に行なう。

 Physical Synthesis以外に注力する分野は。

de Geus氏 システム検証とIPコア再利用である。システム検証に関しては,フォーマル・ベリフィケーション,テスト・ベンチ生成,コード・カバレッジ解析,ハードウエア-ソフト協調検証,DSP設計に加えて,C言語/C++入力などに関係したツール力を入れている。そのうち,いくつかについては最近発表した。IPコア再利用については,たとえば,IPコアの情報をパッケージングするためのEDAツール「coreBuilder」とそれを閲覧するためのEDAツール「coreConsultant」を6月に発表した(EDA Online関連記事11)。また,当社のIPコア・回路ライブラリ群「DesignWare Foundation library」のユーザ数は8000に達した。

 相変わらず,ボードやMCMの設計ツールに興味はないのか。

de Geus氏 現在はチップ,特にシステムLSIに焦点を合わせている。強いていえば,ボード関係では,米Viewlogic Systems, Inc.に投資していることを挙げられる。当社は同社の14%の株式をもっている。

 最後に日本の顧客へのメッセージは。

de Geus氏 HDTV,インターネットを始め,さまざまなアプリケーションで新しいシステムLSIが待たれている。日本には素晴らしいSi技術がある。ただし,それを生かすには,設計力が欠かせない。設計力がなければ,市場への出荷が遅れる。1ヵ月遅れたら,もう競合には勝てない。市場はリーダのものである。2番手にチャンスはない。設計力の確立には,「特別なEDAベンダ」とパートナシップ関係を築き,問題点の解決に一緒に取り組むことが重要だ。