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 ほぼ1年前,米Mentor Graphics Corp.は論理エミュレータの特許紛争を終結させるため,旧・米Quickturn Design Systems, Inc.(現在は米Cadence Design Systems, Inc.の100%子会社)の株式を公開買い付け(TOB)すると発表した。M&Aには慣れっこのEDA業界も敵対的買収には驚いた。しかしTOBは失敗し,Quickturn社はCadence社に買収された。

 今年6月にはMentor社とCadence社の間で,その特許裁判を中止する和解が成立(EDA Online関連記事1)。やっと紛争が終結かと思われた。ところが7月下旬に,Mentor社がQuickturn社を特許侵害で米国Delawareの連邦地方裁判所に訴え,紛争が再発した(EDA Online関連記事2)。

 論理エミュレータは,ソフトウエア製品が大半のEDA業界で数少ないハードウエア製品。製品単価が1億円を超えることも珍しくなく,EDAベンダにとっては魅力がある。高速化を目的にした,単純な論理シミュレーション専用コンピュータとは異なり,汎用コンピュータの高速化によって駆逐される心配が少ない。専用コンピュータではむずかしい,検証対象回路の内部ノードをモニタする機能を備えているためだ。Mentor社の7月下旬の訴えでは,この機能に関する同社の特許が侵害されたと主張している。

 今回,メンター・グラフィクス・ジャパンが催したプライベート・セミナのために来日した,Mentor社のPresident and CEOのWalden C. Rhines氏に,紛争を再開させた狙いなどを聞いた(聞き手は小島郁太郎)。

 6月下旬の和解にQuickturn社側は満足しているようだが(EDA Online関連記事3),Mentor社からはどうだったか。

Rhines氏 当社にとっても良い結果だった。まず,Quickturn社に支払った和解金が300万米ドルですんだことを挙げられる。Quikturn社が当初要求した2億2500万米ドルに比べるれば,御の字だ。もし和解しないでこのまま訴訟を続ければ,300万米ドルは弁護士費用として,あっという間に消えてしまう。また,和解した訴訟の対象は,「SimExpress」という機種に限られる。当社の論理エミュレータの主力機種は「SimExpress」から「Celaro」に移っており,その点からも早く訴訟を中止する意味は大きい。

 せっかく法廷費用を削減できたのに,なぜもう一度裁判を起こしたのか。「EDAベンダは,弁護士ではなく,製品の研究開発にカネを使うべきだ」という主張を変えたのか。

Rhines氏 今も弁護士ではなく製品開発に使うべきだと思っている。しかし,今回の裁判には目的がある。論理エミュレータ特許に関して,クロス・ライセンス契約を交わし,論理エミュレータを米国を含めて世界市場に投入することだ。顧客がそれを待っている。

 以前Quickturn社はクロス・ライセンス契約には応じる気持ちはないと言っていた(EDA Online関連記事4)。クロス・ライセンス契約の可能性はあるのか。

Rhines氏 確かにQuickturn社は交渉の席に着かなかった。しかし,Cadence社が同社を買収したあとで状況は変わった。Cadence社と当社は,現在,クロス・ライセンスに向けた交渉を行なっている。ただし,細かな条件では折り合いがついていない。この交渉のピッチを上げるために,訴訟を起こした。

 Quickturn社はDelaware州の裁判所を選んだ理由がわからないといっているが。明快な理由があるのか。

Rhines氏 米国では手続きが簡素という理由からDelawareで登記する企業は多い。このため,Delawareの裁判所はビジネス関係の裁判が得意で,早く進む。早く決着させるためにDelawareの裁判所を選んだのだ。

 Quickturn社はドイツでCelaroに関してMentor社の現地法人を訴えると言っているが,対抗措置は取らないのか。

Rhines氏 いまのところ,Celaroに関して正式に訴えられてはいない。ことがおきていないうちはコメントできない。

 こんなにもめているならなば,論理エミュレータから手を引いた方がいいという声も聞かれる。論理エミュレータ事業は,Mentor社にとってそんなに重要なのか。

Rhines氏 もちろん重要だ。論理エミュレータ事業は,最近4年間100%以上/年で伸びている。当社にとって成長株の一つだ。しかも,当社にとって重要な顧客が,論理エミュレータを必要としている。システムLSI開発で重要なハードウエア-ソフトウエア協調検証をスムーズに行なうために,論理エミュレータは欠かせないからだ。

 次に,業績について聞きたい。Mentor社の業績は1998年第4四半期(EDA Online関連記事5),1999年第1四半期(EDA Online関連記事6)と売上高が対前年同期比で10%以上伸びた。しかし,1999年第2四半期は,同3%程度にとどまった(EDA Online関連記事7)。その原因と回復の見込みについて知りたい。

Rhines氏 原因は製品の販売モデルが変わっているめだ。すなわち,永久ライセンスから期間限定ライセンスでの販売が増えている。長い目で見れば,トータルの販売収入は同じだ。しかし,期間限定ライセンスでは,四半期ごとに収入があるので,一時的に落ち込むことはある。しかし,自然に回復する。業績に関しては,言いたいことがある。当社の製品販売による売上高の伸び率は,最近5四半期のうち4四半期で,競合のCadence社や米Synopsys, Inc.を上回る。製品の受注に関しても極めて好調だ。製品が売れれば,少し経てばサービス収入も増えることになる。将来の成長は約束されている。

 Mentor社で伸び率が高い製品と,売上げ規模が大きい製品は。

Rhines氏 伸び率が高いのは,Celaro,Calibre(マスク・レイアウト検証ツール),Calibre(パラメータ抽出ツール),ModelSim(論理シミュレータ), Renoir (HDLグラフィカル入力ツール),Seamless(ハードウエア-ソフトウエア協調検証環境),DFT関係ツール,IC Station,アナログ-ディジタル混在シミュレーション,そしてPackaged Power(FPGA/CPLD設計環境)だ。売上げ規模が大きいのは,ModelSim,Calibre,x Calibre,プリント回路基板用ツール,そしてCelaroである。

 最後に,日本の顧客へのメッセージは。

Rhines氏 当社の製品が日本で多数使わていることで,どんどんブラッシュ・アップされ,深く感謝している。たとえば,Calibreを業界1位のツールにしてくれたのは,日本の顧客だ。また,SeamlessやXRAY(デバガ)も使いこんでくれている。当社は,顧客の問題点を顧客と共に解決し,顧客の差異化につながるベスト・ソルーションを提供することを常に最優先に考えている。