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株式会社アクアビット
代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー 田中 栄

 すべてのビジネスは、社会のニーズがあって初めて成り立つもの。社会が変化すれば、当然のことながら社会のニーズは変わってくるのです。もちろん、デジタル産業においてもそれは同じ。だから、未来を予測する場合には、技術の進歩を読むだけでなく、ニーズの変化を的確に察知しなければならないのです。私たちが『未来予測レポート デジタル産業2007-2020』をまとめるに当たり、強く意識したのはこの点でした。

 では、近未来にどのような社会変化が予想されるのでしょうか。もちろん、あらゆる分野で様々な変化が私たちを待ち受けているはずで、それをすべて読み切ることはできません。けれど、現時点である程度予測可能で、かつそれが産業界に大きな影響を及ぼすであろう、変化のいくつかを挙げることはできます。例えば、今まで日本の人口や経済環境は右肩上がりでした。しかしながら、2004年~2006年を境に右肩下がりに転じています。私たちは、今まさに新しい時代に突入していると言えるのです。

 では実際に、現在、どのような社会変化が起こっているのでしょうか。まず、筆頭に挙げたいのが、「人口減少」です。日本ではすでに人口減少が始まっているということはご存じのことでしょう。今後はそれを大前提とした社会になっていきます。その際に認識しておくべき重要なポイントがあります。それは、人口減少は、はじめは緩やかで、団塊の世代が寿命に近くなる2015年以降、一気に加速することです。逆に、高齢化世帯、女性世帯の増加によって、世帯数は2020年まで増え続けることになります。

 「人口の構成」についても注目しておく必要があります。これから数年をかけて、時間とお金に余裕がある団塊の世代が人口構成の中心になっていきます。つまり、日本の社会が、成熟した大人中心の社会になっていくのです。さらに、20年後、50歳代~60歳代の団塊の世代が80歳代になる頃には、その中心が、現在働き盛りの団塊ジュニアと言われる30歳代後半から40歳代の世代へと移行していくのです。

 もう1つ、人口減少に関連して外せない要素として「超高齢化社会」を挙げなければなりません。日本は男女を含め、すでに世界でもトップクラスの長寿国になっていますが、今後、平均寿命はさらに飛躍的に伸びると予想されます。通常の医療技術の発展に加え、ゲノム医療などによって平均寿命が100歳を超える可能性があるのです。高齢化社会といった生易しいものではない、超高齢化社会が現実のものとなっていきます。

 その一方で、「少子化」も進んでいきます。晩婚、非婚、未婚、離婚などによって出生率は低下の一途をたどっていく。しかしそれは、日本だけの現象ではありません。香港や台湾など、土地の狭い先進地域でも少子化が1つのトレンドになっています。このことを前提に、これからの社会を考えていく必要があります。さらに、「労働人口の減少」があります。その傾向は1998年頃から始まっていますが、今後ますます強まっていくでしょう。それに伴い、女性の労働力に期待が高まっていきます。

 労働力に関連していえば、ワークスタイルの多様化が進んでいます。これが続けば、正社員のエリート化が進行するでしょう。正社員がマネジメントを担い、契約社員や派遣社員が実務を行うという構図になっていくのです。契約社員数は今よりずっと増加していくでしょうが、賃金は低く抑えられ、所得の伸びに対する期待もあまり持てません。しかも、将来的な仕事の保証もない。こうした階層化が進行すれば、教育費の負担が大きくなっていくであろうことも容易に予想できます。

 このような社会の変化に伴うワークスタイルやライフスタイルの変化が、今後のビジネスに、非常に大きな影響を与えることになるでしょう。特に、ライフスタイルに関しては、家電製品の進化と普及によって、女性の家事に費やされる時間が年々減少傾向にあり、それによって得られた自由な時間を、携帯電話やインターネットの利用に充てる傾向が強まっています。「グローバル化」の問題もあります。若年層の人口が減少していく中、日本は人手不足を補うため、積極的に外国人を受け入れるようになっていくでしょう。近い将来、外国人と一緒に仕事をしていくことが当たり前の社会になっていくわけです。それに伴って、国際結婚も増えていきます。この結果、従来、日本人の間では当たり前だった価値観や礼儀が当たり前のものではなくなっていきます。


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 社会の成熟化も進行しています。日本は、戦後の高度成長期から今日に至るまで、「もの」を重視してきましたが、徐々に「心の豊かさ」を重視する人が増えてきています。物質的な豊かさを求め、経済を軸に発展を目指してきた日本は、今まさにターニングポイントを迎えているのです。


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 こうした「時代の気分」に支配されるかたちで、国家戦略も変わっていくでしょう。まず、「殖産興業」から「富国有徳」への移行があります。すでにその気配はありますが、日本は経済発展だけでなく、世界から尊敬される国家、均衡ある国土の発展を目指すようになっていくでしょう。それと同時に、「貿易国家」から「投資国家」への移行も起こります。これまで日本は、海外から原料を輸入し、加工して輸出することで、経済を発展、維持してきました。しかしながら、最近の国家の統計を見ると、投資による収入が右肩上がりで増えてきており、ついに2005年には、貿易と投資が逆転し、今もその差はどんどん拡大しています。つまり、日本はもはや貿易国家ではなく、投資国家になっているのです。日本が保有している資金を、いかに世界経済の中で有効活用し運用していけるかに、日本の命運はかかっているのです。


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 国家戦略について、もう一つ指摘しておくべきポイントがあります。それは、日本が、従来の大量生産・大量消費を前提とした経済システムから「持続可能な循環型社会」を前提とした経済システムへと変換するタイミングにきているということです。今や環境問題抜きに、いかなるビジネスも成り立たせることはできません。この変換に伴い、企業の在り方も変わっていくでしょう。

 従来の日本のビジネスは「ものづくり」が中心でした。土地と設備を用意し、人という労働力を使って大量にものを生産することによって戦後の日本経済は発展してきました。しかしながら、もはや生産拠点はコストの低い国に移っています。こうした中、日本は新しいビジネスモデルへの転換を迫られているのです。それを「21世紀産業」と呼びましょう。

 この21世紀産業の中身を一言でいえば、「見えない価値観をいかに経済価値に変えるか」に尽きるでしょう。例えば、コーヒー1杯を採っても、数十円から1000円まで実に幅広いわけですが、この価格の差には、雰囲気やブランド、豆の質などさまざまな要因が関係しています。そして、そのどれもが、単純に豆の量や重さなどでは測れないもの。21世紀産業とは、すなわち、こういった定量化が難しいものを人々に理解してもらい、それを経済の価値に変換することなのです。このことはあらゆる産業に当てはまります。

 もう1つの変化としては「経済資源に対する捉え方」が挙げられます。従来のものづくり中心のビジネスにおいては「土地」や「設備」が経営資源でした。それに対し、今後は「顧客」が経営資源になっていくと予想されます。企業にとって「自社の顧客をどれだけ多く持っているか」が重要になっていくのです。例えば、いくら高度な技術を持っていたとしても、誰も使ってくれなければ、その経済価値はゼロということになりますし、逆に、あまり技術的には高いものでなくても、多くの顧客を持っていれば、企業価値は高いということになります。

 企業の「見えない価値」を生み出しているのは、人材にほかなりませんから、顧客同様、「優秀な人材や人脈」も企業にとって大きな価値になっていきます。「ブランド」も、目に見えない非常に重要な価値です。同等の商品でも、ブランドによって100円になったり1000円になったりするということはご存じの通りです。これは、その企業に対する信頼が、ブランドという形で経済価値を上げているということです。

 こういった新しい価値観というものは、1つの業界の産業の枠組みの中だけで捉えていたのでは、創造することはできません。そのために重要になってくるのが「共創」です。これまで「きょうそう」と言うと、競合他社が「競い合う」ことでした。しかしながら、これからは「共に創る」ことが重要となっていきます。異分野の企業同士が、自社が持っている顧客、人材、ブランドといった企業価値をコラボレートさせ、新しいビジネスを創造していくということです。

 幸いなことに、あらゆる産業がデジタル化、ネットワーク化し、デジタル・コンバージェンスすることによって、今まで異分野とされていたものの境界が一気になくなってきています。その結果、新しいデバイス、新しいサービス、そしてそれらが複合したような新しい産業というものが、この10年~15年の間で数多く起こってくることになります。「未来予測レポート」では、この体制を取り得る企業モデルを「21世紀型の新世代の企業モデル」という意味で「カンパニー2.0」と呼んでいます。この体制を整えた企業こそが、これからの激動をくぐり抜け、強い競争力を保持しながら勝ち残ってくのだと、私たちは考えているわけです。

本稿は、日経BP社が発行した『未来予測レポート デジタル産業2007-2020』(田中栄・西和彦著)に収録したDVDの要約と同レポートの本文中に掲載した図版の一部によって構成したものです。『未来予測レポート デジタル産業2007-2020』の詳細については、こちらをご覧下さい。

著者プロフィール

田中栄
1966年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。株式会社CSK入社。社長室企画部にて、故・大川功会長の独自の経営理論や経営哲学を学ぶ。1993年、草創期のマイクロソフト株式会社に入社。WordおよびOfficeのMarketing責任者として「一太郎」とワープロ戦争を繰り広げ、No.1ワープロの地位を確立。1998年春よりビジネスプランナーとしてマイクロソフト日本法人全体の事業戦略・計画立案を統括。2002年12月、独立のため同社を退社。株式会社アクアビットを設立。