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 「史上最大の大型合併」と騒がれて1998年10月に誕生したばかりのDaimlerChrysler社が,同11月に最上級車「Sクラス」を発売した。言わずと知れた同社のフラッグシップ・カーである。外観はこれまでと同じく威風堂々。ただし,その内部には他の自動車メーカや自動車機器メーカが注目する,ある技術がさりげなく組み込まれていた。

新たな変革が起こる

 この技術が起爆剤となって,いま自動車業界で大きな変革が起き始めている。車載情報機器の「インタフェース規格の標準化」,そして「クルマの情報化の加速」である。

 こうした変化は,これまで自動車分野とは縁遠かった家電メーカやコンピュータ・メーカなどが,自動車市場に乗り込む大きなチャンスを生むだろう。

他メーカも追随の構え

 この変革を巻き起こす起爆剤となるのは,プラスチック光ファイバ(POF:plastic optical fiber)を用いてディジタル・データを伝送する技術である。Sクラスでは,自動車用ナビゲーション装置(カーナビ)やCDプレーヤなど最大6種類の情報機器をPOFで相互に結び,いわゆる情報系の車内LANを構築している。

 「公式には発表していなかったが,Sクラスに採用する前,すでに1998年半ばからAクラス,CクラスなどMクラス以外の車種にはPOFの採用を始めていた(Tech-On!の関連記事)。Mクラスにも1999年中に適用する計画である」(DaimlerChrysler AG Vorentwicklung und Fahrwerk PKW Telematitik-SystemeのDieter Seidl氏)。

 DaimlerChrysler社によるこうしたPOFの本格的な採用は,他の自動車メーカにも刺激を与えている。特に欧州自動車メーカは,DaimlerChrysler社と同様に,POFを使った情報系LANを2000年~2002年には実用化しそうだ。

 これに対して国内自動車メーカは表面上,静観の構えである。ただし,「どの自動車メーカもPOFの実用化に向けた開発を着々と進めている」と機器メーカは口をそろえる。「ある大手自動車メーカは今年になって,複数の電装メーカにPOFを使った車内LANのプレゼンテーションをさせたらしい」との噂が飛び交う。

決して新しい技術ではない

 POFを介して情報機器を接続するという技術自体は,決して目新しいものではない。1990年前後,多くの国内自動車メーカが実用化した実績がある。当時,POFを使うブームが起こり,各社ともその先進性をうたった。

 たとえば,運転席前にある操作部とトランクルーム内に設置したCDチェンジャ本体を1対1で結び,ディジタル・データをやり取りした。だが,「コストが高かったため,やがて積極的には使わなくなった」(ある機器メーカ)。

 ところが,ここにきて再びPOFが「ポスト・ワイヤ・ハーネス」の候補として浮上してきた。クルマの情報化,エレクトロニクス化が進むにつれて車内を流れるデータの伝送速度が高速化し,ワイヤ・ハーネスが放射する電磁雑音の問題が浮上してきたためである。

 なかでも,電磁雑音の発生源として特に問題視されているのが,情報系LANで使うワイヤ・ハーネスである。制御系,情報系,電装系という三つの車内LANのうち,この情報系LANがもっとも高いデータ伝送速度を必要とする。映像や音声といった,比較的高い伝送速度を必要とするデータを扱うためだ。たとえばCDプレーヤでは1M~2Mビット/秒程度,DVD(ディジタル・ビデオ・ディスク)プレーヤでは10Mビット/秒程度のデータ伝送速度となる。

データ伝送速度は今後さらに高速化

 今後,クルマに流れ込むデータの伝送速度は,さらに高まっていくと自動車メーカは予想している。データ伝送速度が高くなれば,それだけ放射する電磁雑音の強度も高まる。一層厳密な電磁雑音対策が必要となり,コスト増を招く。「100Mビット/秒程度のデータ伝送速度が必要となった場合,ワイヤ・ハーネスでの対応は厳しくなるだろう」(松下通信工業)。

 この問題は,POFを使えば解決する。データ伝送速度にかかわらず,そもそも電磁雑音を放射しないためである。「電磁波の問題からも,そろそろPOFの利用を真剣に検討すべき時期に差し掛かっている」(クラリオン)。

    連載の目次
  1. 光が開くクルマ市場(1)
  2. 光が開くクルマ市場(2)
  3. 光が開くクルマ市場(3)
  4. 光が開くクルマ市場(4)