PR

 日立製作所は,2007年1月にパソコンなどに向けた水冷システム・モジュールの製造を開始した。現在,日本ヒューレット・パッカードのワークステーション「HP xw9400/CT Workstation」やNECのデスクトップ・パソコン「VALUESTAR W」に向け,水冷システムを供給する。さらに,同社ではノート・パソコンに向けた水冷システムの開発を進めている。同社のコンシューマ事業グループ ソリューションビジネス事業部 サーマルソリューション事業センタ センタ長の源馬英明氏に,開発中のノート・パソコン向け水冷システムについて話を聞いた。(聞き手:宇野 麻由子=日経エレクトロニクス)



――ノート・パソコン向けの水冷システムはどのようなものを目指しているのか。

源馬氏 まだ開発途中ではあるが,既にコンセプト・モデルは出来上がっている(図1)。(1)ポンプと一体になったマイクロプロセサ用水冷ジャケット,(2)ファンとリザーブ・タンクが一体となった放熱用ラジエータ,(3)グラフィックスLSIやチップセットなど,その他の部品に向けた水冷ジャケット,(4)各部品を接続して冷却液を流すチューブ,で構成する。

 今回の水冷システムは,ノート・パソコンといっても室内で持ち運ぶ程度の,いわゆるデスクトップ・パソコンの代替品になるものに向けて開発した。ディスプレイが17~20型の比較的大きいもので,ゲーム向けノート・パソコンやAV機能を重視したノート・パソコンでの採用を想定している。我々はこうしたノート・パソコンが2008年頃に多く登場すると考えている。

 こうしたノート・パソコンの場合,LSIの消費電力は70~200W以上にも及び,放熱が難しくなると見られる。消費電力が百数十Wを超えるLSIをファンの回転音を抑えつつ冷やすためには,液晶ディスプレイの背面を使って冷却する必要があると言われている。キーボード下に配置されたLSIの熱を液晶ディスプレイの背面まで運ぶには,水冷システムが欠かせない。

――デスクトップ・パソコンに向けた水冷システムと,ノート・パソコンに向けた水冷システムでは,どのような点が異なるのか。

源馬氏 デスクトップ・パソコンに比べて,ノート・パソコンでは実装面積に余裕があまりない。さらに,製品によって薄型や高機能など,目指す性能が大きく異なっている。その結果,部品に対する要望はそれぞれに大きく異なるだろう。例えばラジエータの場合,液晶ディスプレイの背面に実装することを考えて「薄型であれば面積は大きくてもいい」という顧客もいれば,キーボード下に収めるために「厚みがあってもいいから面積は小さくしてほしい」という顧客もいるだろう。デスクトップ・パソコンに向けた水冷システムではある程度の部品の共通化が見込めたが,ノート・パソコン向けでは各部品のカスタマイズが必要で,共通化を図ることが困難と考えている。

 しかし,コストを下げるためには共通化できる部品はできる限り共通化したい。そこで,水冷ジャケットやラジエータなどの部品をそれぞれ何種類か用意しておき,機器に合わせて所望の部品を組み合わせる方法を考えている。例えば,ラジエータの冷却能力はファンが2個ついたものが90W,ファンが3個ついたものが130Wである。消費電力が200Wを超えるような機器の場合は,この2種類を組み合わせて使う。

 消費電力90W以下のマイクロプロセサを冷却する場合であれば,ファンが2個のラジエータを採用できる(図2)。これは,今回のコンセプト・モデルを使った最小構成に当たる。使っている部品は図1に使っているものと同じで,容易に組みかえられる。

――ノート・パソコンに向けるため,各部品にはどのような工夫を施したのか。

源馬氏 基本的に薄型化を進めた。一番の改良点はマイクロプロセサ用水冷ジャケットと一体にした薄型のポンプだ(図3)。あるメーカーの厚さ8.3mmの薄型ポンプを採用している。詳細は明かせないが,吐出圧力は一般的な遠心ポンプの約2倍で,流量は400mL/分,消費電力は2W以下である。冷却液を流すマイクロチャネルを形成した銅板は厚さ1.6mm(図4)。ピッチ0.09mmのフィンの部分も含め,全面の厚さを1.6mmにした。ポンプを一体にした水冷ジャケット全体でも高さは11mmに抑えている。光ディスク装置などの高さが9.5mm程度であるため,このくらいの高さならば実装できると考えているが,詳細は顧客とともに詰めることになるだろう。

 実際の製品化に当たっては,落下試験やヒンジ部分の寿命試験がネックになりそうだ。今回のコンセプト・モデルはあくまで水冷システム単体であるため,落下試験などへの対策は施していない。パソコン全体で開発する必要があると考えている。

 小型化,軽量化については,17~20型のノート・パソコンを想定する限り,この程度で十分ではないか。90W用の最小構成であれば,ヒート・パイプを使った空冷方式のシステムと比べても軽いくらいだ。15型のノート・パソコンにも実装できるのではないか。場合によっては,静音化を目指すデスクトップ・パソコンからも引き合いがありそうだ。この程度の大きさであれば薄型のデスクトップ・パソコンにも収納でき,ファンの回転数は空冷方式よりも抑えられる。

――携帯型ノート・パソコンは用途として想定していないのか。

源馬氏 携帯型ノート・パソコンではファン・レスに対する要望が根強い。その意味では,液晶ディスプレイ背面全体を放熱に使う水冷システムに対しても需要はあるのではないかと考えている。しかし,B5サイズのノート・パソコンには現時点の水冷システムは入らない。要求される軽さ,薄さを実現できない。

 今回のコンセプト・モデルに使った薄型ポンプでも,携帯型ノート・パソコンにはまだ大きすぎる。圧電素子を使ったポンプを採用すれば小型化は可能だが,流量がおおよそ100mL以下/分と小さく,不十分になってしまう。さらに研究開発が必要だろう。

この記事を英語で読む

この記事を中国語で読む

図1 開発中のノート・パソコン向け水冷システム。中央の銅でできたものがマイクロプロセサ用水冷ジャケット。ポンプと一体になっている。銀色の板状のものがグラフィックスLSIやチップセットなどに向けた水冷ジャケットである。それぞれ黒い薄型のファンが2個ないし3個付いているのは,放熱用のラジエータ。両端には冷却液のリザーブ・タンクを備える。
図1 開発中のノート・パソコン向け水冷システム。中央の銅でできたものがマイクロプロセサ用水冷ジャケット。ポンプと一体になっている。銀色の板状のものがグラフィックスLSIやチップセットなどに向けた水冷ジャケットである。それぞれ黒い薄型のファンが2個ないし3個付いているのは,放熱用のラジエータ。両端には冷却液のリザーブ・タンクを備える。
[画像のクリックで拡大表示]
図2 最小構成の水冷システム。冷却能力は90W。現在のノート・パソコンで採用されているマイクロプロセサの消費電力80〜90Wのものが最大であるため,この水冷システムで冷却できるとする。ラジエータの外形寸法は約155.4mm×89mm×14.5mmである。試作品では,液晶ディスプレイの背面やキーボードの下に配置することを想定している。
図2 最小構成の水冷システム。冷却能力は90W。現在のノート・パソコンで採用されているマイクロプロセサの消費電力80〜90Wのものが最大であるため,この水冷システムで冷却できるとする。ラジエータの外形寸法は約155.4mm×89mm×14.5mmである。試作品では,液晶ディスプレイの背面やキーボードの下に配置することを想定している。
[画像のクリックで拡大表示]
図3 ポンプ一体型のマイクロプロセサ用水冷ジャケット。上の銅板の部分にマイクロチャネルが作られている。下の黒い部分が薄型ポンプ。従来品と比べると,水冷ジャケットの中にポンプが入ってしまったようなイメージだ。
図3 ポンプ一体型のマイクロプロセサ用水冷ジャケット。上の銅板の部分にマイクロチャネルが作られている。下の黒い部分が薄型ポンプ。従来品と比べると,水冷ジャケットの中にポンプが入ってしまったようなイメージだ。
[画像のクリックで拡大表示]
図4 マイクロチャネルを作りこんだ銅板。フィン部分が出っ張っていない。
図4 マイクロチャネルを作りこんだ銅板。フィン部分が出っ張っていない。
[画像のクリックで拡大表示]