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図1 パーソナルフィールドスピーカー
図1 パーソナルフィールドスピーカー
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 ソニーは,頭にスピーカーを装着するという「パーソナルフィールドスピーカー」を2007年10月20日に発売する。耳の近傍にスピーカーを配置することで,音場を目の前に広げて臨場感が高まると主張する。音楽を聴く場合だけでなく,ゲーム機とつないでも臨場感を高められるという(発表資料Tech-On!関連記事図1)。一見するとヘッドホンだが,音漏れを防ぐ機構が入っていない。このスピーカーを開発した経緯や効果,実現するために用いた技術などを,音響設計を担当した同社 オーディオ事業本部 第3ビジネス部門 1部 ACC担当部長の山岸亮氏と,メカ設計を担当した同社 オーディオ事業本部 第3ビジネス部門 1部 2課 シニアエンジニアの山口恭正氏に聞いた。

――なぜ,頭にスピーカーを装着する構造を採用したのでしょうか。

山岸氏 前方にあるスピーカーで音楽を聞く場合,音場は目の前に広がっていますが,ヘッドホンで音楽を聴くと音は頭内に定位,つまり頭の中にこもったような状態になります。音の聞こえ具合が違うわけです。ヘッドホンを使う場合でも,オーディオ信号に処理を加えることで音場を頭内から頭外に出せますが,処理によって音質が劣化する可能性があります。音場が自然に頭の外にあり,しかもスピーカーで聴いている場合と同じように音楽を聴けるようにすることを考えると,耳の前にスピーカーを配置するという結論に行き着きます。

 据置型スピーカーで音楽を楽しむ場合,スピーカーを配置した部屋に行かなければなりません。部屋の壁面の反射などが音質に影響を与えることもあるでしょう。しかし,頭部にスピーカーを装着してしまえば,視聴する場所の制約や壁面反射の影響はなくなります。

 実は,耳の前にスピーカーを配置する考え方は30年以上前からあり,決して新しいものではありません。ただし,商品化に至った例はごくわずかです。重さが300g以上もあり,頭部に装着したときにどうしても違和感が出てきます。加えて,ヘッドホンの音を好むユーザー,つまり頭内に定位する音を好むユーザーもいます。これらが,今までスピーカーを頭に装着するという考えが市場に受け入れられなかった理由でしょう。このような問題を解決すれば,臨場感があり,かつ高い音質の音楽を聴く手段としてあらためて提案できると考えました。

――パーソナルフィールドスピーカーならではの特徴は。

山岸氏 まず,重さが約96gしかありません。通常のヘッドホンとほとんど差がないので,頭部に装着しても違和感はないでしょう。そして音質。中でも35~400Hzの重低音の再生能力を高めています(図2)。スピーカーは口径21mmのバスレフ方式を使っていますが,ここまで小型で重低音を出せた例は過去にないと思います。

――小型でありながら重低音を出せるようにするため,どのような工夫を施しましたか。

山岸氏 まず,スピーカーの材質を見直し,ネオジム(Nd)磁石を使うとともに,磁気回路に用いる材料をすべてパーメンジュール(本誌注:鉄(Fe)とコバルト(Co)の合金。FeとCoを1対1の割合で混ぜてある)にしました。採用したネオジム磁石は最大エネルギー積が440kJ/m3に達し,パーメンジュールは一般的に磁気回路に使われる純鉄をしのぐ飽和磁束密度を備えることから力強い音を再生でき,スピーカーを小型にできました。加えて,パーメンジュールは純鉄に比べて制振性が高いことも音質向上に効いていると思います。

 ネオジム磁石やパーメンジュールはいずれも高価な材料です。これまで磁石にネオジム,磁気回路にパーメンジュールを使ったスピーカーといえば,1本当たり30万~40万円もします。今回,スピーカーを小型化したことで材料の使用量が少なくてすみ,高価な材料といえども採用できました。

 重低音については,「エクステンデットバスレフダクト」と呼ぶダクトをスピーカーのバスレフ部分に取り付けました。スピーカーを耳に装着すると,このダクトの先端が外耳道の入口に近づき,低音は直接外耳に届けられます。共振を利用して低音の音を増強できるように,ダクトの長さも調整しました。

 一般的に,スピーカーを小型にすると低音の再生能力が低下してしまいます。しかし,エクステンデットバスレフダクトによって低音を分離することで,小型スピーカーでありながら低音の再生能力を高められました。実は,スピーカーは小さくなるほど音質は良くなるんですよ。スピーカーのキャビネット内では音の反射がキャビネットの共振を引き起こし,生じる音が音質を劣化させているのですが,キャビネットが小さくなるほど共振で生じる音が高周波側に移ります。つまり,共振が引き起こす雑音は耳では聴こえにくい領域に変わるわけです。今回の小型スピーカーは小さいだけでなく,キャビネットの形状を球面にして音の反射そのものも減らしました。結果として,7k~8kHz以下では振動起因の雑音は生じません(図3)。

 そのほか,スピーカーの密閉性を高める工夫も施しました。キャビネットにすき間があると空気漏れが生じ,音質劣化につながるためです。エクステンデットバスレフダクトとスピーカーの接続部は接着材を一切使わず,Oリング(本誌注:リング状のゴム製パッキン)を介してネジ止めしています。

 このような工夫によって音圧の周波数特性は向上し,再生能力は周波数が低くなっても音圧をほぼ一定にできました。35Hzまで周波数が低くなると音圧は落ちてきますが,400Hzに比べて10dB低い程度に収まっています。

――後編に続く――

図2 音の流れと音響特性
図2 音の流れと音響特性
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図3 反射波成分の比較。青線は従来のスピーカー,赤線はパーソナルフィールドスピーカー(図中のPFR-V1)
図3 反射波成分の比較。青線は従来のスピーカー,赤線はパーソナルフィールドスピーカー(図中のPFR-V1)
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