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 『未来予測レポート デジタル産業2007-2020』(田中栄・西和彦著,発行:日経BP社)の発行を機に,ソニーの元会長兼CEOでクオンタムリープ代表取締役の出井伸之氏に,西和彦氏(ITNY 代表取締役マネージング・ディレクター)が問いかける形で対談していただいたもようをお伝えする記事の,今回は2回目である。(以下敬称略,(1回目の内容はこちら))

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【西】日本は、ものづくりの概念を変えていかないと危険というお話でしたが、そこを詳しくうかがえますか?

【出井】20世紀というのは、数量が伸びる時代だった。基本的には量産社会だから、とにかくたくさん作る。ところが、それでは日本は21世紀を乗り越えられない。中国などが安いものを大量に作ると最安値でできるわけですから、日本は量産文化の中にいたのではダメでしょう。高付加価値路線に切り替えざるを得ないのです。

 その高付加価値産業の典型例が映画でしょう。1社で年間20作くらいしかできないわけだから。できないというか、1本当たりの制作費用が40億円も50億円もかかるわけですよ。それを20本作ると、1000億円かかってしまう。大きな産業だけど量ではない。要するに、量産の日本文化と対極にあるのが、コンテンツ・クリエーションなのです。

 だからソニーは、本質的にはそっちを勉強しなければいけないと考え、私が社長になったときに、デジタル・ドリーム・キッズということと、もう1つ「エンドとエンドを押さえます」、要するに「ハードウエアとコンテンツを押さえます」ということを掲げたのです。真ん中の流通の部分は、ケーブル、衛星、ブロードバンド、無線など、どんどん変化していくので「真ん中には手を出しません」というわけです。

 そこで、エンドの一方であるハードウエアに関しては、これまでのテレビに加えて、ゲーム機、パソコン、携帯電話機と、商品カテゴリーを増やしてきました。もう一方のエンドであるコンテンツに関しては、それほど変わっていない。安いコンテンツや小さいコンテンツは無料になってしまうけど、大規模なコンテンツというのは、コピーはできても、そう簡単にまねて作れるものではない。ですから、基本的にはハードウエアとコンテンツを押さえるというのがソニーの本質なんです。

 このように、高付加価値産業とエレクトロニクスを組み合わせていこうとすれば、徐々にエレクトロニクス産業自体を変質させていかざるを得ない。

 先に挙げたハードウエアとコンテンツという「両端」を押さえるというのは、いわばコンバージョン(融合)戦略ですが、一方でソフト・アライアンス戦略も実行してきました。その一番の成功例がソニー・エリクソンなのです。

 フラットパネル・ディスプレイに関しては、液晶ディスプレイ(LCD)と有機ELディスプレイで提携相手を変えました。LCDは最も生産力のある韓国サムスンにして、一方の有機ELをにらんだ小型LCDでは豊田自動織機とジョイントベンチャーをやることにしたのです。自動車の真ん中にあるディスプレイとしては、視野角が広い有機ELが将来最適になると思ったからです。

【西】だから、ソニーは映画会社を買って今日までちゃんと保持してきているわけですか。松下電器産業は売ってしまったけど。松下電器産業、東芝、日立製作所など、これまで日本の産業を牽引してきたものづくりの会社が、今後、どうやって高付加価値産業に移行していくかは注目に値しますね。


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【出井】そうですね。映画以外では、航空機産業なども高付加価値産業と言えるでしょう。テレビのように大量生産するものではありませんから。

 航空機産業と同様に、医療機器産業も今後、高付加価値産業になっていくのではないでしょうか。PET (positron emission tomography:陽電子放出断層撮影)やMRI(magnetic resonance imaging:核磁気共鳴画像)などコンピュータ関連技術が医療機器にもどんどん使われるようになりましたから。今後、画像診断のために、画像圧縮技術が一層重宝されるようになれば、日本の技術が大いに貢献することになるでしょう。次世代は、人体を分析する医学分野で、日本のAV技術がものすごく使われるようになるのではないかと期待しています。

 あまり顕著ではありませんが、経営者の側にも変化が起きているのではないかと感じます。例えば、東芝は原子力発電にかなり舵を切ってきました。このことからもわかるように、経営者の志向が「高付加価値の製品をグローバル規模で販売する」という発想に変わってきているように感じるのです。経営者の視点がようやくグローバルになってきたということでしょう。日本の国自体も、そうなっていかなければ、今後生き残ってはいかれないですよ。

【西】競争が激しいものづくりの世界にあって、ソニーは日本企業がやっていないようなことにいち早く着手してきましたが、それはレッドオーシャンから抜ける1つの方策というわけですか?

【出井】レッドオーシャンで、今、最も注目を浴びている存在がFoxconn…(次ページへ