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 『未来予測レポート デジタル産業2007-2020』(田中栄・西和彦著,発行:日経BP社)の発行を機に,ソニーの元会長兼CEOでクオンタムリープ代表取締役の出井伸之氏に,西和彦氏(ITNY 代表取締役マネージング・ディレクター)が問いかける形で対談していただいたもようをお伝えする記事の,今回は3回目である。(以下敬称略,(2回目の内容はこちら))

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【西】時代の先駆者という点で、ソニーが開発した「FeliCa」については、現在の状況に対して、どのような感想をお持ちですか。開発当初から、電子マネーはグローバルマネーになっていくという予測があったのでしょうか。

 FeliCaチップを搭載した電子マネーの最初のお客さんは香港で、実用化は1997年のことでした。その後、2001年にJR東日本の「Suica」として交通に導入され、携帯電話機に入って今、ようやく普及が本格的を迎えたわけですが、実用化する前は、どのような予測をされていたのでしょうか。かつてクレジットカードが発明され、紙幣が不要になりましたが、電子マネーが出てきたことで1万年に及ぶコインの歴史が塗り変えられることになりそうなわけですが、そういった手応えは感じていらっしゃったのでしょうか。

【出井】1985年、私がコンピュータ部門にいたときに、社外から日下部進氏を迎えてFeliCaの技術開発をはじめたのですが、彼が15年間、執念を持って取り組んだ結果が現在の状況につながっているのです。

 当時から、将来的にはいろいろなものに使われるだろうということは予測していたので、最初は無料で配りました。そのせいで、ずっと大損続きでした。ですが昨年、電子マネーの展示会に行ったときに「昨年1年間で過去10年分と同じ数量が出た」と聞いて非常に感激しました。要するに、新技術の普及には、ある臨界点があるということでしょう。コンサルタントの方々がソニーに来るたびに、「出井さん、電子マネーの勝因はソニーがどうやって儲ければよいか分からず、とにかく無料で配ってしまったことでしょうね」と冗談混じりに言っていますが、実際、その通りだと思います。新しいインフラを作ろうという話なのですから、まずは普及しなければ話になりません。今後、リテールバンキングなどは、おそらくFeliCaなしには生きていかれなくなるはずですから、FeliCaは金融とさらに深く結びついていくことになるでしょう。

 一方で、ソニーはハードウエアの文化が強いので、どうしても、ついついチップで儲けようとしてしまう。でもチップは氷山の一角で、本当はアプリケーションの市場の方がずっと大きい。今後FeliCaのようなものがソニーの体質改善のきっかけになることを、私としては非常に期待しています。

【西】出井さんは以前、クオリアブランドを立ち上げられましたが、今振り返ってみて、どのような感想をお持ちですか。


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【出井】私がクオリアブランドをやろうと思ったときの狙いは、20世紀の量産型の時代からインタンジブルな高付加価値型の時代への移行だったわけですが、少し早過ぎた気がしますね。日本には一流品はあるけれど超一流品はないので、超一流品を目指したわけですよ。これからの日本人が憧れるのは、やはり一流品を超えた超一流品でしょうから、その戦略は決して間違ってはいなかったと思っています。

 その点、欧州の人たち、たとえばフランスやイタリアにはそういった感覚を持っている人たちが多いように感じます。ですから、欧州には突き抜けた超一流のものがあるのでしょう。でも、日本は残念ながら、工業的文化において一流を突き抜ける前に不況に陥ってしまいました。ですから、日本もこれからじゃないですか。

 2030年の世界を想定したとき、私は、グローバルに通用する超高級品をやっていないと日本は絶対に生き残れないというふうに考えています。しかし、そのためにはまず電子産業、自動車産業といった区分けを取っ払っていかなければならない。何度も言うようですが、既存の日本の大企業のほとんどが未だに20世紀型です。21世紀型に変わるためには、再度、大きな変革が必要でしょう。今の20世紀型の延長線上で21世紀型の企業に変えていくことは無理で、考え方を根本から変えない限り既存の企業はつぶれる運命にあると思います。

 ものの価値で言えば、スタンドアロンのものは素材の値段ということですから、値段は下がる一方です。その観点から言えば、私は、自動車産業が実は非常に危ないのではないかと思っています。今後、ガソリンがディーゼルになり、さらにはローエンドの車もハイブリッドになることで、自動車の作り方そのものが大きく変化していくわけですから。例えば最近、東京電力が電気自動車の小型車を試作していますが、新規参入企業の出現だって、いくらでも起こりうる話でしょう。

 ですが、自動車のエレクトロニクス化が進んでいるから…(次ページへ