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 ですが、自動車のエレクトロニクス化が進んでいるからといって、総合エレクトロニクスメーカーが自動車をつくるということにはならないでしょう。可能性がないわけではないが、低いと思います。何が本業か分からなくなってきている総合エレクトロニクスメーカーが、さらに自動車にも手を広げるようになったら共倒れになりかねません。もしやるのであれば、別会社を作るべきでしょうね。

【西】ところで、出井さんが最初に駐在されたのは欧州であり、社長就任後、最も何度も行かれたのがニューヨークですよね。エレクトロニクスの世界で、欧州と米国の違いはどういったところにあると思われますか?

【出井】「フェラーリ」対「GM」みたいなものではないでしょうか。要するに、付加価値をつけて魅力を演出するフェラーリやアウディに対して、それを大衆向けに作っているGMのシボレーという構図です。換言すれば、フェラーリはカスタムメイドであり、シボレーは冷蔵庫のような白物家電です。ソニーを含め、日本企業には米国よりも欧州的な発想をする人が多いように思います。


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【西】今後、中国やインドで顧客が増えてきたとき、彼らはどちらのお客さんになりそうですか。

【出井】経営者であれば「自分は成功者なのだから」ということで、フェラーリなどの世界最高級ブランドを買うでしょうね。けれどもそれは中国の富裕層が憧れるところであって、一般大衆はそうではないでしょう。インドでも現在、富裕層は0.5%程度で、シリコンバレーには3000人ものインド人の起業家が集まっているのですが、彼らの憧れはやはり最高級外車です。でも、今後育ってくるいわゆる中所得者階級の場合は、おそらくスズキなどの低価格で品質の高いもの、あるいはインドの国産車などが数多く売れるようになるのではないでしょうか。

【西】欧州は超高級志向で行けばよいでしょう。ローエンドの分野では、インドや中国の台頭が目覚ましい。そういった中で今後、日本はどうしていけばよいのでしょうか。

【出井】戦後、日本はずっと米国に寄り添うようにして成長してきました。しかしながら、最近はその米国が行き詰まりを見せていて、その一方でインドや中国がどんどん伸びてきています。そういった中、日本はグローバルにリポジショニングしていかなければならない。実際、ソニーでは、現在、従業員の約5分の1が中国人ですよ。これこそがこの5年におきた変化ですね。

 とはいえ、私は、向こう3年~5年間は楽観視しています。インド、中国、ロシア、ブラジルなどは昔の日本がやっていたことを追いかけているという段階ですし、しかも消費への意欲は衰えない。でも、その先が問題。要するに、20世紀型のビジネスモデルに各国が追いつき、21世紀型のビジネスモデルに移行していくといったときに、どの分野に注力していくかが最大のポイントになると考えています。それは、エレクトロニクスではないかもしれません。エレクトロニクスはあまりにも軽産業で、まねされやすく、中国が得意とする量産型のビジネスですから。

【西】半導体産業についてはどうでしょうか。インテルを別とすれば、今この分野では韓国や台湾のメーカーが勢力を伸ばしているわけですが。

【出井】私は、韓国勢は半導体を作っているのではなく、メモリーを作っていると捉えています。要するに、ノンインテリジェント型のキャピタル・インテンシブ・マニファクチャリングということです。日本が半導体で生き残っていくためには、やはり高付加価値のアプリケーション、高付加価値の半導体をいかに作るかを考えていく以外にはないでしょう。日本の将来は、その辺にかかっていると思います。

 「今後、日本を支えるテクノロジーは何なのか」ということを見極めることが、今、日本にとって、最も重要なテーマなのです。半導体産業だって、生産面での抜本的なブレークスルーを見つけられるかもしれない。そうなれば状況は大きく変わります。

【西】ソニーは標準フォーマットということにこだわっているようにも感じられますが、今後、21世紀型産業を考える場合、企業はフォーマットを押さえるということを意識した方が良いのではないでしょうか。

【出井】いや、そういったことは考えない方が良いでしょう。もし、日本企業がフォーマットについて本気で取り組むのであれば、グローバル・プレーヤーとして取り組むべきであって、日本国内でやっても意味はありません。だって、日本の人口は、世界の人口が66億人であるのに対し、わずか1.9%なわけです。

 2%にも満たない人が使うものによって98%以上の人が使うものを規定するというのは相当に困難なことです。もし、中国がフォーマットを作りたいと言い出せば、人口が13億人もいるわけですから、日本などは、それに従わざるを得なくなるでしょう。つまり、標準化でイニシアチブを握るというのは、国の小さい日本の最も苦手なところなのです。標準規格を決めるには国際投票などが必要になるわけですが、日本は国連の常任理事国入りのキャンペーンでもさんざん苦労したわけで、しかも国が小さ過ぎる。

【西】では、出井さんにとって、21世紀型企業とはどういったイメージなのでしょうか。(次回に続く

本稿は、日経BP社が発行した『未来予測レポート デジタル産業2007-2020』(田中栄・西和彦著)の発行に関連して行った対談の内容を基に構成したものです。『未来予測レポート デジタル産業2007-2020』の詳細については、こちらをご覧下さい。


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