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 『未来予測レポート デジタル産業2007-2020』(田中栄・西和彦著,発行:日経BP社)の発行を機に,ソニーの元会長兼CEOでクオンタムリープ代表取締役の出井伸之氏に,西和彦氏(ITNY 代表取締役マネージング・ディレクター)が問いかける形で対談していただいたもようをお伝えする記事の,今回は最終回である。(以下敬称略,(3回目の内容はこちら))

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【西】では、出井さんにとって、21世紀型企業とはどういったイメージなのでしょうか。

【出井】ソニーが生まれた当初は今のソニーを想像できなかったのと同様、それをイメージするのは難しいことです。とはいえ、技術そのものが21世紀型になってしまうわけですから、おそらく、今の生態系を壊すということになるでしょう。

 例えば、ソニーがトランジスタラジオを作った1950年代当時、真空管を作った人は新参技術であるトランジスタの悪口を100ぐらい言っていたはずです。ですから、今、伝統的な産業に携わっている人に批判されている企業や人が、次世代を担うことになるでしょうね。医薬品で言えば、DNAに効く薬や細胞の再生治療、ステムセル(幹細胞)などがそうかもしれません。これらは、今の医学の生態系が壊れるからという理由もあってか反対されていますが、何年後かには当たり前のものになっていると思います。

【西】そうした時代を担う人材を育てる、21世紀の教育はどうすべきだとお考えでしょうか。

【出井】少なくとも、今の日本の教育は大いに改善の余地ありではないでしょうか。とにかく、現行の東大入試や全国模擬試験といった画一化を生むものは即刻やめるべきですね。答えは1つだという前提の下で、全国の人が同じ答えを出し、採点されるという世界は気持ち悪いですよ。世の中に、答えが1つしかないものなどないわけで、東大に入る人というのは、多分、設問に対する推理力と記憶力が高い人であって、決してクリエーティビティーが高いわけではないということです。ですから、まずはあの無駄な試験を止めて、自分で自分の世界を選ぶということに時間を使うようにすべきでしょう。

 クリエーティビティーを別の言葉に置き換えると「わがまま」とか「非合理性」といったところではないでしょうか。鉄鋼会社には鉄鋼会社のクリエーティビティーがある。自動車メーカーのクリエーティビティー、映画制作会社のクリエーティビティーなどいろいろあるわけですが、私の感覚では、中でも映画制作会社のクリエーティビティーのハードルは極めて高いと思います。

 そのような人たちが仕事をするときの仕組みは独特です。私はハリウッド的なスタイルが結構好きなのですが、スペシャリストがみな同じ町に住んでいて、何かプロジェクトが起こったときだけ、参加したい人が名乗りを上げて参加するというやり方をとっています。固定化した組織にとらわれない。

 一方、工業製品を作る場合は、仕様を決めるまではクリエーティビティーが相当に求められますが、その後は同じことの繰り返し。もっとも、常にコンシューマの声に耳を傾けつつきちんと責任を取らなければいけないという点で、コンシューマ産業というのはものすごくハードルが高い産業だと思うのです。これから、多くの企業がグローバルカンパニーを目指すでしょうから、大コンシューマ・カンパニーというのは出にくくなるでしょうね。すべての国(グローバル)とそれぞれの国(ローカル)のレベルの両方に合ったビジネスを展開していかなければならないわけですから。
 
【西】私自身が1つ、21世紀型企業として持っているイメージは、投資機能を持っているということです。やはり、日本のマネーが動かないことには、グローバル経済は動かないわけですから。しかしながら今、現場が投資機能を持っている会社というのはほとんどないですよね。


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【出井】その通りですね。投資には2つあって、まず、資産をどうやって自分で再投資していくかということ、もう1つは、投資を生産投資にするのか、リストラ投資にするのか、それともM&Aに使うのかということです。それによって、今までの経営手法はかなり変わってくると思います。単純に言えば、バランスシートの右側で調達して、左側で使うということですが、これをトータルで見ていかないと企業経営はできません。

 例えば、シスコシステムズがリビングルームに進出したいと考えたとき、日本の企業と違って彼らは「そのためにはどの会社を買えば良いか?」と発想するわけです。ネスレなども自社の成長とM&Aによる成長をきちんと区別している。

 自らの力でコツコツと成長して行く手法を「オーガニックグロース(有機的成長)」もしくは「インターナルグロース」と呼びます。日本では聞き慣れない言葉かも知れませんが、ソニーにはありますよ。一般の社員が意識しているかどうかは別ですが、1988年と1989年にCBS・レコードとコロンビア・ピクチャーズ・エンタテインメントをそれぞれ買収した際には、インターナルグロースではなく、M&Aグロースとして計上しました。

 ソニーは日本企業の中でも最もM&Aをやった企業のひとつではないかと思いますが、数多くの金融技術を駆使してきているわけで、そういう意味では、ソニーは本社の機能は、長期格付け投資、事業投資機能、すなわちアクティブ・インベスターといえるでしょう。そういった中、日本政府がまず取り組まなければならないことは、東京を世界有数の金融都市に育てるということと、経営者の金融マインドを育てるということだと思っています。

【西】それは、21世紀型ビジネスモデルの経営者としての条件の1つということでしょうか。

【出井】条件の1つですね。例えば、伝統的な日本の…(次ページへ