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【出井】条件の1つですね。例えば、伝統的な日本のリテール・バンクがあったとして、その経営者がアメリカのヘッジファンドのファンドマネージャーに金融に関して最新の言葉で対談しようとしても、おそらくできないと思うのです。同じ「金融」と言っても、あまりにも言語が違いますからね。

 製造業で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれた1980年代からみれば、米国は日本を完全に追い越して、ITと金融を結びつけ、IT金融資本主義を作ったわけです。一方、日本はまだ「産業資本主義プラスアルファ」といった段階でしょう。

 日本がものづくりをベースにしていくのは必要ですが、米国の金融資本主義によって、日本がものづくりで稼いだお金がどんどん米国に流れていってしまっているのは問題でしょう。「日本って一体、何なんだ?」と思いますよ。貯まったお金は自分で使えばいいのに、それをしないで米国に返してしまうというのは変じゃないですか。

 日本は世界の中で、今のEU(欧州連合)における英国みたいな立場を取っていくべきでしょうね。ピンとこないかも知れませんが、EU諸国に比べて英国は完全に一歩先を行っています。EUに加盟して規模の経済をエンジョイしながら、通貨は一緒にしないということで自国を守っているわけですから。日本の政治家や官庁にも、あれだけの徹底した原理原則をもって日本を牽引していってほしいと思います。

 例えば、英国のブリティッシュテレコムという会社は、英国政府が持っているのですが、議決権は行使しない。その代わり、面倒も見ないというわけです。それに対し、NTTはいまだに政府が株をもってコントロールしようとしている。それがあるうちは、グローバル社会の中で勝つことはできません。

 英国のポンドが上がっている一方で、日本の円はどんどん下がっている。これは日本の価値が下がっているということです。日本も、EU対英国のような関係を、世界対日本で構築できるようになれば強くなるはず。そのためには、日本が、世界に影響を及ぼすだけの未来技術を開発する必要があり、今、そのための長期的な投資をしなければいけないということだと思います。

 同時に、世界に対してはシステムをオープンにしていかなければならない。日本企業も日本国家も、グローバルに考えていくべきです。グローバルに考えれば「日本の人口が減るのは困る」といった発想は、絶対になくなるはずです。GDPという考え方はすぐにやめた方がよい。IBMだって、創業国であるアメリカではなく、海外でインドなどの外国人が稼いでくれているわけですし、それに見習って日本企業も、直接外国人を雇えばよいのです。


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【西】そうなっていくと、企業に対するロイヤリティー(忠誠心)はどうなのでしょうか。IT社会において、ネットワークを通じて、遠隔地で仕事をするようになれば、企業に対するロイヤリティーはどんどんなくなってしまうのではないでしょうか。グローバル規模で展開していく場合、ロイヤリティーは不要になるということでしょうか。

【出井】ソニーの場合でいえば、総じてロイヤリティーは高いと思いますよ。

 グローバル規模で企業が展開していく場合、ロイヤリティーは不要になるかというと、そうではありません。けれど、そもそも日本人は企業に対するロイヤリティーが高いのでしょうか? 日本人は、単に企業の外に出て独り立ちをするのが怖いだけだと思います。リスクをとることを恐れて、自分に対する保身の方が勝つというわけです。これは、終身雇用制度に端を発しているのです。例えば、日本のサービス産業は、ほとんど日本しか見ておらず、視野がすごく狭い。

 日本企業がグローバル化していくためには、まず、役所がグローバル化しなければならない。ところが先日、世界資本市場ランキングというものを見たら1位がロンドン、2位がニューヨーク、東京は9位だったんですよ。しかも驚いたことに、シドニー、香港、シンガポールと、アジアの都市が3つも、東京よりも上位にランキングされていて、ちょっと暗くなってしまいました。そのとき一緒にいた人たちは、「ショックだ」と盛んに言っていましたが、私は感覚的に9位という位置に「そうだろうな」という感想を持ちました。

 今、日本政府がやらなければいけないことは、ODA(official development assistance)に加えて、ODI(official development investment)をやることなのです。伸びる国に投資していくのです。10年も経てば子孫は感謝するでしょう。そして、これからの日本は、IT時代のものづくり、金融、自然循環型社会ということを目指していくべきでしょうね。(この部おわり)

本稿は、日経BP社が発行した『未来予測レポート デジタル産業2007-2020』(田中栄・西和彦著)の発行に関連して行った対談の内容を基に構成したものです。『未来予測レポート デジタル産業2007-2020』の詳細については、こちらをご覧下さい。


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