
着色されたCu配線の電子顕微鏡写真

ベース部分をSiGe膜で形成する,「SiGeバイポーラ・トランジスタ」
両写真とも出典は,IBM社の
WWWサイトの
Microelectronics Gallery
である。
あれにはやられた-----国内半導体メーカを悔しがらせたのが,米IBM Corp.のCu配線の電子顕微鏡写真である(右上写真)。本来モノクロの電子顕微鏡写真に,赤銅色の着色。この写真によって,「Cu配線ならばIBM」というイメージをチップ・ユーザに植え付けることに成功した。
IBM社は,プロセス技術をマーケティングの武器に使う手を緩めない。Cu配線の次は,SOI(silicon on insulator),そしてSiGe技術である。SiGe技術とは,バイポーラ・トランジスタのベース部分をSiGe膜で形成することで,高速なトランジスタを作る手法である(右下写真)。
今回,来日したIBM社Microelectronics部門で通信用LSIを担当する技術者らに,SiGe技術を利用する立場から,その応用や同技術を使うチップの設計法などについて聞いた。
インタビューに答えたのは,IBM社 Microelectronics部門で,Associate Director Wireless Products Applications, Marketing and Strategyを務めるWalter F. Lange氏(上写真),Marketing Managerを務めるKevin F. Walsh氏(中央写真),SiGe Program Managerを務めるVineet Malik氏(下写真)である。
-- IBM社では,SiGe技術を使ったバイポーラ・トランジスタ(以下,SiGeトランジスタ)をまずどこに応用するのか。
IBM社 われわれが担当する通信用LSIが,SiGe技術の応用先として有望だ。SiGeトランジスタで高周波(RF)アナログ回路を構成すれば,GaAsの部品が不要になる。しかも,当社では,CMOSで構成するディジタル回路とSiGeトランジスタによるRF回路を1チップ上に混在させられる。通信向け1チップ・システムLSIが,実現できる。
-- そのようなシステムLSIはいつころから市場に出しているのか。
IBM社 1998年12月からだ。

Walter F. Lange氏

Kevin F. Walsh氏

Vineet Malik氏
-- 具体的には,どのようなシステムLSIか。
IBM社 顧客のチップについて多くは語れないが,たとえば,米Intersil Corp.(1999年6月に米Harris Corp.から分社,同8月に新社名決定:(EDA Online関連記事1)が1999年2月に量産出荷した無線LAN用チップがある(リリース文)。また,当社も,SiGeトランジスタを適用したGPSレシーバ用チップを今年11月1日に発表した(IBM社関連ページ)。
-- SiGeトランジスタを使ったときのメリットを具体的に知りたい。
IBM社 製造プロセスを微細化することなく,高速なトランジスタを得られることだ。通常のSiプロセスにほんの少し手を加えるだけで,速度を3~5倍に上げられる。たとえば,0.35μmルールのSiプロセスの場合,SiGe技術の導入で,バイポーラ・トランジスタの遮断周波数fTを20GHzから60GHzに上げられた。また,この性能向上分を,低消費電力化に振り向けることもできる。たとえば,先に述べたGPSレシーバ用チップでは,SiGeトランジスタを使うことで,同じ機能を1/3の消費電力で達成した。
-- なぜ,いま,SiGe 技術が注目を集めているのか。
IBM社 IBM社が実際のチップに採用したからだろう。これはジョークだが,市場ニーズの高まりを挙げることはできる。SiGe 技術を使うことで初めて得られる,速度と消費電力のバランスの取れたチップの需要が出てきた。具体的には,第3世代携帯電話機向けLSIなどだ。
-- シーズ面(製造技術的には)ではどうだ。
IBM社 二つある。一つは低温エキタピシャル成長技術。もう一つは,SiGeトランジスタで構成したアナログ回路と,CMOSで構成するディジタル回路を1チップに混載するための技術だ。とくに二つ目の技術は重要だ。ディジタル回路は枯れた回路ライブラリを使って設計できるからだ。
-- SiGeトランジスタを使うチップの設計は難しいか。
IBM社 SiGeトランジスタを使うことよりも,アナログ回路とディジタル回路を混載した大規模チップを設計する方に難しさがある。たとえば,両回路を同時にシミュレーションすることは,一筋縄ではいかない。
-- 設計には自社開発のEDAツールを使うのか。
IBM社 当社は大規模,高性能なディジタルLSI向けには,優れたEDAツールを開発し,それを活用している。しかし,アナーディジ向けに関しては,外部のツールも積極的に活用する。具体的には,システム/回路の設計および検証には,米Agilent Technologies, Inc.の「Advanced Design System(ADS)」を(EDA Online関連記事2),レイアウト設計/検証には,米Cadence Design Systems, Inc.の製品を使う。ADSは,システム・レベル,回路レベル,デバイス・レベルのシミュレーションが一つの環境で行なえるので,重宝している。
-- SiGe技術とCu配線,SOIは併用するのか。
IBM社 Cu配線についてはイエスだ。次の世代では,0.18μm CMOSプロセス上で,SiGeトランジスタを形成する。このCMOSプロセスはCu配線を使えるので,SiGe技術とCu配線を併用できることになる。通信用LSIに関しては,SiGeとSOIの併用は,いまのところ考えていない。