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 今回の仕組みは,プログラム・カウンタ一致割り込みによってRAMの特定のプログラムにジャンプするように進化を遂げ,現在も活躍しています。例えば,フラッシュ・メモリ版で開発したマイコンをマスクROM版に変えたときに,フラッシュ・メモリ版とマスクROM版でアドレスが変わるのに気付かないことがありました。フラッシュ・メモリ版では0番地付近にフラッシュ・メモリの制御用プログラムが入っていたために,アドレスが変わってしまうのです。この不具合も,アドレスの番地をずらす修正用プログラムを作ることで直しました。

 シンプルなプログラムですが,絶大な効果を発揮しています。日本ビクターでは,例えばビデオカメラ部門でも年間20種類以上のマスクROM内蔵マイコンを作ります。このうち数種類は,今回の修正用プログラムで救済しています。初ロットで数万個は造り,マイコンの単価は数百円程度のことが多いので,廃棄せずに済む分だけで年間1億円以上の損失を防いでいるわけです。また,安心して安価なマスクROM版のマイコンを作れるので,そのコスト削減も考えれば,効果はもっと大きくなるといえます。

技術者必修の基本

 トラブルの経験を生かして新たな仕組みを開発するためには,プログラムによってマイコンがどのように動くのかを理解している必要があります。実際の動きが分かっていたので,RAM上にあるデータやフラグを操作してバグを回避することを思 い付いたわけです。ほとんどの制御はRAMに集中するので,今回の仕組みで9割以上の不具合に対処できるそうです。「課題を糧に,新たな発見・発明を行う姿勢が技術者に必要。そのためにも動作を理解しておくことが大事」とも知久氏は語っています。

 また,固定観念を振り払う必要もありました。当時のマイコンのマニュアルには,RAMはデータを格納するところと書いてあり,プログラムを書き込むという発想は一般的にはなかったそうです。その点に新規性があり,今回の方法は特許にもなりました(特許番号2689660)。また,そのころにマイコンの開発でこの方法を試したときは,ICE(in-circuit emulator)が内蔵RAMのプログラムを読むという機能を持っておらず(プログラム・カウンタがRAMに飛ばない),知久氏は当時単価が2000円程度したOTP(one time programmable)マイコンで検証しなければなりませんでした。