デジタル機器の進展に伴う 電子部品の技術動向と需要予測セミナーから
2000年2月10日に東京都内で開催された「デジタル機器の進展に伴う電子部品の技術動向と需要予測セミナー」(主催:日本電子機械工業会(EIAJ))での講演内容の概要を3回に分けて掲載する。第1回目は、「携帯電話用電子部品技術の動向」(発表は東光 コイル事業部商品技術部MGの篠田達史氏)についてである。
一台の携帯電話機に搭載される部品の数(員数と呼ぶ)は今後次第に減って行くと予想する。員数が増加する要素はあるものの、員数が減少する要素がそれを上回るスピードで浸透するからである。員数を減らす要素は大きく分けて三つある。
一つは、半導体製造技術の進展である。従来、集積化といえばベースバンドのディジタル処理回路が主役だった。しかし、今後は高周波(RF)回路の集積化が始まる。SiGeバイポーラ技術(関連記事)に代表される新プロセス技術が登場するからだ。集積化が進めば、周辺のR,L,Cが半導体チップに取り込まれる。さらにチップ間での信号をやりとりが少なくなるため、インピーダンス整合用の受動部品が減少する。
二つ目は、ダイレクト・コンバージョン技術(関連記事その1、その2)の実用化である。この技術はRF信号を中間周波数を介さずに、一気にベースバンド信号に変換するもの。従来の2段の中間周波数を介す、いわゆるスーパーヘテロダイン方式からダイレクト・コンバージョン方式に移行すればRF回路の部品コストは約30%下がる。このため、かなりのスピードでこの方式の採用が進むと見ている。一部では、GSM方式採用携帯電話機の約半数が1年後にダイレクト・コンバージョン方式に変わるという見方もある。
ダイレクト・コンバージョン方式の浸透で最も大きな打撃を受けるのは中間周波フィルタである。従来は、第1中間周波数用と第2中間周波数用で二つ使っていたが、この方式に変わればゼロになってしまう。
三つ目の理由は「IMT-2000」の実用化だ。この規格は、送信出力が小さい。たとえばGSM方式では2Wだが、IMT-2000ではその1/6に当たる250mWで済む(一部の特別な場合を除く)。送信電力が減少すれば、パワー・アンプのMMIC化が容易になる。この結果、周辺のR,L,CがMMICチップに取り込まれる。
マルチ・バンド化が部品員数を押し上げる
図1 携帯電話機に搭載される部品員数の変化
一方で、員数を押し上げる要素もある。これは大きく分けて二つある。
一つ目は、デュアル・バンド化/マルチ・バンド化である。たとえば900MHz帯と1.8GHz帯のGSM方式を1台で対応できる携帯電話機である。このトレンドが進めば、携帯電話機に使用する部品員数は大幅に増加することになる。共用できる部品もあるので、すべての部品で単純に2倍にはならないが、たとえば高周波部品は約1.5倍、インダクタは2倍になると見ている。
もう一つは携帯電話機の多機能化である。将来、携帯電話機は、単純な音声の送受信機能ではなく、データや映像などの情報の中核となる端末に進化する。これうぃ実現するため、今後さまざま機能が新たに搭載される。その具体的な例が「Bluetooth」だ(ただし今回は予測した時点でBluetoothの市場動向が不明確であったため、考慮していない)。RF回路のほか、EMI対策部品が大幅に増加することは確実である。
部品の市場規模は大幅増
部品員数が増加する要素と、減少する要素を考慮して算出した結果が図1である。結果としては、員数は次第に減少して行く。特にダイレクト・コンバージョン技術の浸透で、高周波部品が1998年の使用個数を100とすると、2002年には半分以下の45まで減少する。
ただし携帯電話機向け部品の市場規模は、今後も右肩上がりに増加して行く。携帯電話機の生産数量がもの凄い勢いで伸びるからだ。EIAJでは世界全体の携帯電話機生産台数を1998年の1億7000万台(実績値)から、2000年には4億台、2002年には6億8700万台、2004年には6億8900万台に伸びると予測している注1)。こうした携帯電話機の生産台数と部品員数を掛け合わした結果が表1だ。部品によって若干の違いがあるものの、年平均の成長率は約32.6%と大幅な伸びが期待できる。
表1 携帯電話機に搭載する部品の個数 2002年、2005年の予測は、すべての携帯電話機がシングル・バンドの GSM方式と推定して算出した結果である。すなわち最低、これ以上は期待 できるという数字である。 |
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1998年 | 2002年 | 年平均成長率 (2002年/1998年) |
2005年 | |
コンデンサ | 306億8300万個 | 1012万8300万個 | 34.8% | 926億1200万個 |
抵抗 | 184億1800万個 | 490億4900万個 | 27.7% | 317億7200万個 |
インダクタ | 27億3800万個 | 57億3300万個 | 20.3% | 33億8000万個 |
発振子 | 1億7000万個 | 6億3700万個 | 39.1% | 6億7600万個 |
高周波フィルタ | 23億7500万個 | 82億8100万個 | 36.6% | 74億3600万個 |
接続部品 | 40億8000万個 | 152億8800万個 | 39.1% | 155億4800万個 |
その他 | 15億3000万個 | 50億9600万個 | 35.1% | 40億5600万個 |
合計 | 599億9400万個 | 1853億6700万個 | 32.6% | 1554億8000万個 |
なお詳細については、日本電子機械工業会(ホームページ)が1999年12月に発行した「デジタル機器の進展に伴う電子部品の技術動向と需要予測-テレビ・パソコン・携帯電話-調査報告書」を参照。連絡先は電話(03)3213-1070。(山下)
注1)携帯電話機の市場規模に関しては、「各電子機器及び部品の需要予測について」(発表はローム マーケティング部2G主事の山田雅之氏)の講演から。