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流れるように動くグラフィックス

 ユーザーに操作を自然と感じさせている要素は,ユーザーの操作意図の判定だけではない。操作に応じて滑らかに動くグラフィックスの役割も大きい。

 iPhoneでは1画面に収まらないページやリストがあった場合,指でなぞったりはじいたりすることで,ページやリストをスクロールして閲覧できる。その動きは滑らかで,物理的な慣性や弾性を持っているかのようだ(図6)。例えば,リストが上端まで来ているにもかかわらず,ユーザーがさらに下にスクロールさせようとすると,あたかもリストに弾性があるかのような動きを示す。こうしたアニメーションを自然に見せるために,Apple社は操作を表示に反映させるまでの反応速度や,画面表示のフレーム速度に気を使っているはずである。

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図6 動的な表示を多用(約30秒の動画)
iPhoneのユーザー・インタフェースの大きな特徴は,指の動きに応じたアニメーションを多用していることである。膨大な曲目のリストなどをスクロールさせるとき,画面を勢いよくなぞるとリストが流れるように表示される。ユーザーが指を速く動かすほど,表示の動きの勢いが増す。また,リストが上端まで来たときにさらに下にスクロールしようとすると,リストの余白部分が現れ,あたかもゴムを引っ張ったときのように動きが鈍くなる。指を離すと,引っ張ったゴムが元の状態に戻るように,リストの上端まで戻る。

 こうした工夫によって,iPhoneのユーザーはタッチ・パネルを用いた直接操作に自然に慣れるとみられる。この結果,iPhoneでは通常のGUIで使っているウインドウ操作にかかわる制御要素を,基本的に画面から排除している。パソコンのGUIなどでは,ウインドウをスクロールさせるバーや矢印,ウインドウの拡大/縮小に使う領域などを明示的に表示する。iPhoneにはこのような要素がほとんどない。リストなどのスクロール中には,現在表示されている部分が全体のどれくらいを占めるのかを示すバーが表示されるが,スクロールが止まると消える。これらの制御要素をなくしたことが,前述したように画面がすっきり見える一因である注4~5)

注4)タッチ・パネルを使った直接操作には弱点もある。例えば,指でアルバムのジャケットをぱらぱらとめくるCover Flow機能では,アルバムの枚数が1万枚など膨大になったときに,快適に操作できない可能性がある。通常のユーザー・インタフェース設計では,数枚の場合と1万枚の場合を両立できる方法を考えるが,Apple社はあえてそこに踏み込んでいないようだ。リスト表示など,別の手段では高速にアクセスする方法を設けているため,Cover Flowは一般的な人が普通に使えればよいと割り切り,膨大なアルバムを持つヘビー・ユーザーにそれほど配慮しなかったのかもしれない。
注5)ユーザー・インタフェースの歴史から考えると,iPhoneはGUIとポストGUIのはざまにある製品とみなせる。これまでコンピュータのインタフェースは,物理的なボタンを用いる方法からコマンド・ラインでやりとりする方法,そしてGUIへ進化してきた。GUIの中でも,当初の静的な表現から,アニメーションや3次元グラフィックスを活用した豊かな表現に変わってきている。iPhoneは,Mac OS XのCore Imageを利用していることなどを含めて,GUIの進化の成熟過程にあるものといえる。一方で,GUI後のユーザー・インタフェースとして,画面だけではなく,音声認識,身振り,手振り,触覚などを利用する方法や,いわゆる実世界指向インタフェースなどが以前から研究されてきた。実世界指向インタフェースとは,実世界の物理的な空間の中で,例えば指で機器をさしただけでデータが移動するといった方法である。iPhoneのユーザー・インタフェースは,タッチ・パネルによる自然な操作など,ポストGUIの要素も兼ね備えている。