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 動的なユーザー・インタフェースとは,単に画面の間の遷移にアニメーションを使うといったものではない。動きによって,操作に意味を持たせるインタフェースである。静止画の場合は,どのような構成にすればユーザーの視線を導いたり,感情を伝えたりできるかが,理論や定石として整備されている。いわゆる「造形言語」と呼ばれるものだ。

 動きについては,これに相当するものがない。特定の動きの意味や,動きによってユーザーに何かを分からせるテクニック,人間が認知できる動きの量などを,今後理論化,ルール化していくべきだろう注6)。動的なインタフェースでは,どの部分に触れるかなどがiPhoneのように暗示的になることが多い。どのように操作をガイドし機能を実現するかは今後の課題だろう注7)

注6) ソニーは,「クロスメディアバー」などの動的なユーザー・インタフェースを製品に使っている。同社は,動くアイコンは複雑な絵柄でなく,なるべく簡単な表現にしようと配慮しているようだ。これは,ユーザーの認知負荷を減らし「軽い」印象を与えるためではないか。iPhoneが,具象的なアイコンを使っているのと対照的である。
注7) iPhoneの操作は,自分で触ってみたり,他人が使っているのを見たりすれば理解できる。しかし,そうする前には,どうやるのか分からない。それを許しているところに,Apple社の割り切りが感じられる。このような場合,日本のメーカーが採用する設計基準では,大抵何らかの手掛かりを画面に明示することが求められる。例えば,iPhoneでは曲目などのリストの全体を画面に表示できない場合に,現在の表示部分が全体のどの程度かを示すバーは,画面に触れてリストを動かすまで現れない。日本メーカーでは,最初からこのようなバーや,リストのスクロール用ボタンなどの表示を要求される。

評価から体験の設計へ

 もう一つの大きな問題は,開発段階で試作機の使い勝手(ユーザビリティ)を調べたときに,新規のユーザー・インタフェースの場合は得てして評価が低いことである。理由の一つは,試作機を使う想定ユーザーが,新しいユーザー・インタフェースに慣れていないこと。比較対象が従来の使い慣れたユーザー・インタフェースであれば,そちらの方が良い結果が出やすい。また,iPhoneのように操作感が重要な製品は初期の試作でチューニングが十分でなく,快適に使えないことが多い。これも,ユーザビリティ・テストで悪い評価をもたらす。つまり,初期段階で評価した結果,後から使い勝手が大きく向上するユーザー・インタフェースの可能性をつぶしてしまうことになる(図8)。


図8 初期段階で評価すると見誤る
先進的なユーザー・インタフェースを,ユーザーの習熟度や試作機の完成度を無視して既存のインタフェースと比較すると,当然使いにくいと判断される。

 これを避けるには,ユーザビリティ・テストを含めたユーザー・インタフェース設計全体の方向性を見直すべきだろう。これまでのユーザビリティ・テストは,悪い点を探し出して修正することを念頭に置いてきた。いわばマイナスをゼロにする方法である。これに対して,プラスの価値を生む方向で,開発を進める動きがある。具体的には,ユーザーの体験を設計するという発想である。

 例えば,ファクスのユーザー・インタフェースの改良を考える。従来のユーザビリティ・テストでは,各種のボタンの配置や色,操作手順をどのように設計すれば使いやすくなるのかを対象にしてきた。ユーザーの体験という発想では,そもそもユーザーが何をしたいのかから設計を始める。ファクスでは,ユーザーはボタンを押したいわけではなく,紙の内容を複製して相手に送ることが目的のはずである。さらに,「こんなふうに送りたい」「本当は手渡したい」といった要求があるかもしれない。こうした要求を実現するために,機器やユーザー・インタフェースはどのような姿になるべきかを設計していくわけである。