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Qualcomm社 CEOのPaul E.Jacobs氏
Qualcomm社 CEOのPaul E.Jacobs氏
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 LTEやWiMAX,HSPA Evolutionなど,移動体通信の世界に今,新たな技術が導入されようとしている。システム構成によっては,現行の10倍以上となる数十Mビット/秒~100Mビット/秒の高速データ通信が移動体環境で実現される可能性がある。このような新技術を,移動体通信機器向けチップセットを手掛けるQualcomm社はどのように分析しているのか。同社CEOのPaul E.Jacobs氏に,移動体通信の将来を聞いた。

――現在,移動体通信の世界では,LTEやWiMAXなど,伝送速度の向上を目指してOFDMAを採用する方式に注目が集まっている。Qualcomm社はこの状況をどう見ているか。

Jacobs氏 まず,ユーザー・スループットを向上させる無線リンクの改善は既に,限界に近いところまで来ていると思う。これは,HSPA+(いわゆるHSPA Evolution)とLTEを比較して見るとわかりやすい。両者の無線リンクを比較すると,周波数利用効率の差がわずかに10%程度に過ぎない。この程度の向上幅は,ほとんど雑音に埋もれてしまいそうなほど小さい。

 ユーザー当たりのパフォーマンスを向上させる手法は無線リンクの改善のほかにも考えられる。より高速なパフォーマンスを得ようとする場合には,より多くの帯域幅を使い,より多くのデータ・ビットを送るというという考えが主流だが,もう一つの手法として,密度の濃い基地局の配置がある。基地局と端末を密接に近づけるというものだ。現在,盛んに議論されるようになってきたフェムトセルも,このようなコンセプトの一例である。

 ただし,マクロセルの基地局と同様の周波数にフェムトセル基地局を設置して使うと相互干渉が生じ,ネットワーク容量の減少を引き起こす可能性が高い。我々はその影響を調査するために数年前,ノート・パソコン程度の大きさの基地局を作り,ホテルや家やオフィス・ビルに実際に設置して,フェムトセルとマクロセルを混在した場合のネットワークへの干渉の状況を調べた。結論としてやはり干渉があった。干渉を低減するには,フェムトセルとマクロセルの基地局が干渉を避けるために,お互いに情報をやりとりすることが必要だろう。

 今後,無線LANのアクセスポイントのように,買ってきたフェムトセル基地局をユーザーが自由に設置するという世の中がやってくる。こうした時代に備えて,フェムトセル基地局が,マクロセル基地局ときちんとやりとりできるようにしなければならない。我々の調査では,これによって8倍くらい,ユーザー当たりのスループットを向上できるとわかった。振り返って考えると「8倍の向上」は,携帯電話の方式がアナログからデジタルに変わったときと同じくらいだ。これは本当にエキサイティングな事実だと思う。

 これだけの効果が得られる事実に,我々は大変強く関心を持っている。注意してもらいたいのは,これは無線リンクの改善だけで成し遂げられるものではないということだ。あくまでも,システムとしてのパフォーマンス向上である。基地局のマネージメント技術が,次世代の移動体通信技術で大変重要になると思っている。具体的には,相互干渉の軽減や,ユーザー端末ごとの送信出力マネージメント,あるいはどの基地局にどうやってアクセスするかをきちんと制御するといった用件が含まれる。

――OFDMAなどの無線リンクの技術よりも,システム全体をマネージメントすることのほうが大事ということか?

Jacobs氏 マッチ・モア・インポータント(ずっと重要)だ。OFDMA自体は,決して高いパフォーマンスを約束するものではない。ビット単価がわずかに下がる程度にとどまる。OFDMAといった無線リンクの技術だけでなく,その周囲のシステム特性を向上させる技術のほうが,重要性は高い。次世代移動体通信技術には,違うアプローチをとるべきというのが私の持論だ。確かにたくさんの企業が,OFDMAの利用を声高に叫んでいる。しかしOFDMAの適用を喧伝する理由は,ほとんどビジネス的な理由や,アライアンスによる理由であって,技術的な理由に基づくものではない。技術的な意味では,LTEであろうとWiMAXであろうと,3Gのパフォーマンスをそれほど大きく超えるものではない。

――世の中の話題では,OFDMAが中心だ。Qualcomm社も,「UMB」というOFDMA利用の次世代方式を提案している。UMBとLTEを,今後どう扱って行くのか?

Jacobs氏 我々はUMBに関して,タイム・ツー・マーケットのアドバンテージを持っていると自負している。しかし,かつてCDMAに我々が取り組んだときと比較すると,UMBへの注目度は小さいといわざるを得ない。携帯電話事業者各社は現段階で,LTEの採用に向かっていると認識している。一方で我々は既に,OFDMAで商用サービスに使える技術を開発したFlarion社を手中に収めている。さらにUMBの研究開発により,OFDMAの知見/経験も数多く持つようになった。それは今後,LTEの活動に貢献することになるだろう。

――LTEの普及活動において,特許の扱いは非常に重要だ。既にLTEを推進する各社は,特許の利用に関するフレームワークを立ち上げている。Qualcomm社は,LTEのパテント・フレームワークに入る可能性はあるか?

Jacobs氏 今の状況は,昔のW-CDMAの時にとても似ているね。我々は,オペレータをより快適で,かつ高収益にすることに興味を持っている。しかし,パテント・プールのようなものに加わるのは,「ノット・エキサイティング」だと思う。

――なぜ,パテント・プールには入らないのか?

Jacobs氏 我々は3GにおけるCDMAライセンスの際には,個々の交渉を当事者間できちんとやってきた。この仕組みがうまくいったため,たくさんの特許を一度にメーカーに提供できる体制につながった。メーカーごとに,カスタマイズして供給もできている。それは,これまで非常にうまく機能してきたと思っている。我々のライセンス形態は,不透明でもないし,ロイヤルティも決して高すぎるとは思わない。それは本当にうまく機能してきたんだ。

――ITU-Rはいよいよ来年から,次世代移動体通信システム「IMT-Advanced」の提案募集を開始する。LTEは,その候補技術のベースの一つになりそうだ。Qualcomm社はどのように関わる予定なのか?

Jacobs氏 当社は,IMT-Advancedの標準化には,非常にアクティブに関わるつもりだ。とても強い関心を持っている。先ほど述べたような,ネットワーク・コンフィギュレーションような技術を,どんどん提案していくつもりである。

LTEなど次世代通信に関する特集記事を,日経エレクトロニクス9月8日号に掲載予定です)。

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