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図1◎DMG社では珍しい低価格の値札を見て足を止める来場者。同社は「価格破壊」とうたっている
図1◎DMG社では珍しい低価格の値札を見て足を止める来場者。同社は「価格破壊」とうたっている
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図2◎使い勝手の良い仕様で造った立型3軸MC。主要部品がドイツ製,非主要部品の製造と組立作業を中国が担当し,高い品質を維持したまま価格を安くした
図2◎使い勝手の良い仕様で造った立型3軸MC。主要部品がドイツ製,非主要部品の製造と組立作業を中国が担当し,高い品質を維持したまま価格を安くした
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 本体前面に目立つように大きく書かれた「6万4900米ドル」(約700万円,1米ドル=108円換算)という低価格の値札(図1)。これを目にした多くの来場者が足を止める。安さを武器にする工作機械メーカーの展示でしばしば見られる光景だ。だが,ここではそれは珍しい。これまでむしろ高機能・高剛性で価格も高い製品を積極的に展開してきたドイツDMG社のブースだからだ。同社に対する従来からのイメージと,「価格破壊に挑戦」(同社)と銘打った新しい工作機械とのギャップに,驚きの声を上げる来場者もいた。

 この工作機械は,立型3軸制御マシニングセンタ(MC)「DMC 635 V ECO」(図2)。最大出力13kWで,最大回転数8000rpmの主軸を搭載し,X,Y,Z軸の速送り速度で25m/秒を実現。20本の工具を収納できるツールマガジンを備え,1.6秒で工具を交換する使い勝手の良い仕様だ。自動車部品や医療系部品など幅広い部品の加工を対象とし,600kgまでのワークを切削できる。DMG社が新たに展開する低価格モデル「ECOLINE」シリーズの一つである。

 同シリーズを展開できた背景には,「ドイツと中国の協業」(同社)体制の構築がある。中国のコスト競争力を生かしつつ,DMG社の高い品質と信頼性を維持したのだ。主軸やガイドウェイ,NC装置,ボールねじなど主要部品はドイツから提供し,それ以外の本体カバーや鋳物部品といった部品は低価格な中国製のものを利用する。もちろん,最終組立作業は中国の安い労働力に頼るのだ。

 だが,工作機械は厳しい精度や信頼性が求められるため,組立作業に相応の技能が必要となる。このために,中国人作業員の育成に力を入れているという。まず,ドイツから高い技能を備えた社員を中国に派遣し,中国人作業員に対して工作機械について基礎からみっちりと3カ月間学ばせる。続いて,もう3カ月間を使って生産現場で組立作業を実地指導し,さらに3カ月間で中国人作業員をドイツに送り込み,生産効率を高める方法などについて学ばせるという。

 なぜ低価格モデルを造ったのか。同社の技術者は「市場があるからだ。顧客のニーズがあり,それに応えるのが工作機械メーカーの仕事だ」と語る。顧客志向を貫いたということだが,もちろん,ビジネスとしての成算もある。一つは,低価格モデルを望む「ローエンド」と呼ばれる顧客のボリュームが大きいことだ。1台ごとの利益が多少薄くても,数を売ることで利益の総額は大きくなる可能性がある。中国を例にとると,経済が発展した沿岸部の顧客は高級機種を求める声が多いが,内陸部はそこまで発展していないこともあって,これまでのDMG社の高い機種は買えないと言う顧客が多いという。だが,こうした内陸部には大量の「潜在的な顧客」がおり,DMG社は大きなビジネスチャンスと見た。

 DMG社への「ファーストステップ」(同社)という狙いもある。入門機としてこの低価格モデルを顧客に買ってもらい,同社へのロイヤルティーを育んでもらう。すると,次の機会には利幅の大きな高級機種を購入してもらえる確率が高まるという考えだ。例えば,先の中国内陸部の顧客がビジネスで成功し,技術力を蓄えて豊富な資金も持つようになったら,その顧客はより付加価値の高い仕事(加工)を求めていく。そのときに,DMG社の高級機種に対する有望な顧客になるという考えである。

 加えて,2台めの需要だ。既にDMG社の高級機種を所有しているが,仕事が増えた。しかし,それほど高機能の工作機械は必要ないという顧客に向けて販売するのだという。

 DMG社はこの低価格モデルを全世界で販売する。このうち,中国だけで「760台/年」(同社)販売する計画だという。