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図1◎工作機械を操作する作業員の育成システム「MORI SEIKI UNIVERSITY(MSU)の一画面。分かりやすい描画で従来よりも簡単に学ぶことができる。
図1◎工作機械を操作する作業員の育成システム「MORI SEIKI UNIVERSITY(MSU)の一画面。分かりやすい描画で従来よりも簡単に学ぶことができる。
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図2◎コントロールパネルの画面。実物にできる限り忠実に描いており,例えば,スイッチを押すと,液晶パネルの画面もそれに応じて変わる。
図2◎コントロールパネルの画面。実物にできる限り忠実に描いており,例えば,スイッチを押すと,液晶パネルの画面もそれに応じて変わる。
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図3◎ノギスの使い方を教える画面。初心者も意識し,こうした基本中の基本から学べるようにしている。
図3◎ノギスの使い方を教える画面。初心者も意識し,こうした基本中の基本から学べるようにしている。
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図4◎粉じん吸引装置「Zerochip」。グラファイトやCFRP製ワークを削った際に排出される粉じんを回収する。
図4◎粉じん吸引装置「Zerochip」。グラファイトやCFRP製ワークを削った際に排出される粉じんを回収する。
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図5◎グラファイトを削って出た粉じん。機械の故障や人体の健康を損ねる可能性が指摘されている。
図5◎グラファイトを削って出た粉じん。機械の故障や人体の健康を損ねる可能性が指摘されている。
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図6◎工具先端に見える穴。ここから粉じんを吸い取る。
図6◎工具先端に見える穴。ここから粉じんを吸い取る。
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図7◎粉じん吸引装置を使った加工の様子。排出される粉じんが見えない。
図7◎粉じん吸引装置を使った加工の様子。排出される粉じんが見えない。
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 「脅威とは感じないが,少し嫌な存在になってきた」。森精機製作所のある役員は,安さを武器に米国市場で販売台数を稼ぐ韓国や台湾メーカーについてこう感想を述べる。韓国Doosan社のような大手の販売台数は「森精機製作所の約2倍」(同役員)。数が多ければ,当然,コスト競争力でも新規顧客の開拓でも有利になる。現に,米国の多くの顧客が,こうしたアジアの低価格メーカーの工作機械にお金を払っている。この現実が森精機製作所の視界にも入ってきたということだろう。

 ただし,依然,森精機製作所がアジアの低価格メーカーと「競合するような状態にはない」(同役員)ようだ。それは,アジアの低価格メーカーの安さの“カラクリ”を次のように分析し,しかるべき手を打っているからだ。

 まず,オリジナリティーがほとんど見られない。日本メーカーが開発し,市場で高い評価を得た新しい工作機械を模倣して,数年後によく似た製品を出してくる。はっきり言えば,日本メーカーのコピーだ。「森精機製作所が数年前に開発したが,その後,改善のために構造を変えた製品がある。ところが,ある韓国メーカーが造った機械を見ると,当社が改善する前の構造のままだった」と同役員は証言する。この「模倣戦略」により,開発や設備投資の費用を浮かせる。

 加えて,補給部品を含めたサポート(アフターサービス)体制が手薄だという。工作機械は売りっぱなしではなく,購入後の顧客へのサポートが重要となる。加工技術が高度かつ複雑になっていることもあって,中にはスキル不足などの理由でトラブルを起こしたり,壊したりする顧客がいる。こうした顧客に対し,迅速な対応が工作機械メーカーに求められるのだ。この点で,アジアの低価格メーカーは森精機製作所ほど充実していないという。そのため,「3~5年ほど前に韓国メーカーの機械を買ったが,サポートが悪くて日本メーカーの製品に戻ってくる顧客もいる。サポート体制を当社並みに充実させると,とてもあれほど(日本メーカーの8~6割)安く販売できないだろう」(同役員)。

 こうして日本メーカーには掛かっている費用を節約しつつ,売れ筋モデルを大量に造って,規模の論理でコスト削減を実行する。これにより,「当社にはできない」と日本メーカーの社員が口をそろえる低価格をアジアメーカーは実現しているというのだ。

 この分析からアジアの低価格メーカーの“弱点”を把握した森精機製作所は,この弱点を衝いて差を広げる戦略を採っている。その一つは,サポート体制の充実だ。米国シカゴ市で開催されている工作機械見本市「IMTS2008(シカゴショー)」(2008年9月8~13日)で,同社は工作機械を操作する作業員の育成システム「MORI SEIKI UNIVERSITY(MSU)を発表した。

 米国では工作機械関係の技術者が少なくなっていることや,転職が多いという背景がある。その上,先述の通り,工作機械が高度化・複雑化しているため,工作機械を一人前に操作して,ワークをきちんと加工できる作業員を育成することに,顧客は時間もお金も手間も要している。こうした顧客の負担を軽減するために,同社は,パソコン(PC)を使ってオンラインで森精機製作所の工作機械の操作を習得するシステムを開発したのである。

 24時間アクセスできるため,いつでもトレーニングできる。3次元の描画は見やすく,技能のない作業員でも理解しやすい(図1)。実物のハードウエアをできる限り忠実に再現していることも特徴で,例えば,PC画面上でダイヤルを回すこともできるし,コントロールパネルのスイッチを押すことで,液晶パネルの画面を変えることもできる(図2)。

 同社の製品の操作だけでなく,全くの初心者向けに図面の見方や,ノギスやひずみゲージの仕組みや使い方といった,工作機械を操作する以前の基本的なことまで学ぶことができる(図3)。そのため,森精機製作所の工作機械を全く使ったことのない人が早期に操作できるようになるだけでなく,新入社員教育などにも利用できる。

 そして,アジアの低価格メーカーに対して差を付けるもう一つの取り組みは,やはり,常に新しい技術を開発し,それを他社に先んじて工作機械に投入して付加価値を高めることだ。「先端を走って早く売れば,確実に勝てる」(同役員)と踏むからである。現状では,森精機製作所と韓国メーカーとの技術的な差を,この役員は「5軸MCと3軸MCの差」と表現する。要は,韓国メーカーは3軸MCのような汎用の工作機械では十分な精度を出せるが,5軸MCのような先端の工作機械では満足のいく精度を出せないという指摘だ。

 この技術的な優位を常に保つべく,森精機製作所は他社に先駆けた技術開発を積極的に続けている。今回のIMTS2008では,グラファイトやCFRP(炭素繊維強化樹脂)の加工向けに,粉じん吸引装置「Zerochip」を発表した(図4)。

 グラファイトやCFRP製ワークの加工は,航空機業界向けに増えている。ところが,これらの材料を削ると,金属とは異なり,細かな粉じんが排出される(図5)。この粉じんは工作機械の内部に入り込むと故障の原因になるほか,人体への悪影響も心配されている。そこで,森精機製作所はこの粉じんを,加工しながら回収するシステムとして新しい粉じん吸引装置を開発した。

 簡単に言えば,「工作機械に掃除機を付けたもの」(同社の社員)。ワークの加工で出た粉じんは,工具の先端の穴に入り(図6),内部に軸方向に設けた貫通穴を通って,次に主軸内部にあるクーラント(スピンドルスルークーラント)の配管を通り,工作機械の背面に設置した集じん装置のフィルタでこし取る仕組みだ。これにより,95%の粉じんを回収できるという(図7)。

 姑息な手は不要。工作機械メーカーとしての王道を行けば勝てる──。これがアジアの低価格メーカーへの森精機製作所の対抗手段と言えそうだ。