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 現在開催中の電気情報通信学会の2008年ソサイエティ大会(2008年9月16~19日,明治大学 生田キャンパス)では,メタマテリアルを利用した伝送技術の研究発表が相次いだ。村田製作所,三菱電機,NEC,NTTドコモなどのメーカー,通信事業者が発表した。大学の研究者による発表が多かった従来と比べ,メーカーのメタマテリアルに対する注目度が大きく高まっているようだ。

既存の受動部品をメタマテリアルの基本構造に利用

 メタマテリアルは,誘電体や磁性体の基本要素となる原子や分子を模した「単位セル」と呼ぶ基本構造を多数並べることにより,素子全体としての実効的な誘電率や透磁率を従来材料では得られなかった値にする,材料や回路の設計手法である。単位セルは,人工分子などとも呼ばれる。単位セルは,利用する電磁波の波長よりも十分小さい寸法であることが必要条件である。

 村田製作所は,「アンテナなどを大幅に小型化する」(同社)などの目的で,同社の各種の受動部品をメタマテリアルの単位セルとして用いる研究を進めている。今回は,同社の巻線型チップ・コイル「LQW15AN43N」18個を直径3mm,長さ約6mmの円筒の上に放射状に並べて,実効的な誘電率や透磁率を測定した(講演番号:C-2-33)。このチップ1個の寸法は,1.0mm×0.5mm×0.5mmである。

 結果は,コイルを円筒に垂直に立てた場合に,コイルの線路長の2倍の波長に対応する周波数(今回は約3.6GHz)で,誘電率が負になった。一方,コイルの側面を円筒にはわせる格好で配置すると,透磁率が負になった。「コイルを円筒に対して45度傾けて配置すれば,誘電率と透磁率を同時に負にできるだろう」(同社 技術・事業開発本部 材料開発統括部 機能材料研究部 上級研究員の東條淳氏)。

 村田製作所は,今回のチップ・コイルのほかに,積層セラミック・コンデンサを単位セルとして用いると,素子の実効的な透磁率の値が負になることも確認済みという。
 

結合器の長さが従来の1/7に

 三菱電機は,右手/左手系複合(CRLH:composite right-/left-handed)線路を用いた「蜜結合フォワード・カプラ」について発表した(講演番号:C-2-31)。フォワード・カプラは,マイクロ波帯の周波数を扱う高周波回路における結合器の一種。2本のマイクロ・ストリップ線路を近接させて信号をやり取りするものである。

 目的は小型化。今回の結合器のS41(一方の線路への入力端子からもう一方の線路の出力端子につながる経路)における結合度は3dB,結合線路長は24mmである。同じ結合度の右手系結合器と比較して,結合線路長は約1/7になったという。

基板中の不要電磁場対策に

 NECシステム実装研究所と日本電気特許技術情報センター(以降,NEC)は,「メタマテリアルの一種のEGB(electromagnetic bandgap)」(同社)と呼ぶ構造を備えた基板を設計し,基板中を伝わる不要電磁場を遮断することを目指した研究について発表した(講演番号:BS-3-5)。

 EGBは,想定する電磁波の波長より小さい寸法の構造を周期的に並べたものである。金属原子が周期的に並んでいることによりBlochの定理によって,半導体などのバンドギャップ(禁止帯)が計算できるのと同様,EGBにも特定の周波数帯の電磁波が透過できなくなる特徴がある。NECは,この性質を利用した基板を設計することで,最近,無線の送受信端末の小型化で無視できなくなってきた基板のEMC問題の解決を目指しているという。

 EBGは,波長が可視光帯になると「フォトニック結晶」と呼ばれる。三菱電機や村田製作所が研究しているメタマテリアルとは,理論的アプローチが異なっている。ただし,分子を模した単位セルを利用して,実効的な誘電率や透磁率を制御するという目的は同じで,単位セルもメタマテリアルのものとよく似ている。

電波の反射角を自在に設計

 NTTドコモは,携帯電話向け電波の反射板を,伝送線路型メタマテリアルの理論に基づいて設計した(講演番号:B-1-60)。この反射板は,高層ビルの谷間などに設置して,電波が届かない領域を減らすために用いるものである。

 メタマテリアルを用いた反射板は,実効的な屈折率(=誘電率と透磁率の積の平方根)の値を制御することで,電磁波の反射の方向を変えられるのが特徴である。NTTドコモは「テーパ付きマッシュルーム構造」と呼ぶ周期構造を設計し,その反射方向を詳細に調べた。

【訂正】記事初出時に電気情報通信学会の開催場所を間違って掲載しておりました。正しくは,明治大学 生田キャンパスです。ご迷惑をおかけいたしました読者の皆様 ならびに関係各社に深くお詫び申し上げます。記事本文は既に訂正済みです。

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