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 ここ数年,CEATEC JAPANでひときわ大きな人気を集めるイベントがある。村田製作所が開発した自転車ロボット「ムラタセイサク君」の実演だ。

 ムラタセイサク君の活躍の場は,CEATECに限らない。いまやセイサク君は,全国の小中学校で引っ張りだこの存在だ。未来の子供たちに科学技術の面白さを伝道するため,「出前授業」という形で日本中をめぐっている。

図1 ムラタセイサク君のイトコ,ムラタセイコちゃん
図1 ムラタセイサク君のイトコ,ムラタセイコちゃん (画像のクリックで拡大)

 そんなムラタセイサク君に今年,イトコの女の子がいることが判明した(Tech-On!関連記事)。名前は「ムラタセイコちゃん」。一輪車でバランスよく駆け回るその姿は,CEATEC JAPAN 2008でも大いに観客を沸かせそうだ。

 このムラタセイコちゃんが生まれたきっかけの一つには,出前授業での子供たちの要望があったという。ムラタセイサク君の開発に関わり,出前授業の講師として全国を飛び回っている同社 広報部 企業広報課 ムラタセイサク君 開発スタッフ 係長の吉川浩一氏に,ムラタセイコちゃん開発の経緯を聞いた。。

(聞き手=浅川 直輝)



――ムラタセイコちゃんを開発したいきさつを教えてほしい。

吉川氏 2005年にCEATECではじめて「ムラタセイサク君」をお披露目して以来(Tech-On!関連記事),2006年,2007年と,主にソフトウエアの改良でバージョン・アップさせた。今回は,ムラタセイサク君の大幅なモデル・チェンジという位置づけだ。

 モデル・チェンジのきっかけは,社内風土改革の一環として,ベテランと若手とが自由に議論するミーティングを開いたことだ。このとき,参加者から「もっとパフォーマンスを高めたセイサク君を作りたい」という提案があり,ベテランと若手が入り混じって大いに議論が盛り上がった。セイサク君は,自転車に乗ったまま静止する「不倒停止」を実現して話題になったが,今度はもっとすごい事をしたい,と。

 そこで今回は,一輪車に挑戦することになった。実は,一輪走行するロボットは,セイサク君を使った出前授業でも子供たちから多くのリクエストをもらっていた。「ウィリーをしてほしい!」「僕は,自転車だけじゃなくて一輪車にも乗れるよ。セイサク君は乗れないの?」といった具合だ。

 セイコちゃんの開発を担当したのは,電子部品の加工装置を開発していた8名の技術者チームだ。微細な部品を精密に加工するのに必要な制御技術を,セイコちゃんの姿勢制御に生かした。本業の傍らで開発に取り組み,約半年をかけて完成させた。

――新ロボットを小柄な女の子に設定した理由は。

図2 ムラタセイコちゃんのデザインの原型。セイサク君を追いかけるのが好きというキャラクター設定である
図2 ムラタセイコちゃんのデザインの原型。セイサク君を追いかけるのが好きというキャラクター設定である (画像のクリックで拡大)

吉川氏 女の子という設定は,海外の顧客から「MURATA BOY(セイサク君の英語名)があるのに何でMURATA GIRLがないんだ」と言われたことが一つのきっかけ。幼稚園児という設定にしたのは,ムラタセイサク君より小さいロボット,という位置づけを明確にしたかったからだ。セイコちゃんの外装は,CADオペレータをしていた美大出身の3人の女性社員がデザインした。

――ムラタセイコちゃんの制御技術について教えてほしい。ムラタセイサク君とはどう違うのか。

吉川氏 左右のバランス維持については,セイサク君と同じく,角速度センサとフライ・ホイールを組み合わせた。角速度センサで左右の傾きを検知し,胸の部分に搭載したフライ・ホイールにモータで回転力を与え,その反作用で姿勢を維持する。

 一方,新たに加わった前後の傾きについては,角速度センサで傾きを感知し,その傾きと同じ方向に一輪車の駆動力を与えることでバランスを保つ。倒立振子と同じ原理だ。

 前進させる時には,常に体を一定の角度だけ前に倒すよう制御する。これにより,常に一輪車に前方への駆動力が掛かるようになる。後進するときは体を後ろに倒している。フライ・ホイールの下には超音波方式の測距センサが組み込まれており,前方の物体と一定の距離で追従することができる。「セイコちゃんは,ムラタセイサク君の後ろをついて回るのが好き」という設定を反映させた。

――開発で苦労した点は。

吉川氏 ムラタセイサク君より部品点数が増えたので,小さい筐体に部品を詰め込む作業には骨が折れた。

 例えばムラタセイサク君の場合は,精密なトルク制御が可能なモータはフライ・ホイール向けの1個で良かった。だがムラタセイコちゃんの場合は,2軸でバランス制御を行うため,フライ・ホイールに加えて一輪車駆動用のモータが必要になった。このモータおよびモータ・アンプの増加分だけでも相当に空間を占有する。

図3 スカート部にまで部品を詰め込んだ
図3 スカート部にまで部品を詰め込んだ (画像のクリックで拡大)

 部品点数が増えたなら外装を大きくすればいいのだが,外装をデザインした女性社員が,ムラタセイコちゃんをこれ以上太らせることを許してくれなかった。このため,基板や電子部品を3次元的に詰め込むことになった。実は,あのスカートの中にも部品が詰まっている。

――今後,ムラタセイコちゃんやムラタセイサク君をどのように進化させるのか。

吉川氏 まずセイコちゃんについては,曲がれるようにすることと,坂が登れるようにすることが目標だ。いずれの動作も,次に行うべき動作を予測するフィード・フォワード制御が不可欠になる。例えば,坂道を走る場合には,体が同じ傾きであっても,坂道の傾きを検知して平地より駆動力を高める必要がある。曲がる場合にも,あらかじめ軌跡を設定して,傾きや駆動力を計算する必要がある。これまではセイサク君もセイコちゃんもほぼフィード・バック制御のみで動作していたので,難易度は一段高まる。

 このほか,出前授業に参加した子供たちからは,セイサク君にやって欲しい事が多く寄せられた。例えば・・・

 「倒れたら,自分で自転車を起こしてほしい」
 「自転車にケンケン乗り*1してほしい」
 「泳いでほしい」
 「空を飛んでほしい」

*1 片足をぺダルに乗せ,もう片方の足だけで地面を蹴りだしながら自転車にまたがる乗り方

 ・・・村田製作所のキー・デバイスを使いながら,子供たちの期待に応えるような機能を追加しなければならないのが,とても頭が痛いところだ。

【動画】一輪車に乗った「ムラタセイコちゃん」をビデオでご覧いただけます(制作=BPtv)

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