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 東レは,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使い自動車向けのプラットフォーム(前部フロア)を10分以内に成形する技術を確立し,前部フロアの試作品を公開した。プラットフォームに限らず,構造部品全般に適用できるという。今後は,材料や成形法の改善を進め,サイクルタイムを5分以内に縮めることを目指す。

CFRP製前部フロアの試作品。大きさは,全長約1.8m×全幅1.6m。質量は約15kgで,同じ形状を鋼材で造った場合の半分程度だという。
CFRP製前部フロアの試作品。大きさは,全長約1.8m×全幅1.6m。質量は約15kgで,同じ形状を鋼材で造った場合の半分程度だという。 (画像のクリックで拡大)

 同技術は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「省エネルギー技術開発プログラム『自動車軽量化炭素繊維強化複合材料の研究開発」において,東レが日産自動車と協力して開発したもの。2005年の中間評価時点では,ドア・インナーパネルの成形に成功していた。前部フロアは,ドア・インナーパネルよりもはるかに形状が複雑である。この前部フロアを成形できたことから「構造部品全般に(同技術を)適用できるメドが付いた」(東レコンポジット開発センター所長の関戸俊英氏)。

こちらは,CFRP製ドア・インナーパネル。大きさは,約1.2m×0.8m。
こちらは,CFRP製ドア・インナーパネル。大きさは,約1.2m×0.8m。 (画像のクリックで拡大)

 東レでは,新技術を「ハイサイクル一体成形技術」と呼ぶ。この技術は,Resin Transfer Molding(RTM)法に大幅な改良を加えたもの。炭素繊維の織物(クロス)を裁断して細かな細かなパーツとし,それらを張り合わせた上でプレス機によって成形し「プリフォーム」を造る。このプリフォームを型内に設置し,型を閉じてエポキシ樹脂を注入。エポキシ樹脂を炭素繊維クロスに含浸させることで複合材料とする。

大まかな成形サイクル。RTM法に比べて自動化を進めている。
大まかな成形サイクル。RTM法に比べて自動化を進めている。 (画像のクリックで拡大)

プリフォーム。炭素繊維は,産業用途向け汎用品である「トレカT700」(東レ)を使用。径は7μm,フィラメント束数は2万4000(24k品)。引っ張り強さは5GPa,引っ張り弾性率は235GPaである。
プリフォーム。炭素繊維は,産業用途向け汎用品である「トレカT700」(東レ)を使用。径は7μm,フィラメント束数は2万4000(24k品)。引っ張り強さは5GPa,引っ張り弾性率は235GPaである。 (画像のクリックで拡大)

 成形サイクルタイム(プリフォームの設置から成形品の取り出しまで)は,RTM法では160分と長く,自動車部品の量産に適用できるレベルではなかった。ハイサイクル一体成形では,ほとんどの作業を自動化した上,樹脂の特性や注入方法を工夫し,サイクルタイムを10分以内に短縮している。

エポキシ樹脂注入方法の工夫。1点ではなく多点から注入する。
エポキシ樹脂注入方法の工夫。1点ではなく多点から注入する。 (画像のクリックで拡大)

赤色の丸で囲った部分は,エポキシ樹脂の注入部分(ゲート)。ゲートの間隔は,100~200mm程度がいいという。
赤色の丸で囲った部分は,エポキシ樹脂の注入部分(ゲート)。ゲートの間隔は,100~200mm程度がいいという。 (画像のクリックで拡大)

 サイクルタイムの短縮に関しては,ドア・インナーパネルを試作した時点でほぼ達成していたが,前部フロアの試作に当たり,新たな技術に挑戦した。それは,発泡材(フォーム材)をプリフォームで包んで,エポキシ樹脂を含浸させることによる「サンドイッチ構造」を実現したことである。これによって,炭素繊維の使用量を抑えつつ構造部材を太くできる(断面積を大きくできる)ので,断面2次モーメントや断面2次極モーメントが向上し,曲げやねじりに強い部品を造れるという。前部フロアの試作品においては側面のサイドシルと呼ぶ部分にこのサンドイッチ構造を適用した。フォーム材の厚さは3~4cm程度とし,周囲をCFRPで覆っている。

サンドイッチ構造にしたサイドシル部分。比重の小さいフォーム材を使うことで,炭素繊維使用量や質量増加を抑えつつ,断面積を稼げる。
サンドイッチ構造にしたサイドシル部分。比重の小さいフォーム材を使うことで,炭素繊維使用量や質量増加を抑えつつ,断面積を稼げる。 (画像のクリックで拡大)

 今回の試作によって,構造部材全般にハイサイクル一体成形を適用できることは確認できたが,自動車メーカー側でCFRP製の構造部材を使うノウハウがまだ確立されていないため,早期の実用化は難しいと東レはみている。そこで同社では,ボンネットやルーフといったパネル部材で2010年ごろでの実用化を目指す。