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 東北大学大学院工学研究科金属フィロンティア工学専攻の石田清仁教授の研究グループは,成形加工性に優れたCu-Al-Mn(銅・アルミニウム・マンガン)系形状記憶合金を利用した陥没爪向け矯正器具を開発した。仙台赤十字病院の皮膚科は,この矯正器具を陥没爪向けの新しい治療法として,治療の同意を得た患者に適用し,優れた治療効果を持つことを確認,実用化のメドをつけた。

 足の親指に生じる“巻き爪”などの陥没爪疾患は,患者数が多い一般的な爪の疾患だが,外科的な治療法以外には効果的な治療法がない。このため,東北大大学院の工学研究科,多元物質科学研究所,先進医工学機構などで編成された研究チームはCu-Al-Mn系形状記憶合金の超弾性効果を利用したバネとして働く治療用クリップを開発し,陥没爪に装着し続けて陥没した爪が元に戻る応力をかけ続けることが優れた治療効果を持つことを実証した。

 塑性変形させても温度変化を与えると元の形状に戻る形状記憶合金は現在,復元力に優れたTi-Ni(チタン・ニッケル)合金の独擅場になっている。一時期,銅系(主にCu-Al-Zn系=銅・アルミ・亜鉛系)や鉄系(主にFe-Mn-Si系=鉄・マンガン・ケイ素系)などの形状記憶合金も開発され,一部は製品に応用されたが,温度変化に対する復元力が不足していたり,温度変化に対する対応が遅いなどの課題を解決できず,事実上は製品化が断念されたままになっている。

 市販されているTi-Ni形状記憶合金は,厚さが薄い板状か線状の素形材が供給されている。Ti-Ni形状記憶合金の板状の素形材は,難加工材であるために,陥没爪の先端に被せるクリップ形状に成形加工しにくい問題があった。このため,研究チームの石田研究室の大森俊洋助教は,成形加工性に優れたCu-Al-Mn系形状記憶合金を開発し,クリップ状の矯正器具を作製した。このCu-Al-Mn系形状記憶合金は形状記憶効果を示す相転移温度を-数10℃に設定できるため,室温では常に元の形状に戻ろうとする超弾性効果を発揮する。大森助教は形状記憶合金製の薄い板に折り曲げ加工をした小さな“ツメ”を施したものや,「口」の字状を偏平させたものなどの矯正クリップを試作し,固定の仕方を工夫した。

 仙台赤十字病院の皮膚科は,この試作クリップを陥没爪治療に同意した患者12人に適用し,最長13週間装着し続けた結果,平均で1~3週間で治るという良好な結果を得た(注:同皮膚科は,陥没爪の治療に協力していただける方には,同矯正クリップを適用する方針という)。足の親指に矯正用クリップを装着し,脱落しやすい場合には,紙製かエラストマー製の絆創膏(ばんそうこう)で保持するようにした。現在,研究チームは正規の治療法としての製品化を目指している。